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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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全ての元凶 -???-【因縁】⑤

「こんな生温い魔術で俺を拘束できると思っているのか?」


 マティが略式化した術式を描きマルグレットへ拘束の魔術を放ち返せば、同じように地面から魔力の鎖が飛び出し彼女の身体を拘束した。

 しかしそれだけに止まらず、魔力の鎖はマルグレットの身体を高く持ち上げ不安定に揺れて見せる。


「魔術って言うのは、ある物をただ使うだけじゃなく応用が肝心なんだよ!」


 マティがそう声を上げた直後、揺れていた魔力の鎖は大きく弓なりに反ると、その反動を使ってマルグレットを勢い良く床に叩きつけた。

 床に叩きつけられる直前に防御魔術を挟んだようだが、暫く起き上がる事はないだろう。

 フシャオイが玉座から転げ落ちるように降りマルグレットに近づいて声をかけたが、反応はない。

 蒼白な顔を眺めいい気味だと嗤うと、マティは足元に倒れているアンヘルの喉元に剣の切っ先を突きつけた。


「やめてくれ、マティ……! 私に何をしても良いが、彼らには何の罪もないっ! どうか彼らと……罪のない国民だけは傷つけないでくれ……!」


 そう懇願するフシャオイの姿を見ても、マティの心は動かない。

 どんなにフシャオイが醜態を晒そうとも、どんなに犠牲が出ようとも、マティにはもう何も感じられなかった。

 他の誰とも親しく接する事なく、常に目立たず感情を殺して来たせいなのだろうかと他人事のように考えながら手袋を外し、先程から疼き続けている手の平の文様にマティはくちびるを寄せる。


「神様……! ようやく、あなたとの約束を果たす時が来ました! ようやくあなたに多くの魂を捧げる事が出来る……!」


 長い間思い描いていた復讐劇をいよいよ完遂出来ると言うこの現実が、マティを異様なまでに高揚させていた。

 腹の底にあったあの煮え滾る感情も今となっては何だったのか思い出せないが、"神様"との約束を果たせば、そんな些細な事は気にならなくなるだろう。

 完全に気を失っているアンヘルを感情のない瞳で見下ろしながら剣を振り上げれば、やめろと叫ぶ声が響く。

 喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げるフシャオイの姿は、見ていて滑稽だった。


 ……あれが、"勇者"と崇められていた男か。


 偽りとは言え騎士になる時に忠誠を誓った相手であったが、僅かに情が沸いていたのか憐れに思えてしまう。

 だが決して容赦はしないと、マティは剣をアンヘルの喉元目掛けて振り下ろした。


 しかし、剣がアンヘルの喉元を裂く直前にマティの動きが封じられる。


 マティの剣を持つ腕に巻きついた魔力の鎖は、マルグレットが放ったものとは比にならない程に強固だ。

 拘束の魔術を解除しようとしても、術式が改変されているのか中々上手く行かない。

 一体この場で誰がこんな事を出来るのかと辺りを見回せば、広間の入り口に息を切らせ立っている人物が目に入った。


「マティ副団長……っ! これは一体……、どう言う事ですか?」

「……セシリヤ・ウォートリー……」


 魔術を放ったのは、間違いなく彼女だろう。

 口にするのも忌々しいその名を呟いたマティは、セシリヤを一瞥すると、右腕に巻き付いている拘束魔術に意識を集中する。

 術式の改変はやや複雑だったが、落ち着いて解けば何ら問題はない。

 拘束の魔術を解いている間、周囲を見渡していたセシリヤは現状を理解したのか、震える手を握り締めると静かな怒りを宿した瞳でマティを睨みつけていた。


【to be continued】

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― 新着の感想 ―
[一言] セシリア...! でも魔王が首をはねられた今、彼女は果たして不死なのだろうか...契約者相手に勝てるのか!?
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