大塚みなみは火をつけたい
今日は清瀬市民夏祭りに、小花と新と一緒に行く。
でも待ち合わせは清瀬駅ではなく、その隣の秋津駅。
小花が秋津駅ユーザーだからということもあるけれど、秋津駅からも実は会場へのバスが数本出ているらしく、清瀬駅発のバスよりそっちの方が空いているとのことで、待ち合わせ場所が決まった。
高校入学時はこの三人で仲良くなるなんて思いもしなかった。
はっきり言ってばらばら。性格も好みも雰囲気すらも違うと言っていい。
なのになぜか一緒にいて楽しい。
たぶん二人もそう感じていくれているはず。
だから今日の夏祭りは三人で楽しみたい。
と、言いたいところだけれど、それだけでは終わらないのが今日の夏祭りだ。
楽しみつつ楽しませるのが今日の夏祭りだ。
□◇■◆
まさか新がここまで恋愛に積極的だとは思いもしなかった。
奥手というより、むしろ興味すらないんじゃないかとも思っていた。
新はスポーツ女子だけれど見た目も中身も可愛らしくて、モテるタイプだ。過去に何回か告白されていたけれど、どれも断っていた。
それなのに犬見君は違ったらしい。
立家君の策略のあの日から、二人はそれなりに進んでいたようだ。
秋津駅で三人揃うなり、新が「今日さ、東人たちもお祭に来るんだって」と言って合流したいと提案してきた。
私としては全然問題ないし、幸せそうな新を見ていてこっちまで幸せになれるから、断然ウェルカムだった。
でも小花が立家君に拒否反応を示していた。どうしてこんなにも苦手意識を持っているのだろう。悪くないと思うのに、なぜだろう。
逆に今日、立家君がしっかりと小花にアピールできれば、小花からの評価が反転するかもしれない。
いやいや、良くない。反省したばかりじゃないか。
我関せずのスタンスを崩さないようにしなくちゃ。
小花には小花のペースがある。私が関与することはない。
とはいうものの、小花に関することではないけれど、今日は一仕事しなくてはいけない。
花火じゃないけれど、火付け役を全うしなくちゃいけない。
でもそれまで少し時間がある。この時間は三人でお祭りを楽しもう。
□◇■◆
なぜか好成績を収めたスーパーボールすくいの後、詐欺射的をして遊んだ。
それから、新がそろそろ犬見君たちと合流したいということで、待ち合わせ場所に移動することになった。
私もここで一つラインを入れておく。
すぐに返信があった。
――ありがとう。私たちも向かいます。
それを確認すると、一度スマホをしまって、三人でわいわいしゃべりながら移動する。
この瞬間はかけがえのないものだと思う。
あまりそういう感じを表に出さないし、気が付いてもらおうとも思っていない。
だからドライに思われることもある。飄々としているとかそういうことも言われたこともある。
別に何て言われてもいいから気にしていない。
ただ言えることは、三人でいるのは楽しい、ということ。それ以上でもそれ以下でもない。
「おーい、東人!」
休憩エリアのところで新が手を振って大きい声を出した。
その先に甚平姿の犬見君と、なぜか普段着の立家君がいた。
なるほど。新は見る目があるかもしれない。甚平姿の犬見は、制服とは違うかっこよさがあった。
「久しぶり、新。浴衣姿も可愛いね」
「あ、ありがとう。東人も甚平かっこいいよ」
合流早々、距離の近い二人が、人目も気にせずいちゃつき始めた。
小花に視線を送ると、同じことを思っていたようで、ニヤニヤしている。
私たちに新が気が付いたようだ。こちらを向いた。
「なんか恥ずいんだけど」
「うんうん、こっちまで熱くなっちゃう」
二人で冷やかしたら新が照れて反撃してきた。かわいい。
その時私のスマホが鳴った。
「もしもし?」
「そろそろそっちに着くと思うわ」
「あーそうなんですか?」
「ええ、ちゃんと三人連れてきているわ」
「なんかうけますね」
「しょうがないじゃない。いきなり二人は難しいわ」
「そうですよね。あ、いました。こっちです」
「私もわかったわ。それじゃあ電話切るわね」
「はーい」
スマホをしまう。
小花と立家君が何かやり取りしていたようだ。
しょんぼりしているところを見ると、小花を上手く落とせなかったのだろう。
なかなか手ごわい相手だぞ、小花は。
「大塚さん、偶然ね」
後ろから聞こえる、わざとらしい声に一瞬笑いそうになる。
私は振り返り、「どうも」と会釈する。
「あら、新さんに小花さんもいるじゃない。久しぶりね」
「ウ、ウル先輩! こんちわっす!」
体育会系の所作が出る新。ウルプログラムは終わったはずだけれど、体に染みついているらしい。
ただでさえきれいなのに、浴衣姿でさらにきれいなケレン先輩の登場だ。
その後ろには涼しげな姿の男性三人。まるで美人の取り巻きだ。
「お、みなみじゃん」
取り巻きの一人、甚平姿の中っちが私に気が付いて声をかけてきた。
「中っちじゃん。なんかうける」
「あら、二人は知り合いなのね」
事実を知っていたケレン先輩が、今知ったみたいな感じで言う。
「この子達がケレンのお友達か?」
ケレン先輩の意中の人、加治先輩がケレン先輩の後ろからひょっこり現れて言った。
「え、う、うん。そ、そう。と、言うより……。わ、私たちの、私たちの学校の、こ、後輩よ……」
まじか。これは重症だ。上手くしゃべれないとは聞いていたけれど、ここまでとは。
まさかあのケレン先輩がここまでポンコツとは。あ、いや、いいすぎたかも。
でもまあ予定通り、話しを進めよう。
「なんか、みんな集まってんのうける」
「そ、そうね。大人数もあれだから、別れるのはどうかしら?」
先輩も頑張っているようだ。私も頑張ろう。
「なんかそれいいかも。じゃあ中っち、なんかちょっとあっちの方に面白いのがあったんだけど、なんか行ってみない?」
「え? 今から?」
ケレン先輩のあの言動を見て察しないのだろうか。
私は「いいから、いいから」と言って強引に中っちを引っ張る。
「あ、そ、そうだね。あっちの方、たしかに面白いのあったかも……」
苦笑いをしながら中っちが言った。
「は、東人、私たちもちょっとせっかくだから周ろうよ」
「うん、そうだね」
新たちはケレン先輩の思いを察したのか、あるいは二人きりになれるチャンスと踏んだのか、なんにせよケレン先輩に都合の良い展開となった。
しかし問題はここだ。
さて、どうする、小花。




