第133話
その日の夜。普段は王城の近衛騎士の寮に泊るイザーク兄様が、ヘリオルド兄様とともに王都の屋敷に帰ってきた。心なしか、メイドさんたちのテンションが上がっている。うん、わかるよ。カッコいいもんね。
「おかえりなさい」
ジーナ姉様とともに玄関先で出迎えると、二人とも満面の笑みで「ただいま」と同じタイミングで返してきた。さすが兄弟。ジーナ姉様はヘリオルド兄様から上着を受け取ると、そのまま傍にいたメイドさんに渡す。
そのメイドさんが地図情報で真っ赤なのは、たぶん、私しか知らない。無表情にそのまま下がっていく彼女の背中を、ジッと見る私。あれは、どういう意味の真っ赤なのか。私はさりげなく地図情報でマーキングした。
「イザーク兄様」
「なんだい、ミーシャ」
隣に立っていた兄様に、耳を貸すようにと、ちょいちょいと手招きする。兄様はなぜか嬉しそうに少しだけ屈んでくれた。イケメンの顔が近い、近い。眼福じゃ……じゃなくて。
「あの、今下がったメイドさんって、どういう人?」
「ん? いやぁ、俺もこの屋敷には偶にしか来ないから、よくわからんのだ」
……つ、使えないっ!
でも、確かに、普段は近衛の寮にいるわけだし、ここの人の管理とかはギルバートさんに丸投げなんだろう。基本、ヘリオルド兄様だって、普段はリンドベル領にいるわけだし、ヘリオルド兄様に聞いても同じ反応だったかもしれない。
「彼女がどうかしたのか?」
「うん……ちょっと、ヘリオルド兄様も含め、相談したいことがあるのです」
「……わかった」
私の言葉に、優し気に笑みを浮かべていたイザーク兄様の顔が、急に真剣な顔になる。うん、こういう切り替えの早さは、さすがだって思うよね。
兄様たちが着替えのためにそれぞれに部屋に行く後ろ姿を確認すると、再び、地図情報を確認する。今は赤い点はあちこちに散らばっている。その中の一つが、階段の上に留まっている。
玄関先にいるのは、もう私とギルバートさんしかいない。
「ギルバート」
「はい」
「兄様たちに執務室に来るように伝えてくれる?」
「……はい」
私がそう指示すると同時に、赤い点が動いた。ギルバートさんも階段に向かおうとしたので、私はひそひそ声でもう一度、彼の名前を呼ぶ。
「ギルバート!」
「は……はい」
私がシーッ! と人差し指を口につけて指示すると、ギルバートさんは声を抑えて返事をした。何も身体まで屈めなくてもいいのに。
「集合場所は、執務室じゃなくて、私の部屋。いい?」
「はい」
何かを察したのか、ギルバートさんは真剣な顔で頷くと、兄様たちの後を追った。
さてと。この赤い点々、どうやって仕留めますかねぇ?
私は顎に手をやりながら、久しぶりにナビゲーションを広げつつ、自分の部屋へと足を向けた。






