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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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ただ、キミの愛が欲しい -Silvio-Ⅵ【誤算】④


 ……それにあの呪いはただ、彼女を苦しめる為にかけた物ではないような気がする。


 六十年以上もの間、彼女を蝕み続けている()()()()の呪い。

 仮に彼女に恨みがあり苦しめようとするならば、そんなまどろっこしい真似はしないはずだ。

 もっと効率的に苦しめる残酷な方法は、他にもごまんとある。

 やはり彼女にかけられた呪いには何か別の意味があるのではないかと思い至った所で、シルヴィオの元に偵察部隊が帰還した。


「お帰り! 偵察お疲れ様」

「シルヴィオ団長。先程の通信で伝え損ねてしまったのですが、魔王を封印していた結界とは別の結界が張られていた形跡がありました」

「別の結界の形跡?」

「はい。既に魔王の手によって破壊されていたようで、よく確認しなければわからない程微弱なものでしたが、確かにありました。……それから、周辺に魔物の姿がただの一匹も見当たらないのが気になります」


 確かに、そう言われれば<封印の地>へ到着してからは魔物に遭遇していない。

 ここに来るまでの間、魔物や賊も飽きるくらい襲って来ていたのに、この地に踏み入れた途端不自然な程に魔物を見かけていないのだ。

 一時は、第二騎士団から偵察が出される程に魔物が溢れ返っていたはずなのに。

 単純に"魔王"がここを離れた事によって魔物が生み出されなくなった可能性があるのではとも思ったが、すぐさまその考えを否定した。


 ……そもそも、"魔王"はどうやって魔物を生み出していたんだろう?


 "魔王"と同じく"邪神"と契約しているシルヴィオは、魔物を生み出すことなど出来ない。


 ……契約した"邪神"の元々持っている力なのか、それとも契約時の願いによって生み出せるようになったのか?


 いくら考えても出ない答えに時間を割くのも無駄だと一旦思考を止めると、一先ず偵察部隊の騎士達を労い、転移魔具が動くようになるまで休憩する事を指示した。

 ちらりとイヴォンネ達の様子を窺うと、思うように作業が上手く行っていないのか僅かに焦りが見える。

 この様子を見る限り、転移魔具の作動を阻害しているのは"魔王"か、もしくはそれに匹敵するレベルの魔力の持ち主で間違いないだろう。

 簡単に言えば、後者は三体目の"邪神"と契約している人物だ。(それ以外に考えられない)


 ……そして、魔王の陰に隠れて"三人目の契約者"がしれっとロガールを襲っている、と。


 それらも全て想定した上で、シルヴィオは予め対策としてユーリと言う名の駒を手元に置いてあった。(三代目勇者(アイリ)の日記をユウキへ渡すよう誘導し、後日罪悪感を抱えたユーリを否定せずに肯定してやれば簡単に手中に落ちてくれた)

 実に素直で愚直な彼には事前に魔石を渡し、城に異変が起こった際に魔力を注ぐようにと指示してある。

 その魔石は使用者の魔力を全て吸い取り、書庫に仕掛けておいた魔石の欠片を爆発させるのだ。

 書庫を完全に破壊し本を全て燃やし尽くしている間 (王の結界が張ってある部屋の本も、壁さえ壊してしまえば例外なく燃えてくれるだろう)、爆発した魔石の欠片から流れ出た魔力はシルヴィオの魔力の痕跡を辿ってロガール全体を包み込む手筈になっている。(シルヴィオの魔力の痕跡はイヴォンネからくすねた転移魔具にそれぞれ残し、それらの設置をアンジェロに任せておいた)

 そうする事で、ロガールを覆い尽くしているだろう強力な魔力を一時的に中和させる事が出来、魔具も阻害を受ける事がなくなり正常に動くと言う訳だ。


 ただ一つ気になるのは、ユーリの魔力がどれ程あるのかと言う点だ。


 転移魔具が使えなくなってから時間はかなり経過しているが、未だに魔具に何の変化も見られないのだ。

 魔石の存在を忘れているのではないだろうかとも思ったが、責任感だけは強いユーリがそんなミスをするとは考えにくい。

 となると、後は彼の魔力が仕掛けを動かすには少々不足していたと言う結論に至ってしまう。


 ……うーん、ちょっと人選を間違っちゃったかなぁ?


 ここで人選ミスが発覚するとは思いもしなかったと独り言を呟くと、不意に襟を掴まれて引き摺られるように腰かけていた岩場から降ろされた。 (以前どこかで同じような目に遭った事ような気がする)

 

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