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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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二人の犠牲


 仲間の敵討ちをしたいと言った彼の名前は、耕太こうたと名乗った。

 残りの二人、男のほうは一也かずや、女のほうは秋葉あきはというらしい。


「俺たちは五人組だった。あんたが知ってるかどうかはわからないけど、探求者ってのは基本的には五人組なんだ。まぁ、たまに二人とか、ソロでやる人もいるけど」


 魔法で光源を造り出し、耕太が先頭をいく。


「いま三人しかいないってことは……そういうこと?」

「……あぁ。それで気づいたら、あそこにいた」


 逃走中の記憶がなくなるほど必死に逃げてきたってことか。

 それでよく仇討ちをしようとする気力が湧くものだ。

 でも、俺がこう感じるのは当事者じゃないからか。実際に知り合いを――目の前で殺されたらきっと俺も復讐をする、のかも。


「そんな状況でよく道がわかるな」

「行きのことはよく憶えてるからな。それに、ほら」


 耕太が光源を操作し、壁の近くに寄せる。そうして闇を払って現れたのは、壁に刻まれた真新しい傷跡だった。


「分岐路に差し掛かるたびに、こうして印を残してた。戻るためのものだったのに、今じゃ向かうために使ってる」

「皮肉なことだな」

「あぁ、まったくだ」


 再び光源が操作され、止まっていた足が前に進む。


「それで、仲間を殺した魔物はどういう奴なんだ? 名前は?」

「あいつは……」


 そう呟いたのち、こちらにもわかるほど空気が張り詰める。

 拳は握り締められ、歯が食いしばられる。それでも耕太はその名を口にした。


「そいつの名前はガーゴイル。岩と砂を操る、高位の魔物だ」


 ガーゴイルの名は聞いたことがある。

 日本語名はたしか樋嘴ひはし。雨樋の機能を持っている彫刻だ。

 化け物としては番人のように描かれることもある。

 ただこのダンジョンに番人が必要とも思えないし、守るべきものがあるようにも思えない。この場合は単に動く石像として捉えたほうが良さそうだ。


「俺たちはまず砂に足を取られた。地面がいきなり砂になって、蟻地獄みたいに引きずり込まれそうになった。それから助けてくれたのは、朝子あさこだった」


 朝子。この三人の名前ではないことから、ガーゴイルに殺された彼らの仲間だろう。


「朝子の氷の魔法で地面が固まったから、俺たちは逃げ出すことができた」

「でも……」


 後ろで悲しそうな声がした。それに引きずられるように耕太も口を手で覆う。

 涙を堪える二人に対して、けれど一也だけは気丈だった。


「奴は岩を雨のように落としてきた。洋介ようすけが頭上に防御障壁を張ったが……長くは持たなかった。だから――」

「いや、もういい。十分だ」


 辛いことを聞いたな。


「あんたは強い」


 まだすこし震える声で耕太は言う。


「あんたなら、ガーゴイルを仕留められるかも知れない」

「あぁ、出来る限りのことをするよ。それが俺のためでもあるしな。すこし、休憩しよう」


 三人の精神的なことも考えて、ここで一度、休憩を挟む。

 身を寄せ合う三人と、それからすこし離れた位置に俺が立つ。周囲に魔物が出ないかと警戒を怠ることなく、思考を巡らせる。

 ガーゴイル。

 オチューを倒すすこし前くらいに、高位の魔物について精霊に尋ねたことがある。その中の一つにガーゴイルの名前があった。

 強さで言えばオチューの次くらい、今の俺なら十分に勝機はある。

 だが、厄介なのはガーゴイルが持つ耐性だ。動く石像とだけあってあらゆる属性に耐性を持っている。それはかつて戦ったカーバンクルよりもだ。

 あの時は複合特性の二種同時発動でどうにか押し勝った。でも、今度はそうは行かないかも知れない。最悪、打つ手のすべてが効果無しに終わるかも知れない。

 唯一救いなのは、ガーゴイルにも骨があるということだ。

 岩の肌に守られ、硬質の筋肉を持っているが、骨もきちんとある。倒して得られるものは確実にある。彼らの復讐に付き合う価値は、あるということだ。


「スケルトン」


 考えごとをしていると、一也の声で我に返る。


「透だ。音無透」

「そうか。なら、透。本音を聞かせてほしい。勝算はあるのか?」

「……正直、微妙なところだな」


 それが本音だ。


「ガーゴイルに攻撃が通じるか否かは、やってみないとわからない」

「通じなかったら?」

「またその時に考える。心配しなくても、必ず仲間の仇は取るさ」


 そう言ってやると、三人は顔を見合わせた。

 そして恐る恐ると言った風に、秋葉が口を開いた。


「どうして私たちの仇討ちに付き合ってくれるの? さっきは自分のためにもなるって言ってたけど……」

「それは……」


 これまで俺の目的を話した人間は二人しかいない。美鈴とその師匠だ。セリアは人魚だし、シンシアはエルフ、リーゼはドワーフだ。メイには目的を話すことなく別れたし、彼女ら以外の人間に話したことは一度もない。

 現状が現状だ。高位探求者が俺の命を狙っている。

 美鈴とその師匠以外の探求者は敵と思ったほうが懸命だし、敵に自分の情報を渡すのは得策じゃない。

 けれど。


「実は――」


 俺は俺の目的を彼らに話した。

 どうしてか彼らにならいいと思ったからだ。自分でも迂闊だと思うし、理由なんて特にない。あるとすればそれは、そういう気分だったから、としか。


「人間に……」

「戻る……」


 一也と秋葉の二人の呟きの後、耕太が口を開く。


「いいよ。それってすっごくいいことじゃん!」


 太陽のような明るい口調で。


「俺、応援するよ! 透なら絶対、人間に戻れるって信じてる!」

「お、おう」

「いやー、やっぱり希望がある話っていいよな。俺たちなんか絶望のまっただ中だし」

「それはそうだけど。でも、大丈夫だ。俺がどうにかして絶望から引きずりあげるから」

「はっはー、そいつはいいや。頼んだぜ、透!」


 そう言って耕太は拳を突き出した。


「あぁ」


 俺もそれに拳を付き合わせる。

 ガーゴイルの住処までは、あとすこし。

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