35話 亡国の皇
「炎渦」
アルヴィスの言葉と共に、俺達の周りは一気に炎に包まれた。炎は激しい音を立てて、燃えさかっている。まるで、俺達の心の中を表しているかのように。
「これで、誰も来られまい」
そう言うとアルヴィスは持っていた剣を抜いた。
そして、その瞬間俺の目の前へと剣を振りかぶったアルヴィスは現れた。
「所詮お前は妖狐、全ての神通力を手にした私の前では敵わぬよ」
アルヴィスはこちらに激しい剣戟を仕掛けながら笑みを浮かべる。
しかし、今まで、リラやシータの剣を受けてきた俺からすると、アルヴィスの剣術はそこまで脅威ではない。
アルヴィスの攻撃をはじくと、その隙を突いてアルヴィスの右腹部に向けて俺は龍神の剣を振るった。しかし剣は鈍い音と共にアルヴィスの身体に止められたのだ。
「っ……!」
こちらの隙を見逃さないとばかりにアルヴィスは、攻撃を仕掛けてくる。それをなんとかかわし、間合いを開ける。
少し動揺が顔に出てしまったのだろうか。アルヴィスはこちらの様子を見ると、再び笑みを浮かべ、声を上げる。
「お前、夜叉の力を知らぬのか?」
そういえば、夜叉の神通力自体は聞いたことがなかった。他の種族の神通力で、知っているのは大神の風切位である。
――夜叉の力、それは肉体強化じゃ。強靱な肉体を武器に夜叉は肉弾戦を得意とするのじゃ
「肉体強化…… 剣も通らないって……」
少し汗がしたたる。これは、戦いによるものなのか、はたまた、焦りからくるものなのか、俺には考えている余裕はなかったが。
しかし、どうしたものか。
近距離での戦闘はこちらに不利である。それに距離を取ったところで、妖狐の力と風切を使うアルヴィスの前ではこちらの有利にはならないだろう。
「参ったね……」
そして相手にはまだ知らぬ大蛇の力もある。
「サクヤ、大蛇の力は分かる?」
そして再び、アルヴィスが目の前へと現れる。向こうは接近戦を望んでいるようだ。確かに近接ならば妖狐の神通力の強さを抑えられるであろう。
アルヴィスの激しい攻撃は今のところ防ぐほかない。下手に攻撃を加えようものならこちらに隙が出来ることは目に見えている。
――大蛇の力は再生じゃ!下手の攻撃では再生してしまう。再生する前に一気にたたみかけなければなるまい!
サクヤの言葉に、俺は絶望に浸る。
再生って、こんなばかげた力なのに、さらに再生するのか……
――イーナ!接近戦は避けるのじゃ!リラが使っていた技じゃ。
そう、確かに凍らせれば風切は使えまい。
アルヴィスの猛攻を防ぎ、なんとか距離を置く。
「氷の世界」
俺の言葉と共に、周辺が一気に氷に包まれる。俺達を囲っていた炎も氷によって消え去った。アルヴィスは再び笑みを浮かべながらこちらに向けて言葉を放つ。
「ほう、流石オリジナル…… 神通力の力では敵わぬな」
そう、こいつらがいくら神通力を使うとは言え、持っている遺伝子は妖狐の1/4である。妖狐の神通力も俺達に及ばないだろうし、風切も大神のものに比べればずっと遅い。もしも、風切のスピードが大神と同じなら、今頃俺はここに立ってはいないだろう。
「魔法の打ち合いなら負けないよ」
俺はアルヴィスに向けて手を伸ばす。
「炎渦」
俺の言葉と同時にアルヴィスの周りは一気に炎に包まれた。
そしてすぐに、アルヴィスはゆっくりと炎から出てきたのだ。顔面の皮は剥けている。身体の一部はまだ燃えているようだ。そして、ゆっくりと笑いながらこちらに向けて言い放った。
「ふはは、やるではないか九尾。流石に効いたぞ」
そういうアルヴィスの剥けた皮の内面には、傷一つない綺麗な皮膚が見える。
「大蛇の力……」
「そうだ、脱皮による再生。この4つの神通力が使える以上、俺は無敵なのだ」
アルヴィスは高らかに笑う。
そして、アルヴィスはこちらに向けて手を伸ばす。
――まずい、イーナ!
サクヤが叫ぶ前に俺もアルヴィスに向けて手を伸ばしていた。もうやるべき事は分かっている。
そして2人の元から放たれた魔法は俺達の中間で衝突し合い、俺達は爆風によって思いっきり飛ばされたのだ。
「っつ……」
なんとか受身を取って立ち上がる。
「ぐっ……」
吹き飛ばされたアルヴィスも同様に体制を整える。
「アルヴィス……!」
俺の言葉にアルヴィスは口を開く。
「そろそろ、決着を付けようではないか九尾」
そう、決着の時は刻一刻と迫っていた。




