207話 積み上げてきたもの
「やっぱり……私の説明がもう少し上手く出来ていれば……」
会議が閉幕し、大多数の王達が後にした部屋で、私はすっかり凹んだ状態で、思わずそう呟いてしまった。もちろん、長年王として君臨し続けてきたタルキスの王であるリチャードや、エンディアの王であるイナンナ、それに生まれつき王族として生きてきたノア達と私では比べること自体が失礼であると言うことはわかりきっていたことではある。それでも、もう少し上手く出来ると、私自身そう思っていた。ある意味では思い上がりに近かったのかも知れない。私にとって初めての王達との会談は言ってみれば大失敗と言ってもいいだろう。
「過ぎたことを言っても仕方が無いだろう。お前も言っていたではないか。駄目で元々、協力が得られれば幸運であると。それに、お前の言葉を信じて残ってくれた者もいるだろう」
タルキスの王リチャードは、私を励まそうとしてくれたのだろう。檄を飛ばすように力強くそう告げてくれた。
「ありがとう、それに、残ってくれたみんなも居るのに、自分の事ばっかりで失礼だったね。もう変なことは言わないよ」
確かにほとんどの国々の王はそのまま会議室を後にしたが、リチャードが言ったように、残ってくれた国の王も少しではあるがいたのである。リチャードと話していた私の元に、ターバンの様な帽子を被り、見慣れない衣装をまとった1人の若い男が近づいてきた。
「シーアンの異常は俺達ラナスティア国も察知していてね。シーアンの連中が領土を拡大しようと企んでいるなら、次の標的はエンディアか俺達だろう。ならば黙って居るというわけにはいかないんだ。俺達も同盟に参加させてもらう」
「相変わらずだな、スヴァン。だが協力してくれるというのなら、こんな心強いことはない」
「それにしてもタルキス王も隅に置けないねえ。イナンナと言い、こんな嬢ちゃんと言い、モテモテときたもんだ」
「あの……リチャード王、このお方は?」
「おっと、ご挨拶が遅れて申し訳ない。俺はタルキスから東に行ったところにあるラナスティア国王子スヴァン。それにしても……イーナかあ……うん……まあイナンナには負けるけどなかなかの上玉だねえ」
「スヴァン、お前こんな時まで…… イーナ、彼は見ての通り軽い奴だが、信用は出来る。そもそもラナスティア国を呼んだのは私とイナンナだ。タルキスからシーアンに向かうルートが二つあることはイーナ、お前も知っているだろう」
「うん、エンディアを通る海ルートと、山ルートでしょ?」
「そう、その山ルートの途中にある古くから栄えた国、それがラナスティアだ」
ラナスティアの王子、スヴァンと名乗る男は、厳ついリチャードを全く意にも介さないようで、飄々と言葉を続けた。
「まあ、今やエンディア国さんの方ばっかり通るようになって、すっかり勢いはなくなっちゃったんだけどね!これでも昔は大国と呼ばれた国なんですよ。ぜひ、これからも良い関係を…… 個人的にもね……」
爽やかな笑顔を浮かべながら、私へと手を伸ばしてきたスヴァン。ふと、最後に小さく呟いた言葉が気になったが、まあ今は細かいことは気にしないようにしよう。協力してくれると言うだけでありがたい話である。それに、シーアンからの二つのルートを抑えることが出来るのであれば、こちらとしても願ったり叶ったりであるのだ。
「イーナさん、気にしないでください。彼にとっては挨拶のようなものですから」
冷静に言葉を挟んできたのは、イナンナであった。もうすっかり手慣れた様子で、淡々とスヴァンに接していた。
「イナンナ、そりゃないぜ。俺はいつだってイナンナ女王に本気だって言うのに」
「あら、今目の前でイーナさんを口説いていたのは私の聞き間違いでしょうか?」
「それくらいにしておけ。イーナ他にもお前と話したがっている王がいるようだぞ」
リチャードの言葉に、私も視線をずらすと、確かに2人の王が私達に話しかけようと、こちらの様子を伺いながら待っているようであった。
「ごめんなさい、すっかりお待たせしてしまって!改めてご挨拶をさせて頂きます!レェーヴ連合国のイーナと申します!」
「あなた方と同じく、アーストリア連邦に属するヴェルツィア国代表、ロッテルと申します。私達ヴェルツィア国も是非協力させて頂きたい」
「同じくアーストリアに属するクロム王国のカカだ。俺達はシャウン国に大きな恩がある。俺達でも役に立てるというのなら、ぜひこの力を役立ててもらいたい」
すると、挨拶をしたロッテルとカカの後ろから、ノア王と、総司令である教官がこちらへと近づきながら私に向かって話しかけてきた。
「元々、彼らは父の代よりもずっと前からシャウン王国と親交があった国の王達です。私も昔から彼らとは親しくさせてもらっていました。彼らならきっと協力してくれるはず、そう思って、今日彼らを呼ばせて頂きました」
正直、私の会議での説明は大失敗であったのは事実である。それでも、これだけの国の王達が協力をしてくれるというのは、シャウンやタルキス、そしてエンディアの王達が今まで積み上げてきたものの、まさに結晶であるのだ。その積み上げてきたものを私が裏切るわけにはいかない。だからこそ、私はやるしかない。
「皆さん……本当にありがとうございます!これだけ……これだけ集まってくれたなら、きっと私達の力でこの危機を乗り切れるはずです!よろしくお願いします!」




