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俺は私になった。  作者: 雪村 敦
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二十章 単身同定旅行記・中編

 年代等は気になさらぬよう、ご理解とご協力のお願い(強制)です。

「…うまいな。」

 つい声が漏れる。

 船内の名物って説明書きが書いてあった鮭寿司に舌鼓を打っている。

 ここは、青函連絡船の食堂。

 さすがに外が寒かったので、とりあえず船内に入って、昼ご飯を食べている。

 船内放送では、雪も弱くなってきているらしいから、食事が終わったら甲板に出てみよう。

 鮭寿司を食べ、みそ汁をすすりながら船内を見ると、結構人がいる。

 今まで乗って来た寝台特急も、結構人が乗ってた。案外利用する人も多いんだな。

 みそ汁を飲み終え、体が温まったら、食器を返してそのまま甲板に出る。

 まだまだ全然寒いし風も強いけど、少なくとも、雪は弱そうだ。

 船尾方向の手すりによりかかり、流れゆく航跡を見ながら、右を向くと、半島の先っちょ、岬が見える。確かあれが龍飛岬(たっぴみさき)ってやつか。

 昔何かの歌で、『ご覧あれが龍飛岬北のはずれ』って歌詞があったな。でも、左を向くと、まだ陸が続いてる。

 あれって確か、下北半島だよな。確か、その先っちょには大間岬があった気がする。

 北のはずれって大間岬じゃね…?

 まぁいいや。

 生まれて初めての雪だけど、真っ白い雪を見てると、自分を見つめ直すのにちょうどいい。

 寝台特急に乗ってた時、特に気にせず来たけど、女子の体に完全になれてる来ている自分を見れば、誰しもが違和感なく女子って思うだろう。

 今でも考える。

 女子になったのが、小学生とかなら、まだよかったのかもしれない。

 あの時代なら、まだどうにでもできた気がする。

 でも、高校生から急に変わるとなると、15年の時の長さを再確認する。

 15年間の習慣である“男の習慣”ってのは、そうそう抜けるもんじゃないと、最初は思ってた。

 でも、女になってから身に着けだした“女の習慣”ってのは、案外早くなじむもんで、今では全く違和感がない。

「……。」

 俺も、強くなったんだな。

 昔なら、1人でこんなこと考えられなかったと思う。

 まぁ、男の面も女の面も両方持つがゆえに、それぞれの強さも持ててるのかな。

 よかったよ。思春期ってのは、大体17歳か18歳ぐらいまでのことを言うらしいけど、少なくとも俺は終盤だったから、男と女の両方の精神をある程度経験してこれた。まぁ、これからも女のままなら、女の方が圧倒的に長くなるのかな。

 …それもいいかもしれない。

 だけどまだだ。

 まだ結論は出さなくていい。

 なんせ、今はまだ時間があるんだから。

 もうちょっと、旅を楽しんでからでも遅くはない。

 気が付くと、雪もかなり止んで、左右を見ても岬が見えなくなっている。

 あぁ、平舘海峡(たいらだてかいきょう)を抜けて、津軽海峡(つがるかいきょう)に入ったのか。

 あ、思い出した。

 さっきの歌って、《津軽海峡・冬景色》だ。

 思い出した思い出した。

 今度フルで聞いてみよう。

 もう一度、改めて周りを見渡してみると、甲板には俺以外誰もいなく、みんな船内にいる。船の周りは、結構船が行かってる。どの船も、外国の国旗をつけてるから、外国船なのかな。

