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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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刹那の回避


「とりあえず、噂を頼りにしてみましょう」


 ユウリの提案で、街で流れていた噂を参考に行き先を決めることにした。

 巷でまことしやかに囁かれる楽園の位置。西であったり東であったりするその位置を、まずは目指して荒野をいく。

 もちろん、その行く先々はすでに街の女たちに調べ尽くされているのだろうけれど。実際に現地に行ってみるというのは大事なことだ。

 敵ではなく味方からの視点なら、なにか気つくことがあるかも知れない。


「――んー……なにもありませんね」


 周囲を警戒しつつ進んだ先、噂の一つである位置につく。

 見渡す限りの荒野は相変わらずで、だが一箇所だけ特徴的なものがある。

 刀の鋒であるかの如く天を刺す、すらりと伸びた大岩だ。それが目立つばかりで、俺たちが探しているものはなにもない。楽園はもちろんのこと、それに繋がる手がかりも。


「空振りか。意味深な大岩だけど」

「目立つものがあるから、何かあるかも? と思わせられるんでしょうね」

「見事に引っかかったわけだ」

「はい、残念ながら」


 案外、この大岩も楽園の人達が配置したものかも知れない。

 これ見よがしに意味ありげなものを配置して、本命の位置を巧妙に隠している。特定するのは至難の業だ。


「はいはい。ほらほら。落ち込んでないで次にいくわよ。ゴー、ゴー」


 空振りも想定済みとばかりに、ユリアは先を急かす。

 思考が後ろ向きになりがちな俺やユウリにとって、前向きな性格をしたユリアはありがたい存在だ。ダメならすっぱり諦めて次にいく。言葉にするのは簡単だけれど、実行に移すのは案外難しいものだ。


「わ、わかったから押さないでよ、姉さん」


 背中を押されるようにして次の目的地へと急ぐ。

 それから時間を掛けて数ヶ所を巡ってみたものの、成果は得られずに二人の体力だけが浪費されていく。脱獄をしてから数時間か、十数時間が経った。二人もへばってきたみたいだし、今日のところはこの辺で足を止めたほうが良さそうだ。


「あの丘の影で休もう」

「そうね、そうしましょう」


 心なしかユリアの元気もない。屋根のように反り立った丘の影に入ると、二人とも崩れ落ちるように腰を下ろした。

 慣れない環境に飛び込んだせいか、かなり疲れているみたいだ。

 常に周囲を警戒し、追っ手に怯えながら、どこにあるかもわからない楽園を徒歩で探している。更にこうも空振りが続けば、精神的にも身体的にも疲れがくるのは当然だ。

 俺も似たような状況に置かれているけれど、はっきりした目標と疲れない身体があるだけマシなものだ。


「食糧は残ってるのか?」

「まだすこしあります。とはいえ、一食分だけですが」

「これ食べちゃったら狩りをしないと」

「そうだな……とりあえず、二人はここにいてくれ。近くに魔物がいないかたしかめてくる」

「助かるわ。一緒にあんたを脱獄させてよかった」


 その言葉を聞きつつ、丘の影から顔を出す。

 かるく見渡してみても魔物の姿はない。空を飛んで俯瞰視点から見てみようと両翼を広げ――だが、すぐに閉じた。高く飛んで目立ってしまっては元も子もない。地道に足をつかって確かめるほうがいい。

 そう思いとどまって、自分の足で荒野を歩いた。


「あまり離れすぎても不味いし……」


 どこまでの範囲を警戒するか、歩幅を揃え歩数を数えつつ思案する。

 幸い見渡しはかなりいいので、それほど歩き回らずに済む。


「とりあえず、この辺からぐるっと一周してみるか」


 広い視野を確保しつつ、二人を中心にして円を描くように歩き出す。

 形態は素早い敵に対して一定の成果を出したオチュー・アイズ。規則正しく配列された眼球のすべてで不測の事態に備えておく。

 その甲斐あって、なのか。


「――」


 見つけた。

 次の瞬間。


「ウォオオオオオオオオオオッ」


 銀狼の――フェンリルの雄叫びが轟いた。


「後回しにしようと思ってたのにっ」


 フェンリルの討伐は二人を楽園に送り届けてから。そう思っていたのに、現実はうまくいかない。こんなところで再会を果たしてしまうとは難儀なものだ。


「来るなら、来い!」


 すべての意識をフェンリルの行動を見切ることに使用する。

 フェンリルは天に向かって吼え終わると、以前と同じように地面を蹴った。

 風のように駆け、稲妻のように加速する。まるで無重力化にでもいるかのような体重を感じさせない軽やかな動きで、フェンリルはその鋭爪を俺の喉元にまで伸ばしてきた。

 刹那、数多ある眼球がそれらの動きを捉え、周囲すべての時間の流れが遅くなる。

 研ぎ澄まされた感覚が鋭爪の動きを見切り、軌道上から首を逸らす。その直後、時間の流れが元に戻り、フェンリルの一撃は首の魔殻を浅く削っただけに終わる。


「躱――せたッ」


 完全にとはいかないまでも、ほぼ無傷で攻撃をやり過ごせる。

 綱渡りな戦法ではあるものの、真っ暗だった現状に一筋の光を見出せた。

 僅かでも勝機があるなら、それを手繰り寄せればいい。

 これまでもそうしてきた、これからもそうするだけだ。


「よしッ」


 過ぎていったフェンリルを視線で追いながら、漆黒刀を構築する。

 そうして禍々しい毒の刀を構え、神々しい銀の狼と相対した。

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