ゾンビの恐ろしさはその数の多さです。
「外…、どうなってるのかな…」
「………分かんない」
声には出さず、呼気だけで会話を成立させる。
掃除ロッカーに閉じこもり、かなりの時間が経っていた。
体感では一時間。
実際はもっと短いのかもしれない。
「そろそろ外に出てみない……?」
「………」
大丈夫……、なのかな。
さっきまで悲鳴や怒声が校内でこだましていたのに、今は水を打ったように静か。
…逆にそっちの方が怖い……。
「ねぇ……、可奈子…」
…仕方がない。
いつまでも、ここにいるわけにはいかない。
「………うん、分かった。いったん私が外見てくるから、香織は隠れてて」
「うん……」
モップを1つ掴み、ゆっくりと外に出た。
教室は…、誰もいない。
廊下を覗く。
さっきよりも濃い血の匂い。
壁や床に付着している血液がすべてを物語っている。
…気持ち悪い。
それ以外は何も無い。
誰もいない…。
「皆どこに行ったの…?」
私たちはこれからどうすればいいの?
どこへ行ったらいいの…?
いったん教室に戻る。
教室は椅子や机が散乱していたが、そこまで酷い状態じゃない。
後は、特に変わったところは…な……い?
ふと、何気なく窓の方に向かったのがいけなかった。
外を見たのがいけなかった。
窓の外には。
正しくは校庭に。
おそらく、以前はこの高校の生徒だったものが。
生徒だった屍が。
所狭しと。
うごめいていた。
どの屍も腹から、口から、ありとあらゆる穴という穴から血液を滴らせ、内蔵を引っ提げて、虚空を見ている。
「うぐっ!げほっ、げほっ!」
酸っぱいものが混み上がってきて、たまらず吐き出す。
それに伴い、涙が頬を伝う。
気持ち…、悪い……。
『うわぁぁああぁぁ!!!』
悲鳴の後に数発の銃声。
何?
声の方向を見てみると、一人の警官が銃をがむしゃらに撃っていた。
声の方へ、校庭中の屍たちが移動を始める。
『来るなっ!来るなぁぁぁああ!』
弾がきれたのか、カチッカチッ、という無機質な音が響く。
『あ…、ああ……』
そして、屍は、屍達は。
一斉に警官に襲いかかった。
『嫌だあぁぁあぁぁぁぁああぁあぁぁ!!!!!』
思わず目を伏せる。
酷い。酷い。酷い。酷い。酷い。酷い。酷い。酷い。
「………可奈子?……どうしたの?」
後ろから香織が近づいてくる。
ダメ。香織。
校庭を見ちゃ。
嗚咽と気持ち悪さで声が出ない。
「一体何……?」
見ちゃ……、ダメ……。
窓に近づく。
外を覗く。
瞬間。
「いやぁあぁぁあぁぁぁあ!!!」
校庭に。
香織の悲鳴が響き渡った。




