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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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レオン・ノエルと言う名前 -Leon-Ⅲ【落手】②

 暫く暗闇を歩いていれば、先程の青年と小さな子供が木の(うろ)に身を隠している姿が見えた。

 どうやら兵士達を撒いているようだ。

 レオンは身を潜めている青年の顔を見ようとしたが、深く被ったフードに邪魔をされて窺う事は出来なかった。


『お前、何でさっきの兵士にボコボコにされてたんだ?』

『……僕は、とある神様を信仰している一族なんだ。その信者の証のペンダントを落とした所を見られて、捕まっちゃった』

『この世界にも、宗派なんてあるんだな』

『うん、たくさんあるよ! 僕の信仰している神様は"邪神"として異端視されているけど……、でも、本来は神聖な神様だったんだ! 口承でしか伝わっていないから、僕達信者しか知らない事実だけど……』


 子供は懐にしまってあった"神を象徴する文様"のペンダントを見せながら、話を続ける。


『神様が"邪神"になってしまったのには色々な理由があるんだけど……、とにかく、神聖な神様を"邪神"にしてしまった罪を償う意味も含めて巡礼しながら神様への信仰を集めているんだ。信仰する人間が少しでも増えれば、いつかは神様も元の姿を取り戻してくれるだろうって』

『……無宗教の俺には良くわからない話だな。要は宗教の勧誘もしてるって事か?』

『無理矢理勧誘なんかはしてないよ。……でも、良かったらお兄さんも信仰してみる?』

『いや、やめておくよ』

『どうして?』

『無理矢理勧誘しないんじゃなかったのか?』


 揶揄うように言った青年に頬を膨らませて見せる子供だったが、ぽつりぽつりと会話を交えた事で余所余所しかった二人の距離は近くなったようだ。

 それから暫く(うろ)から辺りの様子を窺っていた青年は、兵士の気配が完全に無くなった事を確認すると、再び子供を背負って森を駆け抜けた。(どうやらこの先に、子供と共に巡礼している信者達が待っているようだ)

 森を抜け、青年が子供に簡単な挨拶をして別れを切り出すと、子供は青年の手を取って小さな傷をつける。

 それから、同じように子供の指先にも小さな傷をつけ青年の手の平の傷を始点に何かの文様を描くと、小さな声で聞き慣れない言葉を使って(まじな)いをかけた。

 (まじな)いがかかった事を証明するように、淡く光った文様はゆっくりと青年の手の平に吸収されて行くように消えてしまった。


『急に傷をつけてごめんね。このおまじないは、僕たち一族に伝わるものなんだ。お兄さんの清らかで高潔な魂の一部を僕と共有するの。そうすれば、この先お兄さんに何かが起こって肉体が滅びたとしても、魂は僕の中で生き続けるんだ。一生でたった一人にしかかけられないお(まじな)いだよ』

『……そんな大事な(まじな)いを、見ず知らずの人間にかけて大丈夫なのか?』

『お兄さんは、あの兵士達の迫害から僕を助けてくれた恩人だから、その恩を返しただけだもん』


 どことなく誇らしげに主張した子供は、勢いに押されて黙った青年を見てにこりと笑った。


『そうそう! お兄さんの魂と僕の魂を繋げて守ってくれるのは、さっき話した神様なんだよ? だから、もしもその神様に会う事があれば、お兄さんの名前を教えてあげてね。もちろん、会うような事が起こらないのが一番だけど……』

『おいっ、断りも無しに俺に邪神と契約まがいな事をさせるなよ!』

『邪神じゃないもん、神様だもん!』


 子供の爆弾発言に軽い言い合いが勃発したが、あまりに必死な子供の姿を見た青年は早々に諦めたのか肩を竦めて見せる。


『……まぁ、所詮はお(まじな)いだからな』

『信じてないの?』


 子供が青年の顔をじっと見つめていると、青年は何かを考えた後、子供と目線を合わせるように膝を地面につけ、


『もしも俺に何かが起こった時には、代わりに、………を守ってくれ……』


 一部声が聞き取れなかったが、確かに彼はそう言って子供と小指を絡ませた。

 子供は満面の笑みを浮かべて頷き青年にお礼の言葉を残すと信者達の元へと駆けて行き、そこでまた全てが闇に溶けて行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魂の一部、誰かを託す、邪神と呼ばれた神様... あまり語られて来なかったレオンも、どうもかなり中心人物か?それとも別の誰かの記憶なのか... というか無事だよな!?走馬灯とかではないよな!?…
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