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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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明らかに不自然だった -Leon-Ⅱ【疑念】②

 扉が開くと同時に、その場にいる全員の纏う空気が引き締まる。

 各団長が集められたこの場所へ、久しぶりに現れた王の姿に背筋を伸ばし、同時に安堵した。

 勇者を召喚してから今日まで長く臥せっていたと言う王は、以前よりも少し痩せ、顔色も優れないようだ。

 それでもこの場に現われたのは、昨日行われた建国祭の最中、魔物の襲撃があった事を受けてなのだろう。

 アンへルに支えられるようにして上座の椅子に腰かけた王は深く息を吐くと、この場にいる一人一人の顔を見てから口を開いた。


「昨日の魔物の襲撃……、皆の活躍により最小限の被害で済んだ事に礼を言う。我が国の民も他国からの来賓客も、一人の死者も出さずに済んだ」


 本当にご苦労だったと続ける王の言葉が終わると、控えていたアンヘルへ目配せをし、彼がこの場を仕切る事を宣言する。

 まだそこまで話ができる程体力の回復はしていないのか、背凭れに背を預けるようにして座る王の姿は、今まで以上に痛々しかった。

 そんなことを考えていると、アンヘルが話の進行を始め、魔物の撃退に当たった各団長から様々な報告が上がり始める。

 当時、城内の警護をしていたレオンとシルヴィオには蚊帳の外の話だが、それでも報告を聞き漏らす訳には行かないと耳をそばだてた。

(シルヴィオに至っては、話を聞いているのかさえ微妙だ)

 様々な状況や事後処理の報告を耳にしながらそれらを頭の中で整理していれば、ジョエルからその場に居合わせていた勇者についての報告が上がり、一斉にその場が静まり返る。


「勇者様は魔術が使えないと聞いていましたが、あの時、彼が描いた術式が発動したのをこの目で確認しています。その後、魔物が一斉に消え、結界の修復までされていました。今まで、見たことも聞いたこともない魔術です」


 その報告に「私も初耳よ」とイヴォンネが呟き、それに応えるように頷いたジョエルは更に話を続ける。


「それから、これは憶測ですが……、勇者様の魔術が発動する為の要因は、もしかすると一緒にいる子猫にあるのではないかと……」


 にわかには信じがたい話ではあるが、ジョエルが冗談でそんな発言をする訳がないとその場の誰もが思った事だろう。

(実際その話に驚きはしているものの、誰一人として反論はしていなかった)

 少しの沈黙の後、その場を見守っていた王が静かに口を開いた。


「今回召喚された勇者は、今までとは異例で子猫を連れていた。もしかすると、異界から来た事によって子猫にも何らかの力が宿った……、もしくは、本来()()()()()()であるはずのものを()()()()()()()のかも知れぬ」


 所詮はこれも憶測にすぎないがと続け、王が勇者の容態はどうなのかとマルグレットに訊ねれば、


「大きな怪我もなく、回復も順調です。少々、国の現状に戸惑ってはいらっしゃいますが……」


 と、彼女は苦笑いを浮かべて見せた。

 国の現状とは、昨日の勇者の活躍によって魔物が撃退された事を受け、国民が歓喜の声を上げている事を指すのだろう。

 勇者のお披露目はまだ先であったはずなのに、思いもよらぬ事態でその姿と力を多くの人々の目の前で晒してしまえば当然、そうなってしまう訳だ。

 魔物の襲撃を受けたにもかかわらず、城下では未だ興奮冷めやらぬと言った状態で、城にも勇者への献上品が途切れる事無く届けられていた。

 収拾がつかなくなりそうな事態にどう対応するべきかと頭を悩ませた王は、


「……今は勇者の回復を待つ期間とし、二か月後には大々的に彼を国民へ紹介する事としよう」


 それまでは見守るように国民へ通達を出してほしいと続け、アンヘルへ話の進行を促すと再び背凭れに背を預ける。

 その顔色は、この部屋へ来る前よりも白くなっていた。


「それにしても、何で結界があんなに簡単に破られたんだ? 城と城下に張られた結界は他よりも頑丈なはずだろ?」


 不意に発言したレナードの疑問は最もで、レオンも彼と同じく、容易く結界が破られた事に疑問を抱いている。

 イヴォンネの魔術を信用していない訳ではないが、こうも容易く結界が破られてしまうと様々な疑念が出て来てしまうのだ。


 結界を壊せるのは、魔王か魔王と同等の魔力を持った魔物であると言う前提で張られた結界だが、今回襲撃して来た魔物は、報告によると魔王と同等の魔力を持っているとは言い難いものばかりだった。

 それなのに、中央広場の結界を魔物が力づくで破壊してしまったのだ。

 明らかに不自然だった。


「結界を破られてしまった事は認めざるを得ないわ。でも、私達だって結界の状態を常に確認していたし、実際、破られる直前まで結界に異常はなかった。通常ならあり得ない事よ。……()()が……、いえ、()()が邪魔をしているとしか考えられない……」


 でもどうやって、と顎に細い指を当てて考えるイヴォンネの言葉を聞きながら、レオンは考える。

 大勢の人の目がある中で、誰にも見られずに結界を破る手助けなど出来るものなのだろうか。

 人の大半はそれ程他人に興味がないとは言えど、あの建国祭に集まった人の数を考えれば、一人くらい目撃者がいてもおかしくない。

 けれど、そんな報告は今の所出ていないし、誰一人として目撃したと名乗り出る気配もないのだ。

 そうなると、やはりそこにはそんな人物は()()()()()と結論づけるのが普通だが、レオンにはそれがどうにも引っかかって仕方なかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] そうか、やはり猫ちゃんは重要...使い魔と考えると、浪漫ですねぇ。 そして、何やらきな臭い雰囲気に...暗躍者は誰なのか...
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