170話 王と女王
リンと行動を共にする事を決めた翌日。私達は、リーハイにある、シーアン王宮へと向かっていた。リンは、早速旅立ちの準備があると言うことで、今日一日は私達と別行動である。だが、むしろ、その方が好都合であったかも知れない。
「イーナさん、大変お持たせしました。先日のご無礼をお許し下さい。お恥ずかしながら、今シーアン国内の情勢は揺れており、その分、私もその対応に追われておりまして……」
「いえいえ、こちらこそ突然来たのにも関わらず、ご対応頂きありがとうございます。改めてにはなりますが、レェーヴ連合国代表イーナと申します。王とこうしてお話を出来る機会を設けて頂いた事、大変光栄に思っております」
そのまま社交辞令のような挨拶が続く。先に本題を切り出してきたのは、ワン王の方であった。
「書状を読ませて頂きました。イーナさん、あなた方は鳳凰と霊亀に会いに来たようですね」
ワン王の言葉に力強く頷く。
「鳳凰は、シーアンの民にとって、まさに守り神のような存在。昔から、目撃情報はいくつかあるものの、私達にも詳細は不明です。そしてもう一つの霊亀。こちらについては、私もあまりよくわかりませんが……山のような亀の伝説はちらっと耳にしたことがあります。ここから遙か西、ローシャ地方の奥地では似た様な伝説が伝わっているようです。ただ……」
「何か、問題があるんですか?」
ワンの表情は少し困っているような様子に見えた。
「西に住む人々は、モラ族と呼ばれ我々シーアン国の領土に住んでいながら、文明と共に暮らすのを拒む人々なのです。今まで幾多もの争いが起きました。それでも彼らは力強く生き残ってきた。今や、ローシャの奥地まで足を踏み入れる者は多くはありません。命の保証が出来ないからです」
山奥に暮らす、文明を拒絶する人々。まあありがちな話である。いずれは向かうことになるとしても、そう言う話となれば、まずは比較的平和そうなローナン地方の方から先に攻めるという方が得策そうである。
「貴重な情報ありがとうございます、王様。私達も、ある程度鳳凰についての情報は調べておりました。早速ではありますが、明日よりローナン地方の方に向かおうと思っていたところです」
「……ローナン地方は、古くは農業で盛んな豊かな土地でした。ですが、ちょうど数十年前からほんの数年前まで、ローナン地方は争いの中心にありました。今は特に治安も悪く、なかなかに危険な場所です。それでも向かうのですか?」
もうその話は、すでに聞いている。今更それで怖じ気づくような話でもない。私は再び力強く頷いた。
「わかりました。本当はお供の者でもお付けさせて頂きたい所なのですが……リーハイから動かすというわけにも行かず、お力になれなくて申し訳ないです」
ワンは申し訳なさそうな様子で頭を下げた。だが、私達の方こそ、こんな私達の身勝手で、王に頭を下げさせていると言う事自体が、大変申し訳なかったのだ。あわてて、私もワンをフォローするように言葉を返す。
「大丈夫です!こちらの方ですでに案内はお願いしました!それに、私達には護衛は不要ですよ!彼ら……ミズチとリンドヴルムは非常に強いですから!」
――おい……イーナ……
――そういうことにしておいた方が都合が良いかなって思って!
「そのようですね!きっとあなた方なら大丈夫でしょう!ですが、どうかお気をつけて…… よからぬ組織が動いているという噂もありますので……」
ワンの言葉に、私達の空気も変わる。よからぬ組織……もしかして……
私は、少し緊張しながら、ワンへと尋ねた。
「その組織って……?」
「私が王である事に、不満を持つ勢力…… 軍も全力を挙げて動向を探ってはいるのですが…… なかなか尻尾がつかめないのです。外から来たあなたたちには、関係ないと言えば関係ないのですが、万が一と言うこともありますので……」
どうやら思っていた組織とは違うようだ。この国もこの国でなかなかに苦労しているようである。まあ、確かにこれだけ若い王となれば、面白くないと思う連中もいるだろう。
「ご忠告ありがとうございます、王様」
そのまま、私とワン王との会談は幕を閉じた。




