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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】①

 パキリと小さな音を立てて、また一つ転移魔具が壊れた。

 シルヴィオが持っていた転移魔具を使ってロガールに向かう騎士らを見送った後、その場に残った人物達が顔を見合わせる。

 予想外の事態にあっても、彼らは冷静だった。

 最終目的地であったはずの<封印の地>で"魔王"の姿が確認出来ず、今、ロガールで何か異変が起こっている。

 これまでの状況を考えれば、十中八九で"魔王"はロガールにいるだろう。

 ここにいる全員もどことなく"魔王"がロガールにいる事を予感しているようで、その表情は深刻だった。


「私たちも急いで向かわなければならない。しかし、魔具がどこに繋がっているかはっきりしない以上、全員同じ魔具を選ぶ事は出来ない。戦力は分散されてしまうが、それぞれ別の魔具を使って戻ろう。運良く謁見の広間に辿り着いた時は、王の安全を最優先に動いて欲しい」


 ジョエルの言葉に全員が頷くと、それぞれがまだ壊れていない魔具を手に取りロガールへと帰って行く。

 優希は少しの迷いも見せない彼らへ尊敬の念を抱くと共に、不安で押しつぶされそうになるのを必死で堪えていた。


 まだ会った事のない、"魔王(晴馬)"。


 これから対峙し、優希は与えられた(生贄としての)役目を果たさなければならない。

 王は絶対に助けると言っていたが、そんな状況でない事は一目瞭然だ。


 ……もし……、もし、王様に助けてもらえなかったら……?


 ふと脳裏を過る悪い考えに心臓が早鐘を打ち、指先が冷たくなって行く。

 僅かに荒くなった優希の呼吸に異変を感じたのか、リアンが肩に飛び乗ると耳元で小さく鳴いた。

 まるで「心配いらない」とでも言うような鳴き声に優希は頷くと、リアンを一撫でして足元に転がる転移魔具を拾い上げた。


 ……早く、ロガールへ戻らないと。


 ロガールには、優希がこれまでお世話になった人達が沢山いる。

 訓練に付き合ってくれた騎士や、護衛としてついてくれた騎士。

 名前を知っている人もいれば、顔を合わせただけの人もいる。

 けれど、優希にとっては皆お世話になった人達だ。

 そんな彼らが今、懸命にロガールで戦っている。


 ……それに、セシリヤさんの事も心配だ。


 万が一"魔王(晴馬)"と対峙してしまったら、彼女は何を思うだろうか。

 綺麗な菫色の瞳が涙で滲む様を思い浮かべた優希は、心が締め付けられるような痛みに眉を顰めた。


 ……セシリヤさんには、これ以上悲しい思いをさせたくない。


 くちびるを噛み締めると、優希は意を決して魔具に魔力を注ぎ込んだ……はずだったのだが、その直前に持っていた魔具を背後にいる人物に取り上げられてしまう。

 一体誰がと振り返れば、アルマンが不機嫌そうに優希を見下ろしていた。


「アルマンさんっ……! 返して下さい! 早くロガールへ向かわないと……!」

「お前はアホか! もし城にいるのが魔物じゃなくて人間の敵だったらどうするんだ!」

「……そ、れは……」

「斬れねぇくせにとっとと一人で行こうとするんじゃねぇ! 無駄死にしたいのか!」


 アルマンの言う通りだ。

 "魔王"がロガールにいる事を前提に魔物と戦う事を考えていたが、そうでは無くて他国から攻め入られている可能性だって少なからずある。

 浅慮だった事をアルマンに謝罪すれば、どこかバツの悪そうな顔をした彼は頭を掻きながら「怒鳴って悪かった」と呟いた。


「とにかく……、俺が先に行くからお前は後から来い。お前の進む道は、俺が責任持って切り開いてやる」


 真っ直ぐに視線を合わせてそう言ったアルマンの瞳に、一切の曇りはない。

 思えば、アルマンはいつもそうだった。

 出会った時はとにかく大きくて怖い人だと言う印象が強かったが、その瞳はいつも澄んでいた。

 きっと、素直で嘘を吐けない人間なのだろう。(良いか悪いかは別として)


 剣の振り方もわからず見様見真似で稽古していた時は、不服そうにしながらも指導してくれた。

 旅の道中、アルマンは約束した通り共に行動してくれていた。

 人を斬る事に抵抗のある優希に代わってそれを担ってくれていた。

 そして、今もこうして気にかけてくれている。

 時々厳しい事も遠慮なく言うアルマンだったが、優希はだからこそ彼を信頼出来ると思っていた。

 それはこれから先も変わる事はないだろう。


「アルマンさん……。ありがとうございます!」

「礼なら全部終わった後だ。俺が行ったらすぐに来いよ!」

「はいっ!」


 アルマンが転移魔具を使ってロガールに行くのを見届けると、優希もすぐに魔具に魔力を流し込む。

 初めて使った転移魔具だったが、思いの外気分が悪くなることもなく数秒で目的地に着いた。

 周囲を見渡せば、魔物と戦っている騎士達の姿が見える。

 先に来ていたアルマンも同様に剣を抜き次々と魔物を斬り捨てていたが、魔物は消えると同時に何度も何度も再生しているようだった。

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