023-遠大にしてメガロマニア的計画
シンはブリッジにホログラムを投影する。
何かの統計であるように思えたが、アロイテには何の情報か分からない。
「これは、資産...つまり貧富の差のグラフだ。見て何か思うことはないか?」
「.........都市でも...?」
「正解だ」
「都市内部でも、貧富の差は大きいのです。都市出身だったとしても、生活レベルが貧民街並み...ということも」
生きているだけで排斥されない、というだけで、都市の内部にも貧する者たちは無数に居るのである。
しかし、数が圧倒的に多い。
貧民街を除いたとしても、下流階級が60%というのは異様な数値である。
中流階級でさえ30%。
上流階級は10%しかいない。
「貧民街を含めると、下流階級は全体の80%を占める。明らかに一部の者だけが富を独占している。......資本主義社会においては珍しいことではないが...」
「この状況を改善させ、クロファートの利権を一挙に握る計画です」
その為にはまず、何をするべきか。
オーロラなしでも、シンは答えを既に導き出している。
「こういった場合、まずはスラムの解体が優先される」
「...どう、するんですか...?」
「スラムをスラムで無くしてしまう、ということだ」
「上層」とスラムで分かれている以上、スラムを潰して住民を移住させれば必ず禍根になる。
そこで、スラムを都市化してしまうのである。
「教育機関の設立、自治・警察組織の設立を行い、都市化に伴い資産を投入し雇用を増やし、新たな経済圏を構成する」
もともと、クロファートの経済的な有利は所有する株式や利権によるところが大きい。
また、大企業の支社がいくつも存在し、そこで雇用が生まれているに過ぎないのだ。
「クロファート自体にも資源は存在するが、獣人達にこれを探す技術はないはずだ」
資源を確保する為にさらに雇用を拡大...経済圏を、それを超える資産で完全に簒奪するつもりのようであった。
しかし...
「あの...どういう事ですか?」
「分からなかったか...」
アロイテには理解できない内容である。
知識だけ身につけても、思考という糸で繋がっていなければ理解できる訳もない。
「ようは、君の故郷は生まれ変わる。都市のようになることに抵抗はあるか?」
「い...いえ...」
「なるべく彼等の幸福も尊重する。違法な商売に手を出すより稼げるはずだ」
レアメタルの採掘権と取り扱いを認めればいいのである。
クロファートに埋蔵されているレアメタルは、たった1gで合成薬物100kgの何億倍もの値がつく。
....何故なら、シン側だけが持つ技術でしか加工できないからだ。
買い取り額の更に何十倍もの価格で取引されるものだ。
「法を犯すのは、それでしか稼げないからだ。違法な物品に手を出すのは、それが確実に稼げる商材だからだ」
シンはそれをよく知っている。
そして、さらに黒い内容を口にする。
「違法物品の流通は、ウチの下位組織が引き継ぐ。流通を管理し、資産家の弱みを握る」
違法物品の需要は依然として存在しているので、下位組織に引き継がせ、中毒者たちの生命線と、それを秘匿してきた資産家の弱みを握るのである。
そんなことは不可能である、通常であれば。
しかし...
「俺にならできる。クロファートを変革する」
アロイテの前で、シンはそう言い放った。
彼が何を求めているのかは、アロイテにもわかった。
「...私は応援しています」
アロイテはクロファートのスラムの代表だ...この場においては。
つまり、彼女自身がそれに反対しないことが重要なのだ。
彼女に選択権はなく、それを彼女は肌で感じ取った。
果たして正解を選び、この場における話し合いは終わりを告げたのであった。
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