いつか叶うと信じて -Dino-Ⅶ【不屈】③
人を呼びに行ったアルマンが早く戻って来るのを祈るしか出来ない事に歯噛みし俯いた直後、
「私に、任せて下さいっ……」
声の方へ視線を向ければ、いつの間にかそこにはマルグレットが立っていた。
マルグレットも傷を負い立っているのも辛そうだったが、今ここで頼れる人物は彼女以外いない為、王は彼女の申し出を受け入れた。
王の隣に座ったマルグレットは、術式を描くことも呪文を唱える事もなく治療魔術を発動させる。
それから、セシリヤの意識を戻そうと言葉をかけ始めた。
「セシリヤ……、どうか生きる事を諦めないで。貴方は、貴女の人生を自由に生きる権利があるの。今度は誰の為でもなく、あなたの幸せの為に生きて!」
マルグレットの呼びかけに、セシリヤの瞼が僅かに動いた。
しかしそれ以上に反応はなく、マルグレットの大きな瞳から涙が流れる。
「ごめんなさいっ……、ごめんなさい、セシリヤ……! 貴女を……、貴方の自由を奪ってしまった私が言えた事じゃないけれど……、貴女には、生きて……、笑っていて欲しいの……! 今後、貴女が何を選択しても反対はしない! でも、死ぬことだけは絶対に……、絶対に許さないわ!」
だから目を開けて欲しいと訴えるマルグレットの横で、王も涙を堪えていた。
ユウキも、レオンさえもその瞳を滲ませて、セシリヤが目を開けてくれることを願っている。
……セシリヤさん……、貴女は、こんなにも愛されているじゃないか。
呪いが彼女の心を閉ざし、差し伸べられていた手に気づけなかっただけで、セシリヤは愛されていたのだ。
ディーノをはじめ、少なくともこの場にいる人間は彼女を心から愛している。(それぞれの形は異なっているが)
そうでなければ、傷だらけで疲弊している彼らが無理を押してまで瀕死の彼女に治療を施す理由がないのだ。
アルマンに連れられ駆けつけたフレッドも、現状を目にすると医療団員に指示を出した後すぐにセシリヤへ治療魔術を施し始めた。
普段は目の敵のようにセシリヤに怒鳴り散らしている、あのフレッドでさえもだ。
「……愛されているじゃないか……」
ぽつりと、ディーノが呟いた。
――― でも、よく考えれば、こんな気味の悪いことは無いんです。
セシリヤは"不老不死"であった自分の事を気味が悪いと言っていたが、ここにいる人間は彼女を気味が悪いと避ける事もなく向き合っている。
この世に存在するすべての人間がそうではなかったとしても、今、セシリヤの手の届く範囲の人間はみんなそうであると、ディーノは断言できる。




