冬の赤い風鈴
雪深い地方ではないといえ、山の中にはさすがに雪がうっすらと積もっていた。
「ケンジ〜……。どこまで行くの?」
莉奈は心細くなってきたようで、帰りたそうな声で僕に聞く。
「この先にね、山小屋みたいなのがあるんだ。そこが目的地」
「どうしてそういうの、先に言っといてくれないの〜? そこに行って何するの〜?」
「そこにね、『死者の書』っていう本があるらしいんだ」
僕は自作の作り話を聞かせた。
「それを開いた者は悪魔の力を身につけることができて、超人になれちゃうんだって」
「いいね!」
莉奈が話に食いついた。
「そういうの、好き! 呪われてもいいから行こうよ!」
さすが僕の彼女は変態だ。
僕と同じく超常的なもの、悪魔的なもの、グロいものやスプラッターが大好きなのだ。
そして彼女と行動すると、いつも大抵僕の作り話はほんとうになる。不思議なほどに、口から出たでまかせが実現してしまうのだ。
車を走らせていると、途中で道脇にうずくまっているひとを発見した。
僕らに気づくと手を振ったので、停まって「どうしたんですか?」と聞いてみる。
「あのよー……。家族に追い出されちまって……。こんな寒い山ん中でよ。ひでーよな?」
溶けたような歯の黄色い、やたらと背の高い男だった。四十歳ぐらいだろうか、僕らよりだいぶん年上だ。
後部座席に乗せてあげると、ヒヒヒと笑いながらおかしなことを言う。
「俺ん家、この山の上にあんだ。風鈴がいっぱいある家だ」
「冬に風鈴ですか?」
僕は冗談かと思い、笑った。
「それはまた……情緒がありますね」
「そうだ。風鈴は冬の風物詩だよなー」
「あはは……」
莉奈も困ったように笑う。
「何笑ってんだゴルァ!」
男が後ろから莉奈の首を絞めてきた。
ギリギリと頸骨がきしむ音と、泡を吹いて苦しむ莉奈に、僕は慌てて車を停め、男を拳で殴りつけた。
「降りろ! 出てけ!」
僕がさらに殴る真似をすると、男はヘラヘラ笑いながら車を降りる。僕は構わず車を発進させた。
しばらく進むと山小屋が見えてきた。
「なんだ、あれ?」
軒先に赤い風鈴がたくさん吊るしてある。
近づくにつれ、それがなんなのか、はっきりと見えてきた。
首を縄で吊るされ、顔面を真っ赤に塗られた、いくつもの死体だった。
男も女も、年寄りも子どものもある。
それらが風に吹かれ、ユラユラと揺れている。
山小屋の扉が音を立てて開き、中から巨大なドリルを抱えた大男が現れた。
振り返ると、さっきの男が嬉しそうに駆けてきた。
映画『悪魔のいけにえ』『死霊のはらわた』、松浦理英子さまの小説『風鈴』のパロディーみたいになっております




