レオン・ノエルと言う名前 -Leon-Ⅲ【落手】①
レオンは一人、佇んでいた。
真っ暗な空間。
上下左右すらも曖昧な暗闇。
立っているのかどうかさえもわからないこの世界は、恐らく、夢の中なのだろう。
そう理解したと同時に、頭がズキズキと痛む。
夢の中だと言うのに鮮明なこの感覚は不快でしかなく、レオンは痛むこめかみを押さえた。
――― ……、心配するな……。俺が、絶対に守るからな……。
ふと、そんな声が頭の中に響き渡る。
聞き覚えのある声だが、一体誰の声なのか。
止まない頭痛と、声の主を思い出せないもどかしさに眉を顰めていれば、いつの間にかレオンの目の前に小さな少年が蹲っていた。
周囲にはどこかの国の兵士と思われる大人が数人立っており、小さな子供を執拗に甚振っていた。
何故こんな酷い事をするのかと、夢と知りながらも仲裁に入ろうとしたが、当然の如くレオンの声は彼らに届かない。
『おい、そろそろこれくらいにしとかないと、このガキ死ぬぞ?』
『異端者のガキが一人死んだ所で、誰も気にしねぇよ』
『巡礼なんかしたって、お前の信じる神様は助けちゃくれねぇんだよ』
『ほら、お前の信じる神様に、助けを乞うてみろよ』
小さな身体に容赦なく降り注ぐ暴力と暴言。
見ていられないと思わず兵士の肩に手をかけたが、レオンの存在など無いと言わんばかりに身体をすり抜けてしまう。
夢であるにも関わらず、どうにかならないだろうかと周囲を見渡していれば、不意に兵士の一人が勢い良く吹っ飛んだ。
何事かと振り返れば、フードを深く被った青年が蹲っている子供を背負って走り去る所だった。
すかさずその後を追う兵士達の姿を目にした所で、彼らの姿は闇に溶けて行った。
……一体、何の夢を見ているのだろう。
決して良いとは言えない夢の内容に不快感を覚えているのに、意識が目覚める事を許してはくれない。
身に覚えのない夢のはずなのに、既視感のようなものがレオンをこの場所に引き留めるのだ。
……何か、僕に関係がある夢なんだろうか。
もし可能性があるとするのなら、長らく失っているレオン自身の記憶の一部なのかも知れない。
これまで何一つ思い出す事が出来なかったのに、今になって何故と不思議に思いつつも、レオンは闇に溶けて消えた彼らの姿を追うようにその場から歩き出した




