109話 魔法とかマナとか、わたしよくわからないんです
「お疲れさん、どうやら倒せたようだね。約束だ」
ルーミス魔法武具店に戻った私達を、店主のおばあちゃんは温かく迎えてくれた。そして、おばあちゃんは起きたこと全てを見通しているかのように、ナーシェの方に優しく声をかけた。
「お嬢ちゃん、すっかり魔鉱石のエネルギーを使い切ってしまったようだね。無事だったようでなによりだよ」
「はい、でもみんながいなければ、私死んでたかもしれません……おばあちゃん、この魔鉱石は復活するんですか?また使えるんですか?」
ナーシェは少し気落ちした様子で、店主に向かって聞き返した。
「そこらへんの魔力を吸収すれば、また使えるようになるさ。心配はいらん。それよりもだ……」
店主のおばあちゃんは、私とルカの方を向いて話を続けた。
「あんたら狐2人はちょっとこっちへ来てくれるかい?」
狐……?私達の正体がばれているのだろうか?私は戸惑いながら店主のおばあさんに聞き返したのだ。
「おばあさん、あなたは一体……?」
「わたしかい?私の名前は、アレクサンドラ・ルーミス。しがない魔鉱石の研究者さ」
そう言うと、アレクサンドラはこちらの戸惑いなど、気にもしない様子で、扉を開けた。すると、呆然と立ち尽くした私達に向かって、一言。
「くるのかい?こないのかい?」
私とルカは戸惑いながらも、言われるがままにアレクサンドラについていった。
魔法武具店の裏には少し開けた広場があった。アレクサンドラは立ち止まり、私達の方に向けて、魔鉱石を見せながら口を開いた。
「さて、あんたら……あんたらは妙な魔法を使うねえ……でも、せっかくそんな力を持っているのに、魔法について何も知らないだろう。見てればわかる。せっかくだから、モンスター退治のお礼も兼ねて、少し魔法についてあんたらに教えようかと思うんだが、どうだい?」
アレクサンドラの提案に、私は再び驚いた。この人は一体…… だが、あんな強力な魔法武具を取り扱っているのだから、おそらく魔法に関しての話は本物なのだろう。聞いておいて損はない話である事は間違いない。
「アレクサンドラさん!ぜひ聞かせて頂きたいです!」
「ルカも!」
「じゃあ基本の基本からいこうかね。空気中、環境中、あらゆる所に、魔法の力の源である『マナ』はある。どんなものでもマナを吸収したり、放出したりできるけど、その力が特に強いのが魔鉱石さ。んで、中には、あんたらみたいにマナを直接エネルギーとして使えるような奴らがいるってワケ」
アレクサンドラはさらに続けた。
「あとは、最近の研究でわかったことなんだが、マナにもいくつか属性があってね……まあ難しい話になるから、簡単に言うと、火とか水とかそういったものだよ。それで、その特有のマナを吸収する魔鉱石が存在する。それから作り出したのが、あの魔法武具なのさ。ここまではついてきているかい?」
「はぁ……なんとなく……」
「ルカは大丈夫だよ!」
魔法とかマナとか、私の今までの常識では考えられないような話である。だが、実際に、その力を使っているのは確かである。
「普通、魔法が使えないものが魔法を使うためには術式が必要だ。マナを利用するためには手順って言うのが必要なんだ。それを使わないで、マナを利用できるのがあんたら魔法使いって事」
なんだか、わかるようなわからないような、話が続いている。あくびが出そうになるも、流石に失礼に当たるだろうと、必死にこらえていると、さらにアレクサンドラは話を続けた。
「さてそろそろ本題に入ろうじゃ無いか。術式というのは、いくつかの型があるわけだ。それに応じて、使える魔法が変化すると言うわけだ。それはあんた達でも同じことさ」
アレクサンドラの話に急に眠気が覚めた。私が今まで、使っていたのは、炎と氷が中心である。何となく制御は出来るようになってきたものの、何となくといった範疇でしか使ってこなかった。これがもしもっと精密にコントロールできるようになったとしたら……
「術式を使えば、もっと精密な魔法が使える……というわけですか……?」
「そう、術式というのはさっきも言ったが型だ。呪文だったり、魔方陣と言ったものを聞いたことがあるだろう。それらは全て術式だ。さて、まずはあんたらの魔法の属性を調べさせてもらおうかね……」
そう言うと、アレクサンドラは小さな魔鉱石を私へと近づけた。魔鉱石は私に触れると、赤みがかった黒色といったような輝きを放った。
「これで属性がわかったのですか……?」
私の問いかけに、アレクサンドラは難しそうな表情を浮かべ、口を開いた。
「むう……混色か……しかも輝きが強い……」
「混色? だとどうなんですか?」
「色は属性、輝きは魔力の容量を示している。基本は、原色に光るんだが……赤っぽい黒色に輝いたということは、いくつかの色が交じり合っているという事さ。いろんなマナが混合していると言うことだ。少なくとも火属性がある事はわかるが、それ以外はなんともいえんな」
「確かに、私、火の魔法と氷の魔法を使えますよ!」
「なるほどな、ならとりあえずはその二つの属性で良いだろう。後はあんたらが自分で理解することさ。まだまだ魔法の研究は進んでいないからねえ。あんたらも研究したいところだが……」
そう言うと、アレクサンドラは怪しげな目つきで、こちらをなめ回すようにじろじろと見てきた。背中に少し冷や汗が走った。
「そんなにびびらなくても取って食ったりはせんよ!さあ、炎と氷の術式を頭にたたき込むんだ!」




