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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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いつか叶うと信じて -Dino-Ⅶ【不屈】⑦

 身体の傷も癒えセシリヤを蝕んでいた呪いも消えたはずなのに、意識だけが戻らないという彼女。

 自由に動けないディーノの代わりに時折アルマンが様子を見に行ってくれていたのだが、現状は変わらないままだった。(魔術や、それこそ新たな呪いが彼女の意識に働きかけているのではないかとも疑ったが、マルグレットやイヴォンネからはそんな気配や形跡はかけらもなかったと返答があった)

 毎日、誰かしらがセシリヤの元へ訪れては声をかけているが、やはり反応は見られないようだ。


「最悪、このままずっと目が覚めないなんて事も……」

「滅多なことを言うものではないよ、アルマン」


 アルマンが口を滑らせた所で、ジョエルが病室に入って来た。


「ジョエル団長……、すんません……」

「セシリヤは、とても疲れているんだろう。もう少しだけ休ませてあげれば、きっと何事もなかったように目を覚ますよ」

「そうですね……」

「生きている限り、希望は持てる」


 穏やかな口調でそう言い切ったジョエルの言葉に安堵したディーノは、彼に同意するように頷く。

 アルマンも同じように頷くのを見たジョエルは、ディーノの手元にあった書類の束を手に取った。


「ディーノ、本調子じゃないのにありがとう。助かるよ」

「いえ……、こんな事しか、今は出来ないので」


 少し眉を下げたディーノが答えると、ジョエルは首を横に振り、それから現在の国と騎士団の様子を教えてくれた。


 魔王の襲来とマティの裏切りによって混乱したロガールは、徐々に落ち着きを取り戻し始めている。

 けれど、失われた命は今までのどの戦いよりも多く、国民の心の傷が癒えるにはまだまだ時間が必要だ。

 王は国民の心に寄り添い、彼らの声を聞きながら復興に力を入れている。

 家を焼かれ、親を亡くし孤児になってしまった子供たちも数多くおり、彼らの為に孤児院を新たに作る計画も上がっているようだ。

 騎士団でも命を落とした騎士は数多くおり、亡くなった国民と共に国葬されたそうだ。

 第一騎士団のレオンは、この戦いで深刻な後遺症を負い剣を握れなくなったと言う理由で先日引退。

 第二騎士団のシルヴィオは、依然行方不明のまま捜索が続けられている。

 人員の減少により、近々騎士団の再編成が検討されている所まで話したジョエルは、そこで一息置くと改めてディーノの顔を見つめて言葉を続けた。


「ディーノ……。君は、まだこの先も騎士としてやって行けそうかい?」


 戦いが終わった後も、身体や心に癒えない傷を負い騎士を辞めて行く人間が多くいるのが現状だ。

 ディーノもまた、身体と心に傷を負った一人であるが故の質問だったのだろう。

 けれど、


「はい。俺は、今後も騎士としてこの国の為、王の為に尽力したいと思っています」


 そうはっきりと告げれば、ジョエルもにこりと笑って頷いた。


「安心したよ。君には今後も、色々と頑張ってもらわないといけないからね」


 書類の束を持って仕事に戻ると言うジョエルを見送ったディーノは、窓から見える空を見上げ溜息を吐く。



 ……自由に動けるようになったら、まずはセシリヤさんに会いに行こう。



 会ってどうにかできる状態でない事は承知の上だが、それでも彼女の為に何かしてやりたかった。


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