第二十三話
「それそれーい」
「ああ、クソ! 貴様卑怯だぞ!」
「おっさき~」
「わー! やられた!」
ここは俺の部屋だ。間違いない。男の城なのだ。それが今、女四、男一で、男率は20パーセントまで低下し、完全に俺の存在はすみに押しやられていた。
そもそも、先日の国永さんの投げ技で、俺は全身打撲で動けない状態。二週間ベッドの上で安静療養となっており、学校も休んでいた。
一條瑠菜。キミはいい。恋人だしな。むしろいて欲しい。お見舞いと称して世話を焼いてくれる。とても感謝してるよ。
加川美羽。キミは一條さんの付き添いなだけだよね? それがグイグイ率先して、俺の部屋のゲームをやろうと言い出した。
国永夢唯。キミ……、よくこれたね。俺をこんな風にしたのはキミなんだけど? そんで部活に行けよ。強化選手とかなんだろ? よく知らんけど。
森岡海。妹のキミが、なぜこのメンバーに溶け込んでいるのか分からない。俺が国永さんに投げられたことを聞いて、笑っていたキミが──。
ブオンブオンとの排気音がゲーム機から聞こえる。俺をほったらかしにして。まあ、みんな暇でしょうけどね。こんなに体が痛かったら、一條さんともイチャイチャ出来ないし。
俺は痛い体を持ち上げて立ち上がることにした。
「よっと。いてててて」
「やん、空きゅんどこ行くの? 瑠菜もお、瑠菜も一緒に行きゅ~」
一條さんが、抱き付いてすがってきた。か、かわいい。でも痛い。
「トイレだよ。いたたたた」
俺は腰をさすりながら言う。そうすると、この中で一番デカイ女が豪快に笑いながら立ち上がる。
「なんだ便所か。よし、全身が痛かろうから、私がサポートしてやろう」
「い、いや結構……」
「やんやん! なによお夢唯ちゃん! 空きゅんは私の恋人何ですからね! 私がお世話します」
「はっはっはっ! そーか、そーか。じゃその後が私の番だな!」
なんなんだ、なんの争い? そこに加川さんがポツリと呟いた。
「お世話とかサポートってなに? 持つの?」
と言ったところで、水を打ったように静かになった。
も、持つってなにを? トイレのサポートですよね? そ、そ、それは……。
ぺ、ペ○スをですか……?
一條さんは赤くなっていたが、俺の顔を見て、股間を見た。
や、やめえ! で、でもキミなら、まあ恋人同士だし?
『じゃ、じゃ、空くん、チャック下げるね……』
『ご、ごめん。両手が使えなくて……』
『えっと……、ここかな?』
『は、はふん』
『やだ、声なんて出さないで』
『しょ、しょうがないだろお?』
『じゃあ、手を入れる、ね』
うおおおーーい!! 禁、禁、禁!!
一條さんの白魚を五本並べたような細くて白い指が、お、俺のお股にい! いやん! エッチ!
い、いや。これは医療行為の一貫なんだ。仕方ない。恥ずかしがることなどないのだ。あー、国永さん。どうして両腕をへし折ってくれなかったんだよ。そしたら今頃一條さんからサービスを受けていたのに! サービス?
俺が勢いで国永さんを睨むと、彼女は俺の全身をなめ回すように見ていた。
や、ヤバい! コイツは俺の妾になりたい女だということを忘れていた!
『おらおら、空! ションベンなら服を脱げえ!』
『な、なんで全部脱がせるんだよ!』
『お前のサポートするためだろうが!』
『う、うわ! あ、足をM字に抱えられてええ!!』
『ほーらほら、しーしー』
『くっ! こんな屈辱的なポーズでしーしーさせられるなんて!』
この筋肉ウホウホのゴリラ女! ドM男ならそれで喜ぶかもしれんが、俺は一條さんだけだし、リードしたいほうなんだよ! なんで俺の性癖を露呈しなきゃならないんだよ。
こんな想像しなきゃならなくなったのは、加川さんのせいだぞ!
加川さんのほうを見ると、自信満々な顔をしていた。
『ほら空くん、おしまいだよ』
『あ、ありがと、加川さん』
『ま、いつでも頼ってよね。陰ながら応援してる』
『うん助かるよ』
うーん。さすが加川さん。この中で一番信頼できるといえば出来る。早々に俺のトイレの手伝いを終わらせてくれると思われる。もしくは尿道カテーテルなんか突っ込むかもしれない。看護士さんなんかお似合いな職業だよね。
「でもお兄のちっちゃいから、なかなかつまめないんじゃない?」
──誰だ、今発言したヤツぁ? う、う、海よ! 俺の妹よ! みんな黙ってしまったぞ? さすが悪者、さすが悪役! 俺を蹴落とすことには余念がない!
そんでなんだ、その古い情報は! お前と風呂入ってたのは小三くらいだろ? そりゃツルツルの子どもですよ。今は大人になってそれなりの人並みサイズになっているに違いない。そう信じたい。
だいたい、その器官は排尿だけでなく、愛する女性のために使う部分でもあるから、少しばかりアピールが必要な部分。それがミニ、リトル、プチとか、この女性たちの前で発言するなんて、セクハラ確定だぞ、貴様!
うぬぬ、この体さえ本調子ならば! こんな時に、こんな時にいいい!
加川さん、キミなら分かってくれるよな? 男の価値はそんなんじゃない、女は大きさなんて関係ない、むしろ大きいほうがつらい場合があると……。
俺の中身がカッコいいと言ってくれた、俺の影の崇拝者なら……。
彼女のほうへと顔を向けると、なにその『気を落とすなよ』的な顔……。全然気にしてませんけど? それにキミ、男は心じゃなかったのお!? そうゆいてくだはりまひたやん……。
国永さんは、意味が分かってない。そのため、笑顔のままだ。だが、それがいい。キミはまったくの部外者なのだから。そのままおうちにお帰りなさい。
そして、大事な、大事な、ボクの恋人一條さん。キミなら分かってくれるだろ? 愛さえあれば、大小なんて関係ない。
香り松茸、味しめじというように、松茸なんてただのブランド。滅多に食べられない。そこ行くとしめじは毎日食べれる。回数なら任せておくれよ一條さん!
「そっか、小さいんだ……」
く、くおい! なにをしみじみと、なに恥ずかしがって赤い顔してんの? その情報に感動しちゃった? いや、キミには一生大小は関係ないでしょ? 俺だけなんだからさ?
俺だけだよね? 教えてくれよ、一條瑠菜あ!
妹の海ちゃんにはまったく悪気はありません。それが兄にとっては大ダメージだとしても。海ちゃんにとっては『お兄ィの細部まで知ってる私、どーよ』的な優越感です。
実は兄が大好きな妹ちゃんなのです。




