ありがとう…… -Ceciliya- Ⅳ【転機】②
歩けど歩けど、先は見えなかった。
いつまで歩いても変わらない暗闇。
時々不安に振り返りたい衝動に駆られる事もあったが、セシリヤはハルマの言葉を思い出し、絶対に振り返る事はしなかった。
いつの間にか頬を濡らしていた涙は乾いていて、今は不思議と心が落ち着いている。
ハルマの事で、一区切りついたせいもあるのだろう。
しかし、流石に歩き過ぎたのか足が疲れてしまった。
少しだけ休憩しようとその場に座り込んだセシリヤは、まだ続いている先の見えない一本道を眺める。
……後、どれくらい歩けばいいのかな。
痛む足に手を添えながらぼんやりと考えていれば、セシリヤを呼ぶ軽薄な声が聞こえ顔を上げた。
「シルヴィオ団長……?」
「んー、嫌な予感はしてたけど……、やっぱりここにいたんだね」
立てる?と訊ねるシルヴィオに首を横に振って見せれば、彼は何を思ったのかセシリヤの両足と背を支えるとそのまま抱え上げる。
突然の行動に驚き降ろして欲しいと訴えたが、シルヴィオは全く意に介さないままセシリヤの歩いていた方向へと進んで行く。
その足取りには迷いがなく、まるでこの先に何があるのかを知っているかのようだ。
「この道は……、どこに繋がっているんですか?」
セシリヤが訊ねたが、シルヴィオはニコニコと笑うだけで答える気はなさそうだった。
何故シルヴィオがここにいるかはわからないが、見知った人間に会った事で安心したセシリヤは、彼に抱えられたまま徐々に重たくなって来た瞼を閉じる。
シルヴィオが歩く度に揺られる感覚が心地良く、うとうとしていたセシリヤが眠りにつくまで時間はかからなかった。
僅かな光を感じてセシリヤは目を覚ます。
相変わらず周囲は真っ暗で、けれど一本道の先に小さな光が見えていた。
この暗闇から抜け出せる場所が近づいているのだろう。
「おはようセシリヤちゃん。だいぶお疲れだったんだね」
「!」
シルヴィオに抱えられたままである事に気づいたセシリヤは、慌ててその腕から降りようとするが、それを許さないとばかりにしっかりと抱え直されてしまった。
「ずっと、運んで下さっていたんですよね……? 腕、疲れませんか?」
「平気平気。僕、こう見えて力持ちだし、これは役得! それにもうすぐだから、このままでいさせてよ」
ね?と顔を覗き込むシルヴィオに何も言えないまま頷けば、彼は満足そうな顔をして再び光に向かって歩き始めた。
あれだけ何も見えない場所から光の届くここまで、一体どれくらいの時間シルヴィオはこうしていたのだろうか。
「……ありがとうございます、シルヴィオ団長」
「全然。僕が好きでしてる事だし、気にしないでいいからね」
ここで会った時から何一つ様子の変わらないシルヴィオの顔を眺めている内に、徐々に射し込んでいる光が強くなって来た。
その眩しさに目を細めていると、シルヴィオがセシリヤを降ろして少々乱れていた服を調える。
それから今度は一緒に並んで出口と思われる一歩手前まで進むと、シルヴィオはそこで立ち止まった。
「シルヴィオ団長……?」




