いつか叶うと信じて -Dino-Ⅶ【不屈】②
「……魔力が……、魔力があれば、良いのか……?」
そうユウキの背後から訊ねると、彼は振り返ってディーノの顔を見上げた。
「魔力があれば、良いのか……?」
再びディーノがユウキへ問う。
この石を使った後、身体にどんな副作用が起こるかはわからない。
無いものを無理矢理増幅させるのだから、その反動も大きなものになるだろう。
使用した後の反動を吸収するように作られているとイヴォンネは言っていたが、それもどこまで効果があるのか保証はない。
下手をすれば、使用者であるディーノが命を落としてしまう可能性もある。
故に、ユウキに相応の覚悟があるかどうかを確認したかったのだ。
「魔力があれば……、僕が、絶対にセシリヤさんを助けますっ……!」
ディーノの問いに答えたユウキの瞳には、一切の迷いはない。
涙で滲んではいたが、瞳の奥には絶対にやり遂げると言う意志が感じ取れる。
これならばセシリヤの事を任せても良いだろうと、ディーノは持っていた袋の中からブレスレットを取り出した。
「このブレスレットについてる石で、一時的に俺の持ってる魔力を増幅させる。その魔力を使って、セシリヤさんを助けてくれ……!」
「勿論です……! でも……、どうやってディーノさんから魔力をもらえば……」
尻すぼみになって行くユウキの言葉で、ディーノは肝心の魔力の転移方法を知らない事を失念していたと気づかされる。
まさか、ユウキの傍にいる仔猫のように頬にキスをする訳にもいかないだろう。
どうすれば良いのかと悩んでいれば、やりとりを見守っていた王が立ち上がってディーノとユウキの間に立った。
「魔力の転移は、私がやろう。魔王を消滅させる為の最終手段として、長い間研究していた事だ。ここで役に立てるのなら、喜んで協力させて欲しい」
今にも倒れてしまいそうな王の身体を気遣うディーノとユウキだったが、彼は大丈夫だと言って首を横に振って見せる。
「さあ、時間がないぞ、ディーノ……!」
「はい……!」
「王様……、ディーノさんも、よろしくお願いします!」
王に促されたディーノが左腕にブレスレットを通すと、その直後には身体の中に流れる魔力が一気に膨れ上がる感覚が駆け抜けた。
それに合わせたように王が術式を描き発動させると、ディーノの身体から魔力が一気に吸い上げられて行く。
順調にユウキへ転移される魔力に安堵したが、今度は内臓が搾り上げられるような痛みがディーノを襲った。
想像を超える痛みに思わずその場に蹲るが、ユウキの描いた術式が発動するにはまだまだ量が足りないようだ。(元々ディーノの持っている魔力がそこまで多くないと言う理由もあるのだろう)
「ディーノさん、……大丈夫ですかっ?」
心配するユウキに「問題ない」と答えたいところだが、声を発する事も出来ず辛うじて首を縦に振るので精いっぱいだ。
全身から脂汗が吹き出し、それが地面に落ちて染みを作る。
一体どれだけの魔力を消費して、ユウキはあの魔術を使いこなしていたのだろうか。
少しでも痛みを逃す為に余計な事を考えるが、イヴォンネからもらった石は容赦なくディーノの身体に巡る魔力を増幅させ意識を引き戻して行く。
絶え間なく与え続けられる痛みに悶え吐血する事もあったが、それでもディーノには途中で止めるという選択肢はなかった。
「王様、術式が……!」
ユウキの言葉に顔を上げると、描かれていた術式が輝き出し辺り一帯を包み込む。
魔術が無事発動した事に安堵してセシリヤを見れば、彼女に刺さっていた剣が跡形もなく消え去っていた。
けれど傷までは塞がらず、危険な状態には変わりない。
「いかん……、早く治療魔術をっ……」
王が急いで治療魔術をセシリヤに施し始めるが、喀血を繰り返すセシリヤの容態は悪化して行く一方だ。
傷口から流れる血も、完全に止まってはいない。
ディーノの魔力は先程ユウキへ完全に転移された為に残ってはおらず、治療を手伝う事も出来ない。(手伝った所で現状が変わるとは思えないが)




