159話 フラッシュ!
「全然効いてなさそうだね……」
確かに、リンドヴルムの攻撃は当たったはず。どうやら雷魔法に雷魔法をぶつければ倒せるという、単純な話ではなかったらしい。
「イーナもう一度やるか!?」
リンドヴルムが大きい声で私に聞いてきた。リンドヴルムの頭の中には、手の内を隠すという発想は無いようである。冷静に突っ込みを入れたのはミズチである。
「この馬鹿、相手にも聞かせてどうする?」
「しまった!」
ミズチの言葉に慌てるリンドヴルム。全く…… 戦闘中だというのに緊張感のない男である。すっかり麒麟もあきれた様子で、リンドヴルム達のやりとりを眺めていた。
今の反応を見ている限り、アイルと違って麒麟に雷魔法は効かないだろう。いくら撃ってもおそらく無駄だ。戦いながら観察していてわかったことだが、アイルの場合、自らの身体に電気を流すことで、いわばドーピングのような使い方をしていたが、麒麟の場合は違うようである。
雷が効かないとわかった以上、次の手を考える必要がある。
「いつまでなめた口をきいていられるか楽しみじゃな……」
麒麟は再び激しい電撃を打ち出してくる。一歩間違えれば、大ダメージを食らうだろう。そんな緊張感の中、攻撃を一つ一つ間違えないように、捌いていく。炎の魔法、それにこの目があるからこそ、何とか対処は出来ているが、それにしても厄介極まりない。どうにかして、あの麒麟の遠距離攻撃を無効化する方法はないか……
「どうした……先ほどまでの威勢の良さはどこへ行ったのだ?」
麒麟の雷撃はより激しさを増していく。行ってみれば完全に劣勢。そろそろこの状況が続くというのもまずい。
そもそも麒麟はどうやって魔法を使っているのか……
麒麟の攻撃のメカニズム。それを見定めさえすれば、活路は見えてくるだろう。何とか激しい攻撃を受け流しながら、麒麟の動きに注視する。麒麟の攻撃は魔法と言うよりも、天然の雷を利用して攻撃しているように見える。よく見ると、麒麟が攻撃する瞬間、頭部で光る二本の角に雷が落ち、強力な雷攻撃を打ち出しているのだ。
おそらくは、雷をあの角にため込み、そこから一気に放散しているのだ。つまりは、麒麟は雷鳴山に鳴り続けている雷。あのエネルギーを利用して魔法攻撃を使っている。いわば、あの角は魔鉱石のようなものであろう。それならば、先ほどからこんなに激しい攻撃を続けながらも、一切マナ切れしなさそうな麒麟の様子にも合点がいく。
私が言うのもなんだが、なかなかにチートじみた力である。自然を利用して攻撃しているというのなら、無限に戦えると言っても過言ではない。少なくとも、このまま行けば、先にマナが切れるのは私達だろう。
だが、仕組みがわかれば、対処法を考えると言うことも可能である。もし、雷を利用して攻撃しているというのなら……
「イナンナさんちょっと話があるんだ」
そう、私はここで一つの考えが浮かんだ。それには、イナンナの協力が必要になる。私はイナンナの耳元で小声で考えを伝えた。
「……そういうことなんだけど、出来るかな?」
なかなか無茶な提案である事はわかっている。だが、イナンナは無理だというような様子を一切浮かべずに、私の提案に笑顔で返してきた。
「なるほど…… やってみる価値はありそうですね……ですが、少し時間がかかります。それまで私は戦えなくなりますが……」
「問題ないよ!どの位かかりそうなの?」
「出来るだけ急ぎますが…… 15分…… 最低でもそのくらいは必要です」
「何をごちゃごちゃ話しておる…… 策ごときで、わしの力に敵うとでも思っているのか?」
麒麟は私達の様子が気に食わなかったのか、さらに激しさを増した攻撃を繰り出してくる。早速イナンナは準備に入ったようだ。今の私の役割は、イナンナを守りながら、麒麟の攻撃に耐えること。もはや落雷の連続で、目や耳がおかしくなりそうである。だけど、文字通り、麒麟攻略の光は見えたのである。
果たして光がどちらに味方をするのか…… それは神のみぞ知る話であるのだ。




