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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第三章 森岡海とシンデレラボーイ
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第六十七話◇森岡海

 私が足取り軽やかに教室まで向かっていると、息を荒くしながら月島くんが横に並んでいた。


「海くん、海くん、海くん!?」

「なーに? 聞こえてるよ。そんなに呼ばなくたって。丁度いいじゃん。由真に案内してもらってよ。なんかヤル気満々みたいだし」

「ちょっと、ちょっとお~」


 うざったいな。シカトしよ。と私は正面を向いたまま歩き出す。


「うーみくん? ねぇ……、怒ってるの? ゴメン。俺、強引だった? 反省してるよ。案内なんてどうでもいいんだ。ただキミと一緒にいたくて、さ」


 何言ってんだコイツと思いながら教室へ入り、自席へと座る。そこに月島のアホもくっついて来た。


「ねぇ、海くん。放課後一緒に帰らないか? そしてウチのマンションにおいでよ。どんなところか見せたいしさ」

「あー、おあいにく様。放課後は部活があるんだよねー」


「部活! 何部?」

「バド」


「へー、バドミントンかあ。興味あるなぁ」

「ふうん。じゃあ入ったら?」


「うん! そうするよ! 入部の仕方教えて!」

「あー、男子わあ、あそこの佐々木に聞いて。おーい、佐々木ぃ」


 すると佐々木は月島のボケと仲良くなりたいのか積極的に話してきたが、月島くんは上の空っぽい感じで適当に聞いていた。

 佐々木が『邪魔しちゃ悪いから』とか訳の分からんことを言って草々に去ったので、月島くんを睨みながら言った。


「何、今の。感じ悪いよ。佐々木が一生懸命教えてくれてるのに、早くいなくなれみたいな感じの視線と声のトーン。ドン引きなんだけど。やっぱり自分は大富豪の息子みたいな意識なんですかねぇ。嫌いです。そーゆー人」

「あ! あ、ゴメン。違うんだ。その、ホントに……ゴメン、なさい」


「謝るのは佐々木にだと思うけどぅ」

「そうだよね、おーい、佐々木くん!」


 なにやら佐々木の元に走ってペコペコ謝っている。佐々木もお人好しなのか『いーよいーよ』とか言ってる。何も頭を踏んづけてやりゃいいのに。

 その時、先生が入ってきてようやくホッとしたが、月島くんはわざわざ私のところに来て、謝った旨を報告に来た。


「海くん、謝ってきた。許して貰えたよ」


 すでにシーンとしている教室にその声が響く。私は頭を押さえた。それじゃまるで私が命令してるみたいじゃんか。

 この成り上がりお坊っちゃんを裏で操作してるみたいに? 勘弁してよ。


「分かった。分かったから授業始まるので席に戻って」

「うん。じゃあまた後でね」


 素直、従順。でもどうしたらいい? アイツの存在が授業に身を入らせない。

 なんであやつは私にベッタリなんだ?

 まあ、学校に来たばっかりで、知り合いも友人もおるまい。そりゃ、優しすぎる私に頼りたい気持ちは分かるよ? でもあんまりベッタリ過ぎると、私が友達とかと話す時間がなくなる。

 ここは、月島くんには友達を作って貰って、学校生活をエンジョイして貰えばいいんだ。


 次の休み時間にも月島くんは私の元にやって来て、何やら色々話し始めたが、それを遮った。


「ソラはそうやって私のところにくるけどさぁ、みんなソラに興味津々な訳でしょ? 私だけじゃなく、みんなとも話してよ。そして友達をたくさん作るの。友達はいいわよー、人生の宝です」

「そうだね。そんで、彩花がさぁ──」


 いやいや聞いてない。この少年。さやちゃんの話は聞きたいけど、私の言うことが聞けないわけ?


「聞いてる? ソラも友達を作るの。みんなソラと仲良くしたいんだから」

「まさか。貧乏な時には気にもしてなかったのに、金持ちだと知ったとたんに手の平クルクルの連中なんて、さ」


「ちょっと、ちょっと。私だってソラの家に行く前は貧乏とか知らなかったよ? ソラは学校に来てなかったわけだし、誰もそれを知るわけないじゃん? お金があるとかないとか、そんな物差で考えてるのはソラのほうだと思うけど?」


 すると彼は大きく頷いた。


「そっか。やっぱり海くんはすごいね! 俺気付かなかったよ。そうか、友達かぁ。じゃ自分から話し掛けてみるよ!」


 うーん。いい子。彼は男子の群れの中に飛び込んで行った。すぐさま男子たちの中心に立って話している。まあ退屈しないよね、アイツは話し好きだし。

 さて、私も友人たちと話して来よう。

 しかし、私の友人たちは月島くんのことで目がキラキラだった。


「月島くんってすごいね! イケメンだし、背は高いし、お金持ちだし」

「ねぇ、月島くんがお金持ちだって知ってたの?」

「やっぱり月島くんと付き合ってるんだ」

「ささ、私たちのことはいいから月島くんのところに行ってあげて」


 いや、なんだこの月島フィーバー。月島くんなんて、いつもイライラカリカリしてて、いつ怒るか分からないヤツだってのに。

 月島くんのほうを見ると、男子連中と小突き合ってる。なんか仲良くなれたみたいだね。よかった。まあそのうち治まるでしょ。




 放課後になり、部活に行こうとすると当然のように月島くんは私の隣に並んできた。そしていかに部活が楽しみか言ってるが聞き流した。

 部室の前に着いた。私が入ろうとすると、当たり前のように月島のアホは入ってこようとするので、力を込めて胸を押した。


「何入ろうとしてんのよ。こっちは女子!」

「あ、そうか。じゃまた後でね」


 後でね──。なんなのアイツ。私のほうがイライラしてる。一体何なんだ。

 部室でも部員たちは月島くんのことを聞いてきた。


「月島くんって御曹司なんだって?」

「イケメンだし、大富豪だし、うらやましいわー」

「そんな月島くんと付き合えるなんていいなー」


 そーだろーね。付き合えたならね。別にどうでもいいけど。私はお兄ィみたいな優しくていじり甲斐のある人がいいな。


 部活が始まると、男子は練習そっちのけで月島くんに付きっきりだった。

 まあ先生が来たら叱るだろうと思っていたが、先生も来た草々、歓迎の表明をし、和気あいあいな雰囲気となっていた。

 どうでもいいと練習にいそしんでいると、男子の顧問、女子の顧問の先生お二人で何やらお話を始め、私のことを大声で呼ばわった。


「森岡、こっちに来たまえ!」

「は、はい」


 行くと先生お二人は笑って私を迎えてくれた。一体なんなのさ。


「森岡。新しく月島が入ったことは知っているな」

「はい、それはもう……」


「キミには月島の指導をしてもらう。彼は二年生だが経験はない。そこで初歩から、使い物になるように鍛え上げて欲しいんだ」

「あの~、えーと~」


「どうした?」

「いえ、私は女子ですし、男子から習ったほうがよいのでは?」


「なんだ。話は聞いているぞ。キミは月島と仲が良いのだろう? これは月島からの指名なのだ。我々もキミが適任だと思うよ。熱心だし、後進を育てるのが上手じゃないか」

 

 そーなのよねー、私ってば。

 う。しかし、またもや月島のボケと同じ時間、同じ環境を過ごすことになってしまった。

 ヤツは借り物のラケットを持ってニコニコしてやがる。クソが。さっさと適当に覚えさせて離れることにしよう。


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