狭山新は咲かせたい
「今日さ、東人たちもお祭に来るんだって」
私は秋津駅で、小花ちゃんとみーちゃんと合流するなり言った。
「なんかいい感じじゃん」
「ほんとあっついわ。ってか“たち”って他に誰?」
「立家君っぽい」
小花ちゃんの質問に答える。
「げ、立家君か……」
「なんかマジウケるんだけど。小花、なんかほんと立家君のこと苦手だよね」
みーちゃんの意見に同意。
「うーん。なんかね。苦手なんだよね」
「でもさ、頼むよう。小花ちゃん!」
私としては、花火を好きな人と一緒に見たい。
もちろん小花ちゃんとみーちゃんと一緒に見るのも悪くはない。でも今はこの気持ちが大きい。
私の気持ちを花火のように咲かせたいと思っている。
「わかったよ」
小花ちゃんはいつも優しい。そして頼もしい。
そう思うと立家君って見る目はある。
「なんか面白いから、私もいいよ」
二人から了承を得ると、私は「ありがとう」と伝え、スマホを取り出して東人にラインを入れる。
――後で合流しよう。二人からオッケーもらった。どこにいる?
送信するとすぐに既読が付いた。
少し待つと返信がきた。
――今歩いて向かってるところ。頃合い見つけて合流しよう。
――わかった。
既読が付いたのを確認してスマホをしまう。
「あとで合流ってなった」
「はいはい。それじゃあそれまで三人で楽しもう」
小花ちゃんが右手で私の肩を、左手でみーちゃんの肩を組んで「さあ行きましょう」と歩き出した。
□◇■◆
今日の衣装は、立川のららぽーとで三人で一緒に買った浴衣だ。
フランクフルトを食べる時、ケチャップとかマスタードがこぼれて浴衣についちゃわないように気をつけた。
他にも綿あめとか、スーパーボールすくいとか、射的をして楽しんだ。
スーパーボールすくいに関しては、みーちゃんが「なんかうける」とか言いながらたくさんすくっていた。
射的は弾が景品に当たったのにもかかわらず、ぴくりとも動かなかったので、お店を離れてから三人で「詐欺だね」と言ってツイッターに晒そうか検討した。結果としては、おとがめなしにしてあげた。
次はどこに行こうかと話している時、私のスマホが揺れた。
確認すると、東人からだった。
――そろそろ合流する?
私はラインのことを二人に伝えた。
「ねえ、そろそろ東人たちと合流しない?」
「えーもう?」
小花ちゃんの返答にみーちゃんが笑っていた。
「いいじゃあん」
私は小花ちゃんの腕を掴んでゆさゆさする。
「なんかうける。私はいつでもいいよ」
「しょうがないな」
小花ちゃんも許してくれた。
「ありがとう、二人とも」
私はお礼を伝えると、スマホを取り出す。
――うん。合流しよ。
私は東人に返事を送った。
すると東人からすぐに合流場所が送られてきた。
小花ちゃんとみーちゃんにも伝え、目的の場所へ移動することにした。
□◇■◆
「おーい、東人!」
休憩スペースとなっているエリアのドリンク売り場の前に、甚平姿の東人が立っていた。
かっこいいなって思った。普段着もよかったけれど、甚平姿は甚平姿で特別感もあって、より一層かっこよく見えた。
隣には立家君がいたけれど、なぜか普通の服だった。
私に気が付いた東人がこちらに手をあげて近づいてきた。
「久しぶり、新。浴衣姿も可愛いね」
合流早々、東人が言った。
「あ、ありがとう。東人も甚平かっこいいよ」
東人に浴衣姿を褒められたことにも、そして私自身の発言にもなんだか恥ずかしくなった。
東人から視線をそらしたら、私たちを見ている小花ちゃんとみーちゃんに気が付いた。
「なんか恥ずいんだけど」
「うんうん、こっちまで熱くなっちゃう」
ニヤニヤしている二人。
「ちょっとうるさい」
私は二人を両手で押すように抵抗した。
その時みーちゃんのスマホが鳴った。
「もしもし? あーそうなんですか? なんかうけますね」
みーちゃんの敬語を初めて聞いたかもしれない。相手は誰だろう。
そんなことを思っていたら、なぜか普通の服の立家君が小花ちゃんに絡んでいた。
「金井さん。浴衣姿、かわいいね」
「あ、ありがとう……。立家君は、なんて言うか、普通だね」
「え、あ、うん。ちょっとね……。それより、射的でもしない?」
立家君が積極的に小花にアピールしている。
「いや、やらない」
小花が首を振り、きっぱりと断る。
「楽しいよ?」
「いや、やらない」
「景品が取れたとき気持ちが良いし」
「いや、やらない」
「騙されたと思ってさ」
「いや、やらない」
「祭りでじゃないとめったにできないし」
「いや、やらない」
「俺、結構自信あるんだよね」
「いや、やらない」
「そ、そっか……」
残念ながら立家君が折れたようだ。
しかし、私たちはさっきの経験から、ここの射的は詐欺だと疑ってしまったのだ。
これは断られても仕方がない誘いだ。
もしかしたら射的以外だったらよかったかもしれないのに。
立家君の選択とタイミングが悪かったとしか言いようがない。
そんなことを思った時だった。
「大塚さん、偶然ね。あら、新さんに小花さんもいるじゃない。久しぶりね」
聞き覚えのある、私にはドキッとする鋭い女性の声が聞こえた。




