表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スぺ先輩たちの夏休み  作者: 寿々喜 節句
スぺ先輩たちの夏祭り
17/21

大塚みなみは火をつけたい

 今日は清瀬市民夏祭りに、小花と新と一緒に行く。

 でも待ち合わせは清瀬駅ではなく、その隣の秋津駅。

 小花が秋津駅ユーザーだからということもあるけれど、秋津駅からも実は会場へのバスが数本出ているらしく、清瀬駅発のバスよりそっちの方が空いているとのことで、待ち合わせ場所が決まった。

 高校入学時はこの三人で仲良くなるなんて思いもしなかった。

 はっきり言ってばらばら。性格も好みも雰囲気すらも違うと言っていい。

 なのになぜか一緒にいて楽しい。

 たぶん二人もそう感じていくれているはず。

 だから今日の夏祭りは三人で楽しみたい。

 と、言いたいところだけれど、それだけでは終わらないのが今日の夏祭りだ。

 楽しみつつ楽しませるのが今日の夏祭りだ。



  □◇■◆



 まさか新がここまで恋愛に積極的だとは思いもしなかった。

 奥手というより、むしろ興味すらないんじゃないかとも思っていた。

 新はスポーツ女子だけれど見た目も中身も可愛らしくて、モテるタイプだ。過去に何回か告白されていたけれど、どれも断っていた。 

 それなのに犬見君は違ったらしい。

 立家君の策略のあの日から、二人はそれなりに進んでいたようだ。

 秋津駅で三人揃うなり、新が「今日さ、東人たちもお祭に来るんだって」と言って合流したいと提案してきた。

 私としては全然問題ないし、幸せそうな新を見ていてこっちまで幸せになれるから、断然ウェルカムだった。

 でも小花が立家君に拒否反応を示していた。どうしてこんなにも苦手意識を持っているのだろう。悪くないと思うのに、なぜだろう。

 逆に今日、立家君がしっかりと小花にアピールできれば、小花からの評価が反転するかもしれない。

 いやいや、良くない。反省したばかりじゃないか。

 我関せずのスタンスを崩さないようにしなくちゃ。

 小花には小花のペースがある。私が関与することはない。

 とはいうものの、小花に関することではないけれど、今日は一仕事しなくてはいけない。

 花火じゃないけれど、火付け役を全うしなくちゃいけない。

 でもそれまで少し時間がある。この時間は三人でお祭りを楽しもう。



  □◇■◆



 なぜか好成績を収めたスーパーボールすくいの後、詐欺射的をして遊んだ。

 それから、新がそろそろ犬見君たちと合流したいということで、待ち合わせ場所に移動することになった。

 私もここで一つラインを入れておく。

 すぐに返信があった。

――ありがとう。私たちも向かいます。

 それを確認すると、一度スマホをしまって、三人でわいわいしゃべりながら移動する。

 この瞬間はかけがえのないものだと思う。

 あまりそういう感じを表に出さないし、気が付いてもらおうとも思っていない。

 だからドライに思われることもある。飄々としているとかそういうことも言われたこともある。

 別に何て言われてもいいから気にしていない。

 ただ言えることは、三人でいるのは楽しい、ということ。それ以上でもそれ以下でもない。

「おーい、東人!」

 休憩エリアのところで新が手を振って大きい声を出した。

 その先に甚平姿の犬見君と、なぜか普段着の立家君がいた。

 なるほど。新は見る目があるかもしれない。甚平姿の犬見は、制服とは違うかっこよさがあった。

「久しぶり、新。浴衣姿も可愛いね」

「あ、ありがとう。東人も甚平かっこいいよ」

 合流早々、距離の近い二人が、人目も気にせずいちゃつき始めた。

 小花に視線を送ると、同じことを思っていたようで、ニヤニヤしている。

 私たちに新が気が付いたようだ。こちらを向いた。

「なんか恥ずいんだけど」

「うんうん、こっちまで熱くなっちゃう」

 二人で冷やかしたら新が照れて反撃してきた。かわいい。

 その時私のスマホが鳴った。

「もしもし?」

「そろそろそっちに着くと思うわ」

「あーそうなんですか?」

「ええ、ちゃんと三人連れてきているわ」

「なんかうけますね」

「しょうがないじゃない。いきなり二人は難しいわ」

「そうですよね。あ、いました。こっちです」

「私もわかったわ。それじゃあ電話切るわね」

「はーい」

 スマホをしまう。

 小花と立家君が何かやり取りしていたようだ。

 しょんぼりしているところを見ると、小花を上手く落とせなかったのだろう。

 なかなか手ごわい相手だぞ、小花は。

「大塚さん、偶然ね」

 後ろから聞こえる、わざとらしい声に一瞬笑いそうになる。

 私は振り返り、「どうも」と会釈する。

「あら、新さんに小花さんもいるじゃない。久しぶりね」

「ウ、ウル先輩! こんちわっす!」

 体育会系の所作が出る新。ウルプログラムは終わったはずだけれど、体に染みついているらしい。

 ただでさえきれいなのに、浴衣姿でさらにきれいなケレン先輩の登場だ。

 その後ろには涼しげな姿の男性三人。まるで美人の取り巻きだ。

「お、みなみじゃん」

 取り巻きの一人、甚平姿の中っちが私に気が付いて声をかけてきた。

「中っちじゃん。なんかうける」

「あら、二人は知り合いなのね」

 事実を知っていたケレン先輩が、今知ったみたいな感じで言う。

「この子達がケレンのお友達か?」

 ケレン先輩の意中の人、加治先輩がケレン先輩の後ろからひょっこり現れて言った。

「え、う、うん。そ、そう。と、言うより……。わ、私たちの、私たちの学校の、こ、後輩よ……」

 まじか。これは重症だ。上手くしゃべれないとは聞いていたけれど、ここまでとは。

 まさかあのケレン先輩がここまでポンコツとは。あ、いや、いいすぎたかも。

 でもまあ予定通り、話しを進めよう。

「なんか、みんな集まってんのうける」

「そ、そうね。大人数もあれだから、別れるのはどうかしら?」

 先輩も頑張っているようだ。私も頑張ろう。

「なんかそれいいかも。じゃあ中っち、なんかちょっとあっちの方に面白いのがあったんだけど、なんか行ってみない?」

「え? 今から?」

 ケレン先輩のあの言動を見て察しないのだろうか。

 私は「いいから、いいから」と言って強引に中っちを引っ張る。

「あ、そ、そうだね。あっちの方、たしかに面白いのあったかも……」

 苦笑いをしながら中っちが言った。

「は、東人、私たちもちょっとせっかくだから周ろうよ」

「うん、そうだね」

 新たちはケレン先輩の思いを察したのか、あるいは二人きりになれるチャンスと踏んだのか、なんにせよケレン先輩に都合の良い展開となった。

 しかし問題はここだ。

 さて、どうする、小花。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] きゃー♡ ケレン先輩が可愛い♡♡ 小花ちゃんはケレン先輩の様子で、何か察するのかしら。 今回の花火大会、新ちゃんといい、みーちゃんにケレン先輩といい、小花ちゃん、めっちゃ振り回されてる…
[良い点] みーちゃん投げっぱなしかいッ!(笑)
[良い点] ふふふ、みーちゃんやるね~。 さて、小花ちゃんがどう出るかですね~( *´艸`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