全ての元凶 -???-【因縁】④ ※挿絵有
「アンヘル……、お前も憐れだな。異世界から来た"勇者"と名乗ってはいるが、あの男は"勇者"なんかじゃない。そいつは、"邪神"と契約してストラノ王国に牙を剥いた"異世界人"を処分する為に召喚された、何の力も持たないただの人間だ! 勝手に"勇者"と名乗り、"邪神"と契約した同じ異世界人を"魔王"に仕立て上げた卑怯者! お前たちが崇め称賛を送っていた王は、幻想なんだよ!」
「一体、どこでそんな事を……っ」
アンヘルが動揺してマティに掴みかかりそうになるが、首元に当てられた剣がそれを許さない。
剣に動きを止められたアンヘルは歯噛みしながら此方を睨みつけているが、マティにはそんな姿さえも憐れにしか見えなかった。
「出どころなんて、今更どうでも良い話だ。信じたくなければ信じなければ良い。ただ、当の本人が否定できない所を見れば、事実か否かは明白だろう?」
再びフシャオイに視線を寄越せば、呆然としたまま震えていた。
事実が世界に向けて明るみになる事を恐れているのか、それとも、間もなくやって来る死に対して恐怖を感じているのか。
いずれにしても、威厳に満ちたあの姿はもうここには無かった。
「すべては"異世界人"が悪い! 召喚された、"異世界人"の存在がこの世界を歪ませたんだ!」
「いい加減にしろ、マティ! 勝手に"異世界"から召喚したのは"こちらの世界の人間"だ! 王は被害者だ! この世界を歪ませたのは王ではなく、ストラノに他ならない! 根源をすり替えるな!」
「獣人ごときが、軽々しくその名を口にするな!」
激高したマティがアンヘルの首元に突き付けていた剣を滑らせ右の肩口へ突き刺せば、くぐもった悲鳴が上がる。
思っていたよりも薄い反応に不満は残るが、逆に甚振り甲斐があると思い直して突き刺した剣を引き抜いた。
傷口を押さえ、激痛によろめき膝をついたアンヘルを一瞥した後、マティは鋭い視線と剣先をフシャオイに向けて叫んだ。
「フシャオイ……、お前をこの上ない程の苦痛と絶望の中へ叩き落してから始末してやる! この国を焼き尽くして、皆がお前を恨みながら死んでいく様をそこで見届けるんだな!」
手始めにフシャオイが最も信頼を寄せているアンヘルを標的にし、マティが剣を振り下ろした。
けれど、アンヘルもやられてばかりはいられないと振り下ろされた剣を護身用の短剣で弾き立ち上がる。
動く度に肩口から激しく出血し、アンヘルの服は真っ赤に染まっていた。
大抵の人間なら既に戦意を喪失してもおかしくない状況だが、それでもアンヘルは反撃を諦めていないのか短剣を構えて見せる。
どう見ても絶望的な状況であるのに諦めないアンヘルの姿を見たマティは人知れず感心し、その敬意を表して苦しませずに逝かせてやろうと再び攻撃を仕掛けた。
無傷の左腕を使いマティの剣を短剣で弾き避けるアンヘルだったが、常日頃から実践を重ねているマティとの力の差は歴然としていて中々反撃が出来ないようだ。(もちろんマティにも反撃をさせる気はないが)
更に右の肩口からの出血が、急速にアンヘルの体力を奪い動きを鈍らせる。
……このままアンヘルが失血で意識を失うのも、時間の問題だろう。
そうマティが考えた直後、アンヘルの意識が逸れて僅かな隙が出来た。
その一瞬の隙をついて止めを刺そうとしたが、間一髪で横から防御魔術に妨害されてマティの剣が弾かれる。
魔術が放たれた方向を見れば、マルグレットがフシャオイを庇うように前に立ち術式を描いていた。
「お前も俺の話を聞いていただろう? そんな奴の為に自分を盾にするなんて、馬鹿げていると思わないか?」
「例え王が何者であったとしても、私が忠誠を誓った方に変わりはありません! 私は王の騎士である事に誇りを持っています!」
「そこで腑抜けた顏をして座っている老いぼれを庇うなど、とても正気とは思えないな!」
「正気じゃないのはあなたの方です、マティ!」
珍しく感情をむき出しにして怒っているマルグレットが魔術を放つと、地面から飛び出して来た魔力の鎖がマティの手足の動きを止める。
けれどそれもほんの一瞬で、マティがあっさりと魔力の鎖を破壊すれば、マルグレットが僅かに怯んだ。




