34話 夜叉の未来
宮殿へと入った俺達を待っていたのは2人の男であった。その男を見て、ミドウは小さく呟く。
「ナオビ……」
その目線の先には、六芒星の赤眼をもつ男、ミドウの息子であろう、夜叉の血を継ぐ若い男が立っていた。羽織っているマントは風に揺られ、男は冷たいまなざしをこちらへと向けている。
「皆、情けないな。なあナオビ」
もう1人の男はナオビへと向かって話しかけた。先ほどまでは異なり男は鎧をまとってはいなかった。その代わり、明らかに身なりからは高尚な存在である事がうかがえた。宮殿とは正反対の豪華絢爛と行った衣装であった。
「あなたが…… アルヴィス……?」
俺の言葉に、アルヴィスは答えた。
「そうだ、亡き帝国の復興を誓い、俺達は長きにわたって、研究を重ねた。そして、寄生虫の力で、お前達の様な神通力を得られたのだ!」
「寄生虫の力……?」
俺の問にさらにアルヴィスは答える。
「リラは言っていた。俺達の中にも、確かに神通力の力は眠っていると。俺達は、その力を呼び起こす方法を必死に探ったのだ。そして、見つけた。ある生物の力を用いれば、人間でも神通力とよばれる力が使えるようになるとな!」
アルヴィスの言葉に、俺は問いかけた。
「なら…… 今世界に流行っているという奇病は……」
「あれは失敗作だ。大いなる犠牲は払ったが、俺は帝国を代償にこの力を得たのだ。だからこそ、帝国を再び蘇らせなければならない!」
さらにアルヴィスは続けた。
「九尾、温羅、この世界に神は4人はいらない。俺1人で十分なのだ」
そう言うとアルヴィスは1人奥へと歩いて行った。
「こい、俺が直接、引導を渡してやろう」
明らかにアルヴィスはこちらを誘っているようだ。まるで準備された処刑台へと誘うように。それでも、行くしかあるまい。それが俺の役目だ。
「イーナ!私は決着を付けねばならんことがある。アルヴィスはお前に任せても良いか?」
決着とは夜叉内の話だろう。それは俺が決して関与出来るものではない。
「分かった。 そっちは任せたよミドウさん!」
そして俺はルカとテオ、ナーシェに向かって言った。
「ルカ、テオ、ナーシェ……みんなはここにいて。私が決着を付けてくる」
皆ついて行きたいという顔をしていたが、明らかにここからは危険である。連れて行くわけにはいかない。
「大丈夫。私を信じて」
その言葉に皆が頷く。
そして、俺は1人、アルヴィスの待つ奥へと進んでいった。
「なあ、ナオビよ。私達も決着を付けねばなるまい」
ミドウはナオビに向かって言う。ナオビは静かに答える。六芒星の視線が静かに、だが激しく交差する。
「夜叉は落ちぶれた。だからこそ、俺が再び強い夜叉を作らなければならない。お前を超えて」
そう言うと2人の拳は交じり合った。激しい肉弾戦である。お互いに向いている方向は違えど、夜叉を背負うもの同士の戦いと言っても過言ではないだろう。
「ナオビ、お前の求める強さとはなんだ?」
ナオビの強い右拳を左手で受け止め、ミドウはナオビへと尋ねた。
「なぜ夜叉を変えようとする?」
ミドウの質問にナオビは質問で返す。
「前までの夜叉のやり方は間違っている。そう思ったからだ!」
ミドウの想いを込めた右パンチはナオビの顔へと入ったようだ。
「くっ……」
ナオビは少しよろめきながら、力を込めて答える。
「人間は利用してこそだ。夜叉こそが一番強くなければならない!」
そう言うとナオビはやり返すかのようにミドウの顔面に右パンチを入れる。
こうなると、戦争と言うよりももはや親子げんかといったものに近いのかも知れない。
ミドウは頬を拭いながら、ナオビに問いかける。
「その結果どうだ? 今や夜叉は人間の前では敵わなくなりつつある。だからこそ、これからは種族関係なく手を取り合っていかなければならないのだ!」
再びミドウのパンチがナオビへとはいる。
「くそったれ…… お前がそんな甘いことを言ってるから夜叉が落ちぶれたんじゃねえか!」
ナオビの拳はミドウの腹部へとはいった。ミドウは少しよろめいてやり返す。
「だからこそ帝国を利用し、人間をつぶそうとしたのか?浅はかな奴め……」
ミドウの拳がナオビのみぞおちへとはいる。
「ぐっ……」
お互いの重い一撃一撃に、ミドウ、ナオビの口からは血が零れていた。
「どっちにしても、あんな女じゃアルヴィスは倒せない……」
「それはどうかな? お前は何も分かってないな」
そしてミドウの右フックがナオビの左頬へと直撃する。
「お前はいつもいつもそうやって!俺を子供扱いしやがって」
ナオビも負けじとやり返す。
気付けば、防御もせずに2人は殴り合っていた。お互い、立つのも限界が近いようである。
ナオビはよろめく身体にムチを打って、動き出した。
「俺は…… 強い夜叉の為に、親父には負けられないんだよ!」
そう言いながら放った右拳はミドウのみぞおちへとはいったようだ。ミドウがよろめく。しかし、ミドウは両足にぐっと力を入れ、その一撃をこらえ、ナオビにカウンターパンチを放った。
「いつまでも、子供でいれると思うな!」
ミドウの一撃は再びナオビの顔面へとはいった。そして2人共に崩れ落ちたのだ。
もはや満身創痍となったミドウは、同じく、床へと転がるナオビに対して一言呟いた。
「ナオビ…… 答えはあの2人が出してくれる…… 私が正しいか、お前が正しいか、あとはあの2人に託そうじゃないか」
ナオビは苦しそうに、一言呟いた。
「くそったれ……」
俺はついに、そこへとたどり着いた。全ての元凶の目の前へ。
「アルヴィス…… お前だけは許さない」
そう、サクヤだけじゃない、人々を苦しめた全ての元凶。そいつは不敵に笑って、こちらに言い放った。
「どちらが世界の神か…… 決めようではないか」