 そのまま、甲板で振ってくる雪を眺めながら時間を過ごし、函館に入港すると、船を降りる前に髪をほどく。理由は、単に飽きたから。

 船を降りると、桟橋の係員に、素泊まりできる宿を聞いたけど、分からないって言われ、観光案内所を紹介される。

 観光案内所で、その日に行って2泊3日泊まれる宿を聞いたら、案内所の人が調べてくれて、紹介してくれた。これからすぐにチェックインできるそうだ。

 地図を描いてもらい、その場所に向かう。

 いや~。この体だと大人の人たちがみんな優しい。

 宿につくと、まぁ普通の民宿だ。

 中に入って、さっき連絡したものだというと、すぐにチェックインさせてくれた。

 案内された部屋は、普通のシングルの部屋だ。なんの変哲もないただの部屋だ。

 まぁここには3日間も滞在するんだ。ゆっくり見て回ろう。

 それから、俺は3日間函館を漫喫した。

 海鮮から歴史的に有名な名所など、3日間で回れるだけ回って、今さっきホテルをチェックアウトしてきた。

 今俺は、函館駅で入って来た列車に乗り込んだところだ。

 4時間列車に揺られ、札幌につくと、そのまま違う電車に乗り換える。

 今度はそんなに乗らない。1時間ぐらいだ。

 いや長いんだけどね。最近乗って来た列車に比べると短いのよ。

 電車に揺られること1時間。

 まぁそんなに経ってないけど、それくらい経った感覚だ。

 小樽で降りると、そのまま観光案内所に行くと、また宿探しを丸投げする。今回も2泊するけど、まぁどこでもいい。

 まぁ探してもらえば、すぐに見つかる。

 まだ午前中だからチェックインはできないけど、市内観光して待つ。

 小樽と言えばって感じの運河や倉庫街、海鮮丼にオルゴール堂や小樽切子の店など。色々回っているうちに、日が傾き、もう16時を過ぎてる。

 ホテルでチェックインをする前に、夕食用の弁当を買っていく。最近海鮮ばっかりだったから、普通の定食を買う。

 部屋に案内されると、ベットの足元に鞄を置いて、部屋に置いてある浴衣に着替える。

「はぁ~~。」

 疲れた。

 1日かけて移動し、半日観光したんだから、そりゃ疲れるわ。

 窓際のソファに座って、外の風景を眺めていると、ふと斉藤や神田先生、それに音無達の顔が浮かんでくる。

 なんとなくでスマホを見てみると、神田先生からの着信が何件も来てて、LINEは、斉藤や音無達からのLINEが来ている。

 開いてみると、どれも俺の身を案じたり、俺を励ます様な内容だ。

 ごめんみんな。

 返信はもうちょっと待っててくれ。

 もうちょっと、俺の中にいる男の俺と女の私を、認識するのに時間がかかりそうだ。

 だけど、この旅が始まってから、自分の中では理解できてる気がしている。あとは、俺が私を認識するだけだ。

 まぁそれが一番難しいと思うけど。

 そんな考えをしていると、気が付けば眠っていたらしく、目が覚めると外が真っ暗になってるのに気づく。時計を見ると、まだ7時ぐらいだ。

 その瞬間、体がビクッてなってソファから立ち上がる。

 尿意は、あれから怖くなった。

 そのせいで、尿意のたびにビクッてなってします。

 これを克服するのも、今回の旅の目的の一つだ。

 急いで駆け込んだトイレで、今度は便座の冷たさにビクッてなる。これに関しては克服も何も人類誰もがなると思う。

 トレイを出ると、そのまま着替えの下着を持って大浴場に行く。

 何でもここの浴場は広くてきれいらしいから、楽しみだ。

 下着とかタオルとか持って脱衣所に入ると、親子連れが2組と2人組の人が3組いる。結構多いな。

 1人で脱衣所の籠に下着とかタオルとか入れてると、隣に立った子供と目が合う。そこであることに気付いた。

 俺この子供と目線が同じだ。

「こんにちは!君はどこから来たの?」

「こんにちは。私は広島から来たんだよ。君は?」

「あたしはあばしりってとこ!」

 網走か。オホーツク海に面してる町だったっけ。

「ねぇ!君何年生?」

「ん?私は高校1年生だよ。」

「え?高校生なの?」

 子供じゃなくて横にいた親が驚いてる。

「はい。高1です。身長が低いんでよく間違えられますけど、小学生じゃないですよ。」

「そうなのね。ここには旅行?」

「はい。一人旅です。」

「へーそうなんだ。どこまで行くの?」

「ニセコに行こうかと思ってます。そのあとは決まってませんけど、とりあえず北に向かってみようかと。」

「そうなの。頑張ってね。」

 応援されて、「ありがとうございます。」の言葉と同時にタオルを持つと、そのまま浴場に入っていく。

 初めのころは、女性の体を見て少し恥ずかしくなってた俺だけど、今では恥ずかしいなんて感情を抱くことはない。

 ちなみに、おじさんの協力のもと、銭湯の男湯に入った時は、別に男の体を見ても興奮とか恥ずかしさとかは感じなかった。この体は子供扱いされるから、小学生料金で利用できるところがほとんどだ。いや~この体も悪くないかもしれない。

