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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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本体の変貌


「信じてみるか」


 俺がオチューの本体を攻撃している間は、迎撃と再生に忙しいからか、飛翔個体も生まれていない。

 数が増えないならメイの負担も撃墜した数だけ軽くなっている。臓器の位置特定をメイに頼っても問題はないはずだ。


「メイ! そのまま続けてくれ!」

「うん! 任せて!」


 その後も吸血鬼の直感を生かした指示が飛ぶ。

 精霊のそれと違い、「もっと上」だとか「ちょっと左かも」だとか、大雑把で精度に欠けるアバウトな指示が多かったけれど。回数を重ねるごとにメイの尺度を掴み、二度三度と外していた攻撃も、すぐに臓器に直撃させられるようになった。


「ギィイイヤァァアァアァアアアァアアッ」


 また一つ臓器を潰し、オチューから悲鳴が上がる。

 潰した臓器の数はすでに十を超えていた。


「あの時、追い返さなくてよかった……のかもな」


 子供を戦場に立たせることにまだ抵抗を感じているけれど。メイのお陰で有利に立ち回れている。臓器を順調に潰せている。

 こちらが助ける側だと思っていたのに、まさかメイに助けられるなんて思いもしなかった。なにが起こるかなんてわかったものじゃない。


「もうちょっと左だよ!」

「――これでっ」


 そして、最後の攻撃をしかけ、細かな風刃の一条がオチューの本体を貫いた。

 その線上にはたしかに再生を司る最後の臓器があった。

 これで際限のないオチューの再生能力に限りができる。攻撃すれば攻撃した分だけ追い詰めることが叶う。ここからは俺の仕事だ。再生能力を削りきり、オチューにとどめを刺す。

 その決意とともに全身をサラマンダー・シェルに変換した。燃え盛る火炎に包まれ、特大火力の一撃を見舞おうと魔力を込める。

 だが――


「ギィィィイイィィイイヤァァアアァアアアアアアッ」

「な、なんだ?」


 咆哮とともにオチューから濃い霧のようなものが吹き出される。

 重たい銀色のような濃霧。それの正体はすぐに精霊が教えてくれた。


「――大気中にオチューの毒を検出。スケルトンである貴方に影響はありません」

「毒って――不味いっ」


 スケルトンとして、アンデッドとして、毒の効果を無効化できるのはいい。

 問題は生きている者――メイがこの毒に対応できないことだ。オチューの毒は吸血鬼でも打ち勝てない。地上の街に住む大人の吸血鬼ですら病に冒されるんだ、この至近距離でこの密度の毒を食らったら子供のメイは一溜まりもない。

 すぐに炎翼を羽ばたいて毒の濃霧から脱し、メイの目の前に立ち塞がる。


「騎士様っ」

「大丈夫、このくらい」


 迫りくる毒の濃霧に向けて、サラマンダーさながらの火の息吹を吐く。

 火炎は波のように広がりを見せ、薙ぎ払うことで襲いくる毒の濃霧を焼き払った。どれだけ強力な毒でも体内に取り込むまえに焼却してしまえば無意味だ。

 そうして毒の濃霧が焼き払われて、視界が一気に開ける。

 その瞬間にオチューの咆哮が轟いた。


「ギャアアァアアアアアアアァァァァァアアアアッ」


 先ほどとはまるで違う声音。光源に映し出されるオチューの姿は、声と同様に様変わりしていた。

 うねる尾。どっしりとした胴。一対の大翼。逞しい四肢。伸びる首。二叉の角に鋭い牙。全身のあらゆる箇所に開眼したその姿は、不気味なドラゴンを模していた。


「――オチューの形態が変化しました。臓器を破壊されたことで追い詰められ、かつて死闘を繰り広げた魔物の姿を模倣したようです」


 かつて戦った魔物の姿を模倣する。

 たしかにオチューならそれが可能だろう。自らの肉体から分離させた独立個体の姿を自由に変えることが出来るのなら、自身もまた同じように可変であるに違いない。骨格を組み替え、肉体を改造し、なりきることができる。

 けれど、それはまるで方法は違えど、俺自身のようだった。


「ど、どうしよう……」


 ふと、メイの不安げな声音で我に返る。

 毒の霧がある以上、もうメイを戦わせるわけにはいかない。もしメイの至近距離で放出されれば、焼却が間に合わなければ助けられないからだ。

 ここからは本当に俺一人で戦うしかない。


「メイ。ここからなるべく離れてるんだ」

「でも」

「大丈夫。絶対に勝つから」


 厄介な臓器はメイの頑張りですべて潰すことができた。

 だから、今度は俺が頑張る番だ。


「……わかった。遠くで……見てる」


 吸血鬼の直感が、毒の霧を脅威として認識しているのか。メイは渋々ながら言うことを聞いてくれた。

 本当は洞窟の外まで逃げてほしいけれど。メイは直感に支配されている訳じゃない。自らの意思で、この場に残ると決めている。その意思は揺るがないだろう。


「さて」


 メイが蝙蝠の羽根でこの空間から退避し、俺はドラゴン化したオチューと向かい合う。


「ドラゴンと戦うのは初めてだな」


 シーサーペントは蛇であり、サラマンダーは蜥蜴だった。その二つは近しい者ではあれど、竜や龍には程遠い存在だ。まがい物とはいえ、ドラゴンを相手にするのだ。これまで以上に気を引き締めなければならない。


「そう言えば……」


 吸血鬼の代名詞、ドラキュラはドラゴンの子という意味があるという。

 なにやら繋がりのようなものを感じるけれど、今は頭の片隅においやっておこう。

 今考えるべきは、どんな方法でドラゴン化したオチューを討伐するかだ。


「ギャァァアアアァアァアアアアアアアッ」


 その大翼を広げ、オチューは飛翔する。

 巨体が舞い上がり、口元に火炎を食む。それに対してこちらも炎翼を燃やし、対抗した。

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