155話 やたらと雷には縁があるみたいです
雷鳴山に向けて進んでいた私達は、今日の目的地である兵士達のキャンプへとたどり着いた。
「女王様!はるばるのお越し、ありがとうございます!もしや遂に……」
「ええ、いよいよ明日、降誕の儀に臨みます。ですが、安心してください。心強い方々がいるので、今度こそは麒麟を打ち破って見せます」
「女王様……失礼ですが、彼らは一体……?」
最初は女王の方に向いていた兵士達の目が、私達へと向けられる。それはそうだろう。彼らは私達のことを知らない。見知らぬ者達が、女王と共にいると言う状況は、彼らからしたら気になるのも無理はない。
「エンディア国と、新たに同盟を結んだレェーヴ連合国の女王イーナさん、それにそのお連れの方々です。彼らも一緒に戦ってくれるとのことです。彼らの力があれば、必ずや勝利をつかめるでしょう」
「レェーヴ連合……?」
兵士の1人が、レェーヴ連合という名の国など、全く聞き覚えの無いと言った様子で、女王に尋ねた。女王は、兵士達に説明を続ける。
「アーストリア連邦にて最近出来た国だそうです。イーナさんは、あのタルキス王も認めているお方なんですよ」
「なんと……それは心強い味方ですね!イーナ様!皆様何卒よろしくお願い申し上げます!」
とりあえずは、キャンプの兵士達にも受け入れてもらえたようだ。まずは一安心である。ここで揉めたりするようなことがあれば、それこそ麒麟討伐どころの話ではなくなってしまう。
「みなさん、目の前の山が雷鳴山です。このキャンプから先は、基本的には立ち入りが禁止されている地域。降誕の儀が執り行われる場所までは、ここからもう少しかかります。出発は明日の明朝。今日はせめて、ゆっくり休んでください」
イナンナが指し示した先、そこには山頂を分厚い雲を覆い隠された大きな山々が連なっている。キャンプ周辺ですら灰色の大きな雲に日の光も遮られ、すっかり周辺も薄暗くなっている。時々、灰色の分厚い雲が稲光を帯び、発光している様子が、少し離れた場所にいた私達にもはっきりと見えた。
「なんか、ル・マンデウスを思い出すね……」
「なんだか懐かしい気分になります」
黒竜と、そして白の十字架の2人と激闘を繰り広げたル・マンデウス。ルウも故郷のことを思い出しているのだろうか。感慨深い様子でぽつりと呟いた。
突如、激しい閃光と共に、轟音がキャンプへと鳴り響く。ルカとナーシェは驚き、怯えた様子で、すぐに私へとくっついてきた。どうやら、キャンプの近くに雷が落ちたらしい。
「大丈夫です。近くに落ちただけですから、この周辺は雷が鳴り止まないのですよ。でもキャンプは安心です。近くに避雷塔が立ってますからね」
イナンナは平然とした様子で、笑顔を私達に向けた。私だって、ちょっと驚いてしまったが、良く周りを見渡すと確かに、周囲には数本の鉄製の高い塔が建っていた。一体、どうやって建てたんだろうか……?塔を建てるというのでも命がけである。想像しただけでも恐ろしい。
それにしても、どうやら先日から、私はやたらと雷に縁があるらしい。リンドヴルムもそうだし、ル・マンデウスで激闘を繰り広げたアイルだって雷の力を使いこなしていた。
もういっそ、帰ったら雷の魔鉱石をアマツに譲ってもらおうかな……
それから、明日の段取りを確認する作戦会議と、兵士達が用意してくれた食事を済ませ、ようやく私達はキャンプの一室に置かれていたベッドへと腰を下ろした。イナンナ達は、少し広めの私達だけの部屋をあてがってくれた。部屋と言っても、ベッドがいくつか置かれただけの質素なものである。この人里離れたキャンプでは特段することもない。明日に備えて、さっさと寝てしまった方が賢明であろう。
「いやああ!」
再び、閃光と共に大きな雷鳴が響く。声を上げたのは、ナーシェであった。
「大丈夫ナーシェ?明日はここにいても大丈夫だよ」
「だ、大丈夫です!雷くらい平気です!」
何とか寝床に横になるも、時々鳴り響く雷が気になってなかなか寝付けない。それは皆も同じようだった。
「こんな音の中寝れないよ!イーナ様!」
我慢も限界だったようでルカが、声を上げる。すると、皆もルカに呼応されたかのように起き上がった。
だが、1人だけ、すっかり眠りの世界に誘われていた者もいた。リンドヴルムである。
「リンドヴルム、気持ちよさそうに寝ているね……」
「こういう時には、うらやましいとすら思えるな」
「元々、リンドヴルム様は雷の魔法を使うので……慣れているのでしょう」
気持ちよさそうに眠るリンドヴルムを見ていると、なんだか緊張の糸もついついほどけてしまいそうになる。それはミズチやルウも同じだったようで、皆笑みを浮かべながら、ただリンドヴルムを眺めていたのだ。
「雷相手となれば、リンドヴルムの力が必要になるだろうから、ゆっくり休ませておいてあげようよ!」
少し部屋の中はリラックスした空気に包まれ、再び皆はそれぞれの寝床へと戻っていった。私もベッドに転がりながら、明日出会うはずであろう麒麟について想像を膨らませていた。
一体どんなモンスターなんだろうか。私の知っている麒麟と言えば、馬みたいな身体をしているものしか知らない。それに、コミュニケーションは取れるのだろうか。
そんな事を考えていると、いつの間にか私はすっかり眠りの世界に入っていたのである。