 シャワーを浴びて浴槽につかる。

 寝台列車のシャワー室も面白かったけど、こうやって旅先でゆっくり風呂につかるってのも気持ちがいい。

 風呂を出て、体を拭いて髪を乾かすと、そのまま部屋に戻る。

 そのまま窓際のソファに腰掛けると、窓から外を眺める。

 暗くても、運河とか倉庫街はライトアップされてたり、オルゴール堂とかはその建物の明かりと街灯に照らされているだけで雰囲気がある。

 少しの間その景色を楽しむと、買ってきた弁当をローテーブルに乗せ、包装を解く。

 中からは、定食屋ならではの濃い味付けからくる独特の濃い香りが食欲を誘う。

 割り箸を割って、生姜焼きと米を一緒に頬張る。

 これまたうまい。

 海鮮とかも確かに旨いし、駅弁とか連絡船で食べた鮭寿司もうまかった。

 だけど、この定食屋が作った生姜焼きってのは、味が濃くてうまい。もともと生姜焼きが好物ってのもあるんだが、この生姜焼きは生姜の香りが強くておいしい。

 別に特産品とかじゃない生姜焼きを食べ終えると、旅の疲れからか、一気に睡魔に襲われる。

 まだ8時だが、たまには惰眠をむさぼるってのもいい。

 そのままベットに飛び込み、目を閉じると、そのまま眠りについてします。

 翌日、目が覚めるとすぐに顔を洗って、着替えを済ませる。

 着替えを済ませると、コートを着て、財布や携帯、腕時計や鍵などを持つと、部屋を出る。ふと、ショルダーでも持ってくればよかったと思った。

 そのまま小樽駅に向かうと、窓口の行列に並ぶ。

 急行の切符を買って、ホームで列車を待つ。ホームでは、いつも通り撮り鉄の人達が一杯いる。まぁここなら仕方ないと思う。俺すらも知ってる路線で、かなり有名な所だから。

 しばらくすると、遠くの方から硫黄のにおいが風に乗って流れてくる。それと同時に、線路の向こうから、すごい量の煙を上げているものが近づいてくる。

「……来た来た。」

 これだ。これを待っていた。

 カーブを曲がって、遠くの方から煙を吐いて走ってくる。

 そう。蒸気機関車だ。

 列車が近づくにつれて、匂う硫黄のにおいも強くなってくる。それに、地面を揺らすような感覚もある。

 蒸気機関車にひかれた客車たちがホームに入ってくると、その力強い姿を見て、鉄道オタクではない俺ですら、興奮してくる。

 かっこいい。

 その一言に尽きる。

 停まった列車に乗り込むと、空いている席に座る。ここから1時間半の旅だ。

 ボックスシートに座ると、正面に座ってたおじさんが声をかけてくる。

「嬢ちゃん、お父さんかお母さんはどこ行ったの?」

 あ、また小学生扱いされてるやつだ。

「いませんよ。」

「え?じゃぁ嬢ちゃんひとりかい?」

「そうですよ。一人旅なんで。」

「そうなのか~!小さいのにしっかりしてるね~。」

「一応高校生なので。」

「へ~。え!?高校生!?高校生なの!?」

 あ~やっぱり勘違いしてた。

 多いんだよな~。

 別に慣れたけど。変に上に見られるよりかはマシだ。下すぎるのも嫌だけど。

「広島で女子高生やってます。今は一人旅中です。」

「そうなのか~。今時珍しいね~。ってことはニセコ行くのかな?」

「はい。ニセコで観光してから小樽に戻る予定です。」

「そうなのか。じゃぁ、ニセコとかの美味い店教えてやるよ。」

 話しかけてきたおじさんは、最初は変な人なのかと思ってたけど、普通にいい人だった。

 おいしい隠れた名店的な所とか、あんまり知られてない名所とか教えてくれた。あとで行ってみよう。

 最近では乗る事の出来ない旧客車と、蒸気機関車牽引の客車列車。考えてみれば、こうやって乗り合わせた人と話すってのも、なかなか面白い。

 おじさんの話しと、引っ張る蒸気機関車の振動や、硫黄のにおいなどを楽しんでいると、すぐにニセコに着く。

「お嬢ちゃん、気を付けてな。」

「はい。ありがとうございます。」

 おじさんにお辞儀をすると、列車を降りる。

 一度、列車の前に回ると、勇ましいいでたちの蒸気機関車が、出発の時を今か今かと待ちわびている。

 その勇ましい顔を見たら、まっすぐ改札を抜けて、街に出る。

 まずは、腹ごしらえだ。朝も食べてないから、昼と兼用だ。

 おじさんに教えてもらった洋食屋に入ると、地元の洋食屋って感じの店で、おかみさんが注文を取ってる。

