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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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純白の仮面


 ドワーフたちと協力し、サンダーバードを打ち倒し、その能力を得た。

 名残惜しくも知り合った皆に別れを告げて、仄暗い通路に戻ったころ。懐に仕舞っていたミサンガ型の魔道具に着信が入る。手にとって起動させ、通話を開始した。


「美鈴か?」

「はい、美鈴です。今から会えますか?」

「あぁ。なら、集合場所を決めようか」


 低位探求者である美鈴を、ロストシリーズのローブがあるとはいえ、中位の魔物がうろつく区域にあまり長居させたくない。こちらから出向いて、比較的安全なところで落ち合うのが理想的だ。

 それにそのほうが安全に魔法の扱い方を習うことができる。


「――って、ことで」

「わかりまりました。すぐに向かいます」


 集合場所が決まり、通信がぷっつりと切れる。

 魔道具を懐に仕舞い直して、雷翼を広げて飛翔する。空間同士を繋ぐ仄暗い通路を飛行して、道中にいる魔物を適度に狩りつつ、集合場所へと向かう。

 狭いところも、低いところも、雷翼は狂いなくすり抜けてその先へと俺を運ぶ。

 扱いのよさはヒポグリフの翼以上のものがある。まぁ、そもそもが属性違いで、戦闘に置いてはどちらが良いとも言えないけれど。けれど――雷翼を得て、空中戦がやりやすくなったことはたしかだ。


「――よっと、到着」


 美鈴と落ち合うために決めていた小規模空間に降り立つ。雷翼を畳んで周囲に目を向けると、いくつかの虚ろな目――がらんどうな頭蓋たちと目があった。いつぞやのスパルトイの群れが小規模空間を占拠していた。


「悪いけど、明け渡してもらう」


 美鈴がくる前に掃除をして綺麗にしておかないと。

 スパルトイたちには不運だったと思ってもらうことにしよう。


「カタカタカタ」


 一斉に襲い掛かってくるスパルトイ。四方八方から攻め立てられる中、その中心にて。紫色の稲妻がほとばしり、無数に枝分かれした紫電がスパルトイの頭蓋を的確に撃ち貫く。

 自然界の雷ですら、巨木を貫き、岩を割る。魔力で構築された紫電ともなれば、触れただけでも頭蓋程度なら吹き飛ばせる。

 勝負は一瞬にしてついた。紫紺刀を振るうまでもなく、この空間から生命が一掃された。


「これでよし。あとは……」


 全身をヒポグリフ・フェザーに変換。同時に旋風を巻き起こして散らばっているスパルトイの残骸を巻き上げる。からからと乾いた音を立てて一箇所に集められ、風は役目を終えたように掻き消えた。

 目の前には骨の山。それへと手を突っ込み、混淆を発動させる。

 瞬く間に吸収された無数の骨は己の内側で魔力に変換された。


「うん、オーケー」


 これで綺麗になった。あとは美鈴の到着を待とう。

 魔氷で椅子でも作ろうかと思いつつ、作るならどの辺がいいかと空間を見渡した。


「――」


 そして、見つける。

 通路の闇に紛れるように立つ、黒衣の人物を。その顔は相反する白の仮面で覆われている。

 何者だ? いつからそこにいた? いや、それよりも優先すべきは――


「探求者か? あんた」


 そう問いかけてみるも返事はない。


「沈黙は肯定と受け取るけど、いいんだな」


 やはり、ない。


「……」


 どうするべきか。

 俺がしゃべったことに、彼は驚いていない。

 事情を知らないものが偶発的に遭遇したわけじゃないのは明らかだ。俺の存在を知っていて、俺を目当てにしてそこに立っている。なら、朽金たちと同じように俺を討伐することが目的か。

