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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第三章 森岡海とシンデレラボーイ
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第六十五話◇森岡海

 村田家に急ぎ足で向かっていると、またもや由真のヤツが取り巻きを連れて待ち構えていた。色々思うところもあるし、ムカついていたので顔も見たくはなかったが仕方ない。シカトしながらすり抜けようとした。しかし、由真はすれ違いざまにイヤミを吐く。


「あの男は登校拒否の村田なんですってね。優等生のヤリマンは、貧乏な村田に金でも払って抱いて貰ったのかしら~?」


 私は腹が立って足を止め、由真へと詰め寄ろうとしたが、取り巻きに囲まれて身動きが取れない。その時、後ろから声を掛けられた。


「あ、あら、森岡さん。偶然ね」


 振り返るとそれは一條先輩だった。彼女は気安く私の肩を抱いて、このイヤミ集団の囲みを破ってくれたのだ。由真も先輩に遠慮してか歯噛みしていたので、少しばかり溜飲は下がった。

 一條先輩は小声でささやく。


「ダメよ。ああいう連中は相手にしちゃ。そんなことしたら向こうの思うつぼなんだから」

「あ……、そうですよね。一條先輩、すいません。ありがとうございます」


 そうだ。由真たちは、いきり立った私を今度は我慢も出来ないとか、なにもしてないのに一方的に、とか言ってくるに違いないのだ。先輩が偶然に通りかかって下さって、助かった。

 私がそう思っていると、一條先輩は顔を赤くしながら聞いてきた。


「あのぅ……、森岡くん、今日お休みだったけど、何かあったのかな? 体調不良? あれだったらお見舞いとかしていこうかしら?」

「え? ああ、一條先輩は兄とクラス一緒ですか?」


「い、いえ、違うの。お休みだって、あの、聞いたから。先生から、その、休み時間に。そう、だから、気になっちゃって」

「ああそうですか。別クラスなのに、気にかけて下さってありがとうございます。兄はインフルエンザなので、お見舞いはしないでください。うつりますよ」


「あ……そう。……そうなの」


 なにかとても寂しそうな顔……。ま、まさか一條先輩は兄のことが好きなのでは? まさかね。ないか、それは。一條先輩にはハイスペな王子様や公爵令息がお似合いであって、兄のような平々凡々な全てがアベレージなのを好きになるわけないもんね。

 まあ好きになってくれたら嬉しいけど、さ。


 一條先輩はチラチラと我が家に視線を送りながらも、名残惜しそうに私に別れを告げて帰っていった。私もこうしちゃいられなかった。

 急いで村田家へと行くと、なにやら騒がしい。村田くんと女の人の声。喧嘩しているようだ。

 部屋の扉をノックしても気付かないようなので、そっとドアを開けると、村田くんとどぎつい化粧をしたおばさんが喧嘩をしていた。


「やめてくれ母さん! それは家賃なんだ!」

「うるさいねぇ。子供の金は親の金だろう。あんたがこんな大金持つなんて危なっかしいから母さんが預かるのさ」


「ここを追い出されたら、彩花はどうするんだ! いい加減に親らしくなってくれ!」

「はいはい。ガキはうるさいね。さっさと働きに出な」


 どうやら村田くんのお母さんのようだが、これはヒドイ。さやちゃんは怯えて部屋の隅で小さくなっているし、村田くんが稼いだお金を持っていってしまうようなのだ。


「やめてください! おばさん!」


 私は玄関で叫んだ。もちろんこの親子に対しておせっかいだとは分かっている。しかしこんな場面を見せられて、黙って帰るなんてことは出来なかった。


「なんだい、あんた」

「う、海くん」


 村田くんのお母さんは私に近付き、ジロジロと上から下まで見てから言った。


「はーん。あんた宙の彼女? へー、宙もすみにおけないね」


 すると村田くんは、両手を振って否定した。


「そ、そんな。海くんはとても親切にしてくれるだけで、彼女だなんて、そんな、まさか」


 なにをブツブツ言ってるか分からない。モタモタしてたらお母さんに家賃持ち逃げされるんじゃないの? 案の定、村田くんのお母さんは私の横をすり抜けて部屋を出ようとしたので服をつかんで足止めした。


