144話 旅立ちの時
フリスディカでの用事を終え、レェーヴ連合へと戻ってきた私達は、早速新たな冒険へと出る準備を行った。そして、全ての段取りを終え、出発の日を迎えたのだ。
「じゃあ、行ってくるよ!後のことは頼んだよ!」
今回の旅では飛空船を使う。見知らぬ土地で、知り合いもいないとなれば、宿を探すのにも苦労するかもしれない。そうなれば最低でも寝泊まりが保証され、またある程度の物資を備蓄できる飛空船を用いるべきだと判断した。
幸いにも、先日のシャウン王国の騒動があったにも関わらず、私達の飛行船は、フリスディカで無事に残っていた。フリスディカに残っていた夜叉達がかくまってくれていたのである。シャウン新国王のノアの協力の下、フリスディカの空港の一部で、私達の飛空船は、いつでも利用できるようにしっかりと整備されていたのだ。
そして飛空船を使うとなれば、必然的に南ルートを選択することになる。以前フリスディカで調べたときにわかったことだが、シーアンに行くルートは古くから栄えた山岳地帯を通る北ルート、そして近年飛空船などの移動手段の発達により発展しつつある南ルートの二つがある。
何故、北ルートがあったにもかかわらず、南ルートが栄えたのかと言えば、一番の要因は、北ルートの山岳地帯は、魔鉱石の鉱床がそこらかしこにあるのが大きかったようだ。つまり、北ルートは魔鉱石の干渉を受けてしまうために、飛空船を用いた移動が困難であるという大きなデメリットがあったのだ。
「まずは、フリスディカに向かって、飛行船に乗る。そして、アレナ聖教国を抜けてエンディア国に入る。そしてそのまま海沿いに進んで、最後はシーアンに向かうよ!」
「了解なのニャ!久々の運転で腕が鳴るのニャ!」
飛空船を使うと言うことで、今回はテオの力が欠かせない。そして、何かあったときのために、背に乗せて空を飛べる、ルウとリンドヴルムに同席してもらう。もしアレクサンドラの言っていた事が本当ならば、目的地であるシーアンで、大きな戦いが巻き起こる可能性が高い。そうなれば、こちらもやはりある程度戦力をそろえた上で向かいたいところではあった。
だが、それでも所詮アレクサンドラが言っていただけのことには過ぎない。私達を誘い込む嘘の可能性だって大いにあり得る。万が一ときのために、レェーヴ国内にも戦力は残しておく必要がある。今回はシータには国内で残ってもらうことにした。移動手段として、竜の力は必要不可欠である。
と言うわけで、私と、ルカ、そして医者であるナーシェ、そしてルウとリンドヴルムとテオ、そして今回はミズチに同行してもらうことにした。
今回ミズチに同行を頼んだのには理由がある。テオはまあ置いておいて、男性がリンドヴルムしかいないというのは、なかなかにまずい状況だと判断したのだ。リンドヴルムが可哀想というのもあるが、もし男性の力が必要になったときに、リンドヴルムしかいないというのでは、あまりに頼りがいが……というのは、余談である。
フリスディカまでは、ルウとリンドヴルムの力のお陰であっという間についた。今日は、フリスディカで一泊し、明日はいよいよ飛行船で東に向かって旅立つ段取りとなっていた。
せっかくフリスディカにきて、することと言えば、一つである。今日は、普段リラの街を離れることがまずないであろうミズチもいる。旅の楽しみ、それは夜の街に出歩くことである。
「イーナ!やっぱりフリスディカの街は楽しいな!」
すっかり出来上がってしまったリンドヴルムが、私のすぐそばで、顔を真っ赤にしながら、大声で言った。だが、リンドヴルムはいつもに比べれば、格段に落ち着いた飲み方をしていた。あのリンドヴルムが、取り乱すこともなく、冷静に飲んでいる。それもこれも普段からリンドヴルムを厳しく見守ってくれているミズチのお陰でもあるのかもしれない。
だが、リンドヴルムの問題は解決したとして、もう一つ問題があった。
「イーナ様~~なんだかルウ、ふわふわしてきました~~」
黒竜という生き物は、酒に弱い宿命でもあるのだろうか。すっかり出来上がってしまったような様子で、ルウはべったりと私にくっつきはじめたのだ。そして、それを見たルカがむくれて、意地になったものだから、もうすっかり収集がつかない事態になってしまった。
「ルウ!イーナ様にそんなにくっついたら駄目!迷惑してるでしょ!」
「え~~しょんなこといいながら~~ルカもくっついているじゃないれすか!」
「ルカは良いの!」
「ならルウもいいんれす~~!ね、イーナ様!」
「むー!!!!」
わたしはただ笑いながら、なんとか場が治まるのを待つことしか出来なかった。なんだかんだ言って幸せな時間ではあったが……
そして、フリスディカの短い夜は、だんだんと更けていった。