 それにしては突っ立っているだけで仕掛けてこないが。

 いっそのこと、逃げてしまおうか。そのほうが手間がない。

 いや――いやいや、美鈴と落ち合う約束だったじゃあないか。

 逃げるにしても、連絡を入れないと。でも、堂々と魔道具は使えない。内通者がいると探求者側にわかってしまう可能性がある。

 考えても見れば、美鈴がここに現れることも不味い。俺との繋がりが探求者組合とやらに露見してしまう。

 あぁ、色々と面倒なことになってきた。


「――」


 頭の中で色々と考えていると、沈黙を貫いていた彼がゆらりと動く。

 黒衣が揺れて現れるのは一振りの剣。それを見て、こちらも身構える。

 その瞬間――


「四方隔離」


 彼はひどく濁った男女の区別すらつかない声で、魔法の呼称を紡ぐ。

 その直後、俺たちを取り囲むように黒い光の線が走る。

 この魔法には見覚えがある。色が違うが、四方結界や二天城壁と同系統の魔法に違いない。

 つまり、閉じ込められる。


「くそっ」


 即座に羽ばたいて魔法の範囲外から離脱を試みる。

 しかし、俺の行動を読んでいたのか、相手のほうが一手はやい。目の前に黒く色付いた光の壁が迫り上がり、行く手を阻む。


「くっ――」


 同系統の魔法と言えど、これに触れて同じことになるとは限らない。

 よく知らないものには触れないほうがいい。取り返しがつかなくなってからでは遅いのだから。


「……どうやら、戦うしかないみたいだな」


 気乗りはしないけれど、そうしなければここから出られない。

 美鈴に連絡を取ることも叶わない。

 命を奪うことなく、相手を無力化する。難易度が高いのは、いつものことだった。


「――」


 剣を携えて仮面の彼が駆ける。人間とは思えない瞬発力と走力。瞬く間に間合いは詰められて、一撃を浴びせられる。頭上から落ちる剣先を、構築した浅葱刀で受けた。

 受け止めた感触は、想像していたものよりずっと重い。見た目に反して、岩石でも受け止めているかのようだった。

 彼は恰幅がいいとは言えない。背もそれほど高くない。

 目の前で詠唱こそされなかったものの、この身体能力は間違いなく魔法によるもの。無詠唱か、予め魔法を顕現させていたのか。前者だったなら、かなりの強者ということになる。

 以前に戦った朽金よりも――もしかしたら高位探求者か?


「――」


 鍔迫り合いの最中にあらゆる思考が過ぎり、それは無理矢理振り下ろされた剣撃によって中断させられた。剣圧に押されて引きずられるように地面を滑る。

 踏み止まって正面を向けば、振るわれた一閃が視界を二つに割っていた。


「チィッ」


 その一撃がこの身に及ぶ前に、浅葱刀に魔力を流して旋風を巻き起こす。集いし刃風が逆巻いてうねる。風圧を携えて一太刀を刻み、振るわれた剣撃に合わせる。

 ぎんっ、と重い音がなり、剣と刀がぶつかり合う。

 瞬間、刃風が爆ぜて仮面の彼を吹き飛ばし、追い打ちをかけるように風刃が拡散する。

 こちらも命懸けだ。無力化のためにも多少の傷は負ってもらう。

 だが――風刃は彼まで届かない。障壁のようなものに阻まれて霧散してしまう。


「今の……」


 詠唱していた様子はなかった。無詠唱の効力が半減した防御魔法で、ヒポグリフの風刃をすべて防ぎ切ったことになる。これまで戦ってきた魔物たちの中で、そんな芸当が出来たのはカーバンクルくらいだ。

 もしかしたらカーバンクル以上――これまで戦ってきたどんな相手よりも、彼は強いかも知れない。


「これは……腹を括らないといけないな」


 無詠唱でその防御力。なら、呼称を声にして顕現した黒い光の壁は相当な強度を誇るはず。全力の攻撃をぶつけて破れるかどうか。その攻撃の間、仮面の彼に致命的な隙を晒し続けるリスクを考えれば、この場からの脱出は事実上の不可能だ。


「倒すしか……ない」


 改めて再認識する。かなり困難だが、彼を無力化するほかにない。

 ヒポグリフ・フェザーをサンダーバードのものへと変換する。


「――サンダーバード・ウィングを行使しました」


 雷翼を広げて紫電を放つ。

 今の俺に出せる最大出力で仮面の彼を迎え打つ。

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