「行かせませんよ! 育児放棄した上に、息子のバイト代まで持ち逃げするなんて! あなた母親でしょう!?」

「うるさいねぇ。あんたに関係無い!」


「ヒドイですよ。先日なんて、村田くんは病気で死ぬ思いをしたんです。子供なんて、病気は辛くても楽しいものです。学校はどうどうと休めるし、家族みんなに優しくしてもらえる。私の母は特別に会社を休んで看病してくれました。どんな親でも側にいる状況で、おばさんはいなかった。村田くんは何度も『母さん、母さん』と寝ながら言ってましたよ? それなのにあなたは……」

「だからなんだってんだい! はっはーん。そんな寝言を聞くなんて、あんたは宙の看病でもしたんだね。へぇ~、そこまでするとは見上げたもんだ。あんたも宙の彼女なら、体でも売って宙のために金を稼いだらどうだい!」


「なにを言ってるんです! 子供二人も置き去りにして無責任なことばかり!」

「はいはい。生徒会長かなんかかい、あんた。世の中は綺麗事じゃ通じないのさ。私はまだ若いんだ。コイツらを産んでなにも楽しいことなんてなかった。その分楽しく遊んでなにが悪いってんだよ!」


 その時、玄関にスーツを着たイケオジがボイスレコーダーを片手に現れた。村田くんのお母さんは顔を真っ青にして立ち尽くしてしまった。


「話は聞かせて貰ったし、ネグレクトの状況は録音させて貰った。友里恵(ゆりえ)、キミは月々の百万の養育費を宙のために使わず、あまつさえ置き去りにしていたようだね」

「ぐ、長武(たける)……」


 村田くんのお母さんはすぐさま村田くんへと駆け寄って、彼の後ろに回った。そして今までとは打って変わって猫撫で声で村田くんへと言う。


「宙、宙。私の可愛い息子。お父さんはなにか勘違いしているみたいだから言って上げて。僕たちは毎日楽しく一緒に暮らしてるって。でも高校に行くためにお金が足りないから、5千万ほどお金をください、ってね」

「と、父さん……なの?」


「そうさ。お父さんはお前を捨てた上にお金もくれない、とんでもない悪い男なの。さあ、言ってあげな」


 しかし村田くんはお母さんの腕を振り払った。そして叫ぶ。


「な、なにがだよ! 母さんこそ母親らしいことを俺たちにしたのか? 俺は母さんに言われるままに一緒に出て、離婚したなんて知らなかったし、父さんの顔なんて覚えちゃいない。そんな俺に何したってんだよ。甘えさせてくれたことなんてあったか? イヤミや体罰はたくさん貰ったよ。早く大人になって楽させろだの。そうするもんだと思ってた。そしたら母さんは幸せになるのだと。でも、母さんはとっとと彼氏を作って、彩花を産んで、別な男と出ていった。母さんは最低だ! 最低だよ!」


 私は、村田くんが激昂する少し前にさやちゃんの元に行って、その身を抱いていた。この言葉が聞こえないように。見えないように、きつく……。


 しかし、村田くんのお母さんは、悪びれもせず機嫌悪くそっぽを向いた。


「はいはい。バカくさい。面倒だよ、あんたら」


 そう言って手荷物を取ると出ていこうとしたが、村田くんのお父さんは怖い顔でその手を掴んだ。


「どこに行くつもりだ。まだ話は終わってない」

「うるっさいねぇ! あんたの勝手にすりゃいいだろ。このガキどもなんてみんなあげるから通しやがれ」


「言ったな。宙は返して貰う」

「おおそうだ。だったら買わない? 一匹一億でどう?」


「残念だな。宙を金としか考えていないお前には、丁度いい制裁だ」


 村田くんのお父さんが親指で後方の外のほうを指し示す。そこには赤々と光るパトランプがある。村田くんのお母さんは、驚いて逆方向へ走り窓から出ようとしたが、そちらにも刑事風の男が待ち受けていた。


「宙を探すために探偵を雇っていて良かったよ。お前の最低な悪行が次々と入ってきた。男と共謀して詐欺や恐喝、売春の斡旋、窃盗など上げればキリがない。刑務所で懺悔するんだな」


 思わぬ村田くんのお父さんの登場と問題の解決に、私は手を固く握っていたことに気付いた。

 これで村田くんもさやちゃんも幸せに近付ける、と、そう思ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ま、まさか一條先輩は兄のことが好きなのでは? まさかね。ないか、それは えー瑠菜ちゃん空きゅん好き好きオーラ出てたと思うんだけどなぁ。 さやちゃんと遊んでいるところをコッソリ覗いていた時と…
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