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001-13番目の少女

この世界は、平等ではない。

公平でもない。

悪くて理不尽、よくて――――弱者必衰。


「こちらベクター。東棟に侵入した」

『了解』


――――雨が、降っていた。

分厚い雲に阻まれた、月のない夜。

都市の中に聳え立つ、一つの建物に忍び込む者たちがいた。

彼らは、パーティーの主役ではない。

寧ろ――脇役。

余興を盛り上げる、縁の下の力持ちである。


『このままホールの真上の大広間に回り込め』

「了解、爆薬を設置後に騒ぎに乗じて逃げる、それでいいな?」

『ああ』


彼らは、テロという名の余興の準備に講じていた。

この建物は、下階に巨大なホールを抱える建物であり、その上部にはとある人物の屋敷がある。

警備は恣意的に解除されており、男たちは面倒なしに侵入する事が出来ているのだ。


「やはり、警備システムは作動していませんね」

「とはいえ、誰も気づかないとは.....」


男たちは警備の手薄さを嘲笑いながら、廊下を進む。

――――それが、彼等を絡め捕る『操人術師(マリオネッテ)』の思う壺とも知らずに。


「もう少しです」

「一気に突入するぞ!」


勢いを得た彼らは、重厚な扉を蹴破る。

そして、大広間に出た。

普段は月明かりを取り込み、神聖な光に満ちる広間は、今は静謐な暗がりに満ちていた。


「爆弾を設置する、手筈通りに」


広間を支えているわけではない、飾り柱に男たちは駆け寄る。

だが。

それこそが――――罠だったのだ。


「お、おい! 誰が閉めた!」

「分からん....!」


男たちは困惑する。

扉に仕掛けは無く、重厚な扉は勝手に閉まるほど軽くはない。


「――――ようこそ」


その時。

足音が、響いた。


「だ、誰だ!」


男たちは、低く澄んだ声に驚き、警戒を怠った。

『彼』の足音は、上質な革靴のもの。


「.....殺せ!」

「っ、ああ!」


男たちは瞬時に行動に出る。

彼らの種族は獣人。

夜目に優れた者であれば、相手の正体が分からなくとも、ライフルの照準を合わせる事くらいは可能である。

サプレッサーが取り付けられたライフルが、暗闇において不可視の凶弾を放つ。

『彼』は血飛沫を撒き散らし、死ぬ。

誰もがその未来を予測した。

愚かなものだ。

気付いた時点で通報すればよかったというのに。

お前ひとりに何が出来るのだというのだ?


「愚かな」


直後。

『彼』の両腕が掻き消えた――――ように見えた。


「何だ!? 何が起きた!」

「分からない!」


凶弾は、『彼』を撃ち貫くことはなかった。

代わりに、『彼』はただそこに在り、男たちに問う。


「招待状を拝見します、お持ちですか?」

「ふ、ふざけるな!」


ライフルを持った男とは別の男が、何かを投擲する。

それは、『彼』のすぐ傍に落ち、閃光と轟音を撒き散らす。

眩い光に照らされ、『彼』の姿が露になる。

黒いタキシード。

よく磨かれた革靴。

両手は白い手袋で覆われ、その顔は――――目だけが見えていた。

仰々しくもあり、しかし質素にも映るマスカレードマスクが、その目元を覆っているのだ。

閃光手榴弾を読んでいた彼女の眼は固く閉ざされ、光の中でただ黒髪が輝いていた。


「招待状をお持ちではないのであれば――――仕方ありませんね」

「クソォ! 死ねやァ!!!」


男の一人が、銃を抜く。

再び世界が暗闇に戻った時、サプレッサーのない銃が光の弾丸を撃ち出した。

それは、『彼』の眼前で、何かに阻まれて消え去った。

『彼』が眼を開く――――


「無粋なものは捨てましょう、今宵は我が主の――――晴れ舞台なのですから」


その紫の瞳が、男たちを再び睥睨するとき。

彼等の持つ武器が、同時に粉々に砕け散った。


「何ッ!?」

「ば、バカな!」


そこでようやく、男たちの中でも動体視力に優れたものがカラクリに気付く。


「い、糸だと!?」


男は周囲を見渡し、夥しい数の糸が自分たちを取り囲むように張り巡らされているのを認識した。


「いくつか質問があります」

「こっ、答えるわけが....ぎゃはっ!?」


『彼』に対し、壊れた武器を捨てて殴りかかろうとした男は、一瞬で血と肉の破片になって床に崩れた。


「なっ!」

「お、俺は逃げるぞ!」


逃げようとした男は、気付けばその体が寸分たりとも動かない事に気付いた。

ピアノ線よりも細い糸が、何重にも束ねられているのだ。

その強度も、生み出される馬力も。

ただの糸より遥かに強い。


「我が主は全てを知っておられます。なので、あなた方のお名前だけでも拝聴させて頂きます、我が主に報告するほどの事でもありませんので、遠慮なくお名乗りください」

「な....名乗るならまず、お前が名乗れぶぎゃあっ!!?」


また一人、血の海に沈む。


「では、名乗りましょう。私にこの場において赦された名は――――ⅩⅢ(ドライツェーン)


暗闇の中で、ⅩⅢはそう名乗り、丁寧なお辞儀を披露した。

だが、返ってきたのは称賛ではない。


「こうなったら――――お前ら!」

「ああ!」


設置するはずだった爆弾を起爆する。

そうすれば、この状況を打開できる。

必殺の一手だったそれに対し――――ⅩⅢは静かに笑った。

男たちは、瞬時に糸に絡め捕られ、起爆寸前だった爆弾も丁寧に分解される。


「残念です....」


ⅩⅢは、腕を振り下ろす。

それはまるで、指揮者がタクトを振り下ろすように。

大広間に、断末魔が響いた。


「ご主人様に報告しないと」


ⅩⅢはそう言うと、生者が消えた広間を後にした。

月明かりのない夜。

ここで何が起きたかを知るものは、ⅩⅢと死んだ者達だけであった。







これは、銀河を統べる男の側仕えの物語である。

『彼』であり『彼女』であるⅩⅢは、どのようにして主に出会ったのか?

どのようにしてこれ程の技巧を身に着けたのか?

始まりは、ほんの平凡なものである。

それを今より、語っていこう――――――


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