150話 高みを目指して
エンディア修行その一。
マナを使いこなすためには、心と身体のバランスがしっかりと取れていなければならない。そのために、瞑想を行うというのが、一日のはじまりである。目を瞑り、呼吸を整え、心を落ち着かせる。
「喝!」
「いてえ!」
突然に、鋭い音と共に、リンドヴルムの声が響き渡る。
「心が乱れておる!邪念を払うじゃ!」
リンドヴルムにとってはちょうど良い修行なのかもしれない。そんな事を思っていると、急に、私の肩にも鋭い痛みが走る。
「今邪念が見えたぞ!」
それからもリンドヴルムが叩かれる度に、誰かが叩かれると言う繰り返しで、瞑想の時間は終了した。
「もう!リンドヴルム!全然修行にならないじゃん!」
「何故黙って目を瞑っていなければならないんだ!暇で暇で仕方が無い!」
「瞑想というのは、自然と一体化し、マナをため込む為に重要なんですよ」
そう言いながら、休憩中の私達の元に現れたのはイナンナであった。
「イナンナさん、一体どうしたんですか?」
「私も、修行中の身ですから。こうして時間が空いたときには、寺院の方に来るようにしているのです」
女王の仕事が大変忙しいというのは、私が一番よくわかっている。それにも関わらず、空いた時間で厳しい修行を積み重ねているというのは、見習わなくてはならない。
「瞑想は全ての基本です。呼吸を正し、意識を集中する。ただそれだけの事ですが、それが一番難しい。是非その感覚だけでも、身につけていって頂ければと思いますので、頑張ってください」
イナンナはそう言うと、私達に笑顔で一礼し、奥にある扉へと入っていった。。ずっと気になっていた扉。エル寺院には多くの修行者がいたが、誰1人として近づくことすら許されていなかった場所である。
「あの扉の奥ってどうなってるんだろう……」
「あの扉の奥は、厳しい修行を乗り越えた者のみがたどり着ける場所。より高みへと近づくために、神に通じる力とも呼ばれる力を手に入れるために、イナンナ様は修行に励まれている」
瞑想の時に、心が乱れた者に喝を入れていた男。坊主頭に濃い眉毛がトレードマークであるミスラが私の独り言に答えてくれた。
「イナンナさんは神通力を使いこなせそうと言うことなんですか?」
「女王は天才だ。彼女の力は歴代のどの王よりも優れているだろう。この国の皆が女王を尊敬し、女王であれば神通力を使いこなせるだろうと信じている」
「きっと、イナンナさんならたどり着けるよ!絶対に!」
「だが、力を秘めているのは、イナンナ様だけではない。皆は気付いていないだろうが、私や、おそらくイナンナ様も気付いている」
「まだ誰かいるの!?」
「あなたたちだ。特にイーナさん、それにミズチさん。あなた方からは恐ろしいほどのマナの力を感じる。だからこそ、イナンナ様もエル寺院への立ち入りを許可したのだろう。普段は外部の者は基本的には入れない場所であるからな」
「おい、俺は!?」
抗議をするのは、リンドヴルムであった。
「リンドヴルムくん、君は邪念が多すぎる。秘めた凄まじい力は感じるし伸びしろは一番ある。だが、現状ではまだまだだな。心が追いついていない」
ミスラは真面目な表情で、リンドヴルムに言葉を返す。その様子をみたルウやナーシェは苦笑いを浮かべるしかなかったのだろう。
だけど、リンドヴルムの力が凄まじい事は私も良く知っている。彼が凄まじい力を持っているのは私が良く知っている。そんなリンドヴルムが、もし一番伸びしろがあるというのなら、一体彼はどこまで強くなるんだろうか。
「よし!見てろ!俺はここでもっと強くなる!」
ミスラの檄とも言える言葉に、リンドヴルムはすっかりやる気になったようだ。そう考えれば、ここで修行という選択肢を選んだのは正解だったのだろう。シーアンで本格的に彼らと、白の十字架とぶつかることになるかもしれない。その時に、皆の力が必要になるからだ。
リンドヴルムの言葉を聞いたミスラはフッと笑みを浮かべて、私達に向かって口を開いた。
「良い心がけだ!よしそろそろ休憩も終わりだ。次の修行に向かうとしよう!」




