177話 火の無い所に煙は立たぬ
「ルカ、みんなと飛空船のこと、頼んだよ!」
ルカに龍神の剣の1本を託し、私はルウの背中へとまたがった。そして今度は、すでに飛び立つ準備が出来ているルウに声をかける。
「ルウ、よろしくね!」
「もちろんです。任せて下さい」
もう一組、リンドヴルムとミズチの方に目をやると、2人もいつでも大丈夫だと言わんばかりに、こちらに視線を送ってきた。正直、リンドヴルムは少し心配ではあるが、ミズチと一緒ならば大丈夫だろう。
「飛びますよ!しっかり捕まって下さい!」
ルウの身体が地面からゆっくりと宙に浮いていく。手を振りながら、私達を見送ってくれているルカ達がどんどんと小さくなっていった。
「イーナ様!何か見えますか?」
眼下に広がる森を遥か遠くまで見通せる高さまで上がってきたところで、ルウが、私に問いかけてくる。眼に入ってくるのは、一面の緑。遙か遠くには、うっすらと山々が見えるが、見渡した感じ、特に何か鳳凰らしき生き物が飛んでいるというような様子も見られなかった。
「今のところ、何にも!ミズチ達は?」
同じく空へと飛び上がった、ミズチとリンドヴルムの方に向けて叫ぶ。
「こっちも、何も見当たらない!どうするイーナ?」
「話してたとおり、手分けして周りの様子を探ってみよう!とりあえず、私達はこっちに行ってみる!」
「じゃあ、俺達は逆方向だな!イーナ迷うなよ!」
「夕方までには戻ってくることね!湖の位置だけ、忘れないようにして!」
拠点のすぐそばにある、大きな湖。空から見ると、ここだけぽっかりと穴が空いているようになっており、遠くからでも湖の位置は、ある程度なら分かる。とはいっても大自然の中、暗くなってしまえば、湖がどこにあるかなんてわからない。暗くなる前に帰ってくると言うのは、ここで生き残るためには絶対に守らなければならない条件の一つである。
「わかった!気をつけるんだぞ!」
ルウの背中から、周りの様子を探りながら、飛行を続ける。代わり映えのしない風景に、すぐに探索にも飽きが生じてきた。ルウも耐えかねてか、私に向かって語りかけてくる。
「それにしても……森が広がっていると言う事以外……何もわかりませんね…… 鳳凰、そして白の十字架という奴らは本当にここにいるのでしょうか?」
「ロックの話が本当なら、ここにいるはずだけど…… これだけ広いとなると、なかなか見つけるというのも簡単じゃないよね」
代わり映えのしない景色の中を、どんどんと進んでいく。すると、しばらく飛行を続けた後に、遠くからうっすらと煙が上がっているのが見えた。
「ルウ!あそこ!」
「ええ、イーナ様。煙……でしょうかね?この森林の中にも人間が住んでいるのでしょうか?」
「その可能性もあるし…… もしかしたら、奴らのキャンプかもしれない。火事でなければ、誰かがいる可能性が高いとは思う……」
もし白の十字架の連中があそこにいるとしたら、このまま行くと言うのは危険が伴う行為である事は重々承知している。だけど、もしかしたらこの森に住んでいる民族がいるのかもしれないし、何より鳳凰がいると言った可能性だってある。
「イーナ様、どうしますか?もう少し近くに寄ってみましょうか?」
「そうだね!でも慎重に行こう!近くに降りて、最後は徒歩で行った方がいいかもしれない!」
「そうですね、ならばこのままぎりぎりまで近寄ってみます!」
だんだんと遠くに見えていた煙が近づいてくる。どうやら、煙の上がっている場所は、少し開けた場所のようである。近づくにつれて、立ち上がっていた煙が複数ある事に私は気付いた。おそらくは村……
だが、どちらにしても慎重に行った方が良いことには変わりない。大森林の中でひっそりと暮らしている人々ならば、外部からの来訪を良しとしない風習がある可能性だって大いにあり得るのだ。
「ルウ!そろそろ降りれる?」
「わかりました!捕まっていて下さいね!」
煙が上がっていた場所から少し離れた森の中にルウは降り立った。相変わらず深い森、油断すればすぐに方向がわからなくなってしまいそうな森である。降りたってまもなく、まだ記憶が新しいうちに、私達は煙の上がっていたであろう方向へと歩を進めていった。
薄暗い森の中をひたすらに突き進むことしばらく、だんだんと木々の合間からさしてくる光が多くなっていく。開けた場所が近づいてきているという証拠でもある。
「イーナ様……!森の出口!見えましたよ!」
ルウの言葉通り、すぐに視界は開けた。飛び込んできた風景は、おそらくこの森に住んでいる人達の村……であった場所のようだ。家々はぼろぼろに壊され、崩れた家々からは所々煙が天まで立ち上っている。私達が見ていた煙の正体もおそらくはこの煙だろう。
「イーナ様、これって……?」
「とりあえず近づいてみよう…… 誰もいなさそうではあるけど……」
村からは人の気配は全くと言って良いほどしなかった。ある意味人がいないというのは、調査をするのには良いチャンスでもある。人気が無い村に向かって、私とルウは進んでいった。だが、私達の目に飛び込んできたのは、衝撃的な光景だった。