 おかみさんに案内されて、一番奥の席に座ると、メニューを見る。どれもうまそうだけど、こういう所に来たら必ず食べる俺のお気に入りメニューがある。

「すみません、オムライスお願いします。」

 そう。オムライスだ。俺の好物であり、こういう町の洋食屋って言ったら、それぞれ味が違って面白い。だから毎回洋食屋に入ると最初は絶対オムライスを頼むようにしている。

 洋食屋のオムライスに舌鼓をしたのちに、ニセコの名所を巡る。これもおじさんに教えてもらったところだ。

 きれいな沼とか昔の建築物。おじさんが言ってた川辺とかを歩いてから、温泉郷に向かう。

 ホテルの浴場とは違う、ちゃんとした温泉。

 温泉に入ってなくても、町の中にかおる硫黄の匂いで、温泉に来たって気にさせてくれる。

 温泉には来る予定はなかったけど、パンフレットで温泉郷を見て、衝動的に来たくなった。

 でも下着無いから、近くのスーパーで下着を買う。もちろんキッズ。もう慣れたよ。

 受付を済ませ、脱衣所で服を脱ぐと、タオルをもって中に入る。タオルは受付をすると無料で使えるらしい。

 中は、かけ流しの温泉と、露天風呂もあるみたいだ。

 最初はかけ湯をして、体や髪を洗う。

 俺は最初に髪を洗い、コンディショナーをして、コンディショナーは洗い流さず体を洗って、体の泡を洗い流すときにコンディショナーも一緒に洗い流す。

 もともとコンディショナー何て使ってなかったけど、この旅を始めて、旅館とかでコンディショナーを使った後、風呂上りに髪を乾かして触る自分の髪が思った以上にさらさらだったから、今では毎回使ってる。

 コンディショナーをつけ終わると、タオルに石鹸をつけて泡立て、体を洗っていく。この時毎回思うけど、本当に凹凸のない体だな~。腹回りとかお尻が出っ張らないのはまぁ痩せてるからで済ませられるけど、胸が出っ張らないってのは女としてどうなのか、最近思うようになってきた。

「ふぅ……。」

 水を含んで重い髪をたくし上げて、含んでた水が落ちていくのを感じながら、改めて髪短くしようか悩む。でも、自分でも長い方がいいかと思い始めてる。

 髪を縛って、お湯につかないようにしながら、湯船につかる。

 あ~。違う。

 ちゃんとした温泉ってただのお湯と全然違うんだな。

「はぁ~。」

 自然と声が出る。

 あまり多くない利用客。

 程よい温度のかけ流し温泉。

 木でできた湯船と石の床。

 太い柱に木製の天井。

 これはいいな~。

 室内の木の香りと温泉のほのかな硫黄の香りがまじりあったこの空気。

 最高だ。

 室内の温泉につかった後は、露天風呂の方に行く。

「…寒む!」

 外に出ると、すげぇ寒い。思わず声が出ちゃうぐらい寒い。

 急ぎ足で露天風呂に向かう。

「…ああぁぁぁ~。」

 思わずおっさんみたいな声が出たけど、それぐらいに気持ちい。

 露天風呂ってこんなに気持ちいいんだ。

 寒い外気と熱いぐらいの温泉。顔に感じる風が充満する硫黄の匂いを払ってくれて、新鮮な空気が顔に当たる。

 しばらく温泉につかってから、そろそろ小樽に戻ろうと温泉から上がろうとしても、寒い外気に触れる勇気が出ない。

 しっかり肩までつかるり、体の温度が上がったのを確認すると、湯船を上がって急いで屋内浴場に向かう。

 扉を開けて中に入ると、すぐに湯船につかる。

 冷えた体の表面に熱いお湯が当たり、体が緩むのを感じる。

 シャワー浴びて水気取って、ロッカーからタオルを出して体を拭き、ドライヤーで髪を乾かす。

 気持ちがよかった。

 服を着て、温泉郷を後にすると、そのままニセコ駅に向かう。

 切符を買ってホームで列車を待つ。

 しばらくすれば、列車は入って来る。

 どこに行こうか。

 ふと駅のポスターを見ると、とある地名に目が留まる。

「…稚内か……。」

 遅れましたが、中編です。

 そして、まだ続きます。

 ではでは~。


―追記―

2020/9/21 22:09

 予想です。

 近々、《単身同定旅行記・後編》を更新予定です。

 いつになるかはわかりませんが、お待ちください。

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