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打ち合わせと呑み会

 翌日の午後、俺はシュメリルールへと向かった。ロレンと次の旅の打ち合わせがあるし、護衛の面々と呑みに行く約束もしていた。


 遅くなったらハザンのうちにでも泊めてもらおう。確か独り者だったはずだ。つーか、ガンザ以外は全員独り者だな。


 俺も今日は1人だ。旅の間はずっとハルと一緒だったから、久しぶりの単独行動は一種の開放感があった。自分の身だけ守れば良いというのは、やっぱり気楽なものだ。


 まあ、半日もすればなんだか物足りなくなって来るんだけどな。


 まずはロレンと打ち合わせかな。シュメリルールの街へと入ると、俺は馬を降りてロレンの商会へと向かった。裏へ回り馬を繋いでから、店の方へ顔を出す。


「若旦那、ロレン、います? ヒロトが、来た、伝えてくさい」む、少し間違ったな。


「くさい、違う、下さい」


 日本語でもこの世界の言葉でも、丁寧な言葉使いは難しい。だが、俺の異世界語の習得度も中々のものになってきた。と、自分では思っている。ヒヤリングで困る事は少なくなって来た。


 例えのような、日本語で言うと「腹黒い」とか「泡を食う」みたいな表現や、この世界の気候や風俗に根ざした表現は、やはりまだ手に負えない。「阿吽あうんの呼吸」とか「天気雨」みたいなやつだ。


 ただ、喋る方がかんばしくない。カタコトのレベルから中々上達しないのだ。単語を並べていけば、大抵通じてしまう。買い物なんかはそれで充分事足りるし、込み入った話をしたい人は、みんな先回りするように、理解しようと努めてくれる。


 言葉がつたない事で、馬鹿にされた事も、だまされた事もない。


 なんだか過保護かほごの母親が、授業参観に来た時みたいな気持ちになる。


 俺は、ずいぶん甘やかされてるな。


 そんな事を考えていたら、ロレンが店の奥から出てきた。


 片手を上げてため息をつく様子は、少し疲れて見える。


「待たせてすみませんね」


 そう言って若旦那の顔になったロレンには一分の隙もない。


 このついうっかりと見せる隙のようなものが、所謂いわゆるギャップ萌えというモノなのだろうか。ふと見ると、店番の女の子の目がハートになっている。俺はあーあ、とため息をつき、本題に入る。



「ラーザ以外だと、海辺の街はこの辺ですね。この中で教会があるのは‥‥」


「ここと、ここ」俺が地図を指差す。


「ああ。では次はここに行きましょうか」


 ロレンが当たり前みたいに言った。それは俺のためにキャラバンを動かしてくれるという意味だろうか。


「キャラバンは、店の為が大切」


「キャラバンはいくつも動いています。私のチームが次にここで商売するだけです。ヒロトの為ではありませんよ」


 事務的な顔を崩さずに、そんな事を言う。全く、困った若旦那だ。助かるよ、と心の中で呟く。


 日程やルート、契約内容など細かく打ち合わせてから、ロレンは一旦店の奥へと戻って行った。


 在庫チェックをしているはずの、店番の女の子の大きな耳が、2つともこちらを向いている。俺の視線に気づいた彼女が、ボフンと赤くなり、その後咳払いをしてから、


「私には『赤ん坊にソロバン』ですから」と大真面目に言った。上級者向けの表現だが、たぶん手に負えないとか、荷が勝ち過ぎるといった言い回しだと思う。ロレンの底が見えない感じは、本気で惚れるには覚悟がいるのだろう。わかるような気がする。


 俺は、頑張れとも言えなくて、そっと肩を叩くだけにしておいた。


 戻ってきたロレンから書類を受け取り、店を後にする。


 まだ夕方までには時間があるな。リュートの工房にでも顔出すか。





 リュートの工房の前まで来ると、聞き覚えのある笑い声が聞こえる。ハザンだ。


 声をかけると、ハザンが上機嫌で顔を出した。


「よう、ヒロト、よく来たな! なあ、こいつ面白えな!」と、リュートを指差して言う。


 リュートは喜ぼうか、ショックを受けようか、決めかねるみたいな顔をしてる。


 まあでもこいつら、きっと気が合うんじゃないかな。


 その日はそのまま、リュートの工房で呑み会になった。約束した訳でもないのに、次から次へとキャラバンの面々がやって来る。ロレンまで来た時点で、リュートが諦めてラーナを呼びに行った。俺も諦めて酒を買いに行った。


 ラーナはニコニコと笑いながら、山ほど食べ物を持って来てくれた。本当、出来た嫁さんだよ。



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