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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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地面の亀裂


 深緑の衣を身に纏う山岳地帯。

 木々の枝葉が天蓋のように空を覆い、機械鳥の目から俺たちを隠してくれている。

 俺たち別働隊は気取られないように細心の注意を払いながら山岳地帯を突き進み、遺物の製造所を目指していた。


「あと、どのくらいだ?」


 透明刀で緑を斬り払い、通り道を切り開きながら問う。


「そうねぇ。たしか……」


 俺の背後で手元の端末を操作したリーゼは、パネルに何度も触れている。

 リーゼがこの場にいるのは、ラシルドと何より本人の希望からだ。

 いくらドワーフの女性として平均的な身長をしているとしても、小柄な女性を別働隊に加えるのはいかがなものか? と、一度は反対したものの。

 俺の意見は「あら、私ってこと槍の扱いにおいては並ぶ者なしって言われてるのよ?」の一言でねじ伏せられた。

 実際、リーゼの槍捌きは凄まじいものだった。

 その辺にいるような遺物にはまず負けないと思わせてくれる頼もしさがある。

 戦力としては申し分なく、またリーゼは製造所の入り口に心当たりがあるという。

 現在、俺たちはリーゼの案内を頼りに、その入り口を探していた。


「うん、やっぱりこの辺のはずよ。ほら」


 そう言って見せられた端末の画面には、上空からの画像が映し出されていた。

 サンダーバードに撃ち落とされるまえに、改造機械鳥が撮影していたものらしい。

 画像には緑に覆われた山岳地帯の一部が描かれている。

 しかし、よくよく見てみれば緑の中に、機械的な物体がちらりと見えていた。

 リーゼ曰く、これが鍵となるらしい。


「ほら、って見せられても俺にはよくわからないけどな」


 画面の端に数値が書かれているから、これを目印にするのだろうけれど。

 その読み方を俺はしらない。


「とにかく、この近くってことか。んー……」


 目につくものはとにかく緑色の世界だ。

 周囲を見渡してみても、やはり緑色が真っ先に目につく。

 けれど、時たまに緑色以外のものも見えることがある。

 土気色の荒野。

 この地点から見ることができる、イーエス。

 現在、イーエスからは戦火が上がっている。

 ラシルドが率いるドワーフ軍が、銀色の一群と険しい戦いを繰り広げている。


「心配ですねぇ。ラシルドさんは大丈夫でしょうかねぇ」

「バカなこと言うな。あのラシルドさんだぞ、大丈夫に決まってる」

「そうだ、そうだ。それにあの馬鹿でけぇ機械の獣もいるんだ。そう簡単にやられやしねぇよ」


 別働隊に組み込まれたドワーフたちの言葉は前向きなものばかり。

 それが心配の裏返しであることは、考えなくてもわかることだ。

 自分たちの活躍次第で、長きに渡るサンダーバードとの戦いに決着が付く。

 そんな局面にいて、心配事がないほうがおかしい。

 それはリーゼも同じことで、心なしかいつもより歩くペースが速いように思う。

 みんな思い思いの感情を胸に抱えて、製造所に攻め入ろうとしている。

 当然、この俺も。


「――見つけたっ!」


 次第に見えなくなっていくイーエスを眺めながら進んでいると、とうとう見つけ出した。

 リーゼが指を差した先には画像に描かれていた機械的な物体がある。

 俺たちは急いで道を切り開いて進み、その物体のもとまで駆け寄った。


「これは?」

「見てわからない? 機械よ、機械」

「それは見ればわかるけど」


 見つけ出したのは酷く風化した機械だ。

 遺物ではない、ただの機械。

 素人の俺にはどんな用途で使われるものなのかさっぱりだけれど。

 リーゼはこの朽ち果てた機械になにか確信めいたものを抱いているようだった。


「この機械はね、遺物を組み上げるためのものなのよ」

「へぇ、これで遺物を……」


 そう言われてみれば、見覚えがある気がする。

 改造機械鳥から送られてきた映像に、こんな機械が映っていたような、そうでもないような。

 とにかく、リーゼが言うからには遺物を組み上げるための機械なのだろう。


「ん? でも、そんなものがどうしてここに?」

「恐らく、五十年前の地殻変動ね。その影響で内部の機械が外に放り出されたんだわ。風化や腐食具合もちょうどそんなところだし、間違いないと思う」


 錆び付いた機械を眺めながらリーゼはそう推測した。

 地殻変動によって生じた被害によって、内部の機械が外に放り出された。

 そのうちの一つが今目の前に横たわっている。

 ということは――


「内側から外側に出たってことは、ね? わかるでしょ?」

「……これが外に出るためには、出口が必要ってことだな」


 それは恐らく、亀裂や穴という形で存在している。

 俺たちはそれを見つけ出し、侵入経路として使用しなければならない。

 以前に改造機怪鳥が通ったルートはもう使えないからだ。

 サンダーバードが警戒しないわけがない。

 今頃は封鎖されているか、厳重な警備が敷かれているだろう。

 だからこそ、俺たちは新たな入り口を見つけなければならなかった。


「みんな! この辺に入り口があるはずよ! 手分けして探しましょう!」

「ガッテン!」

「草の根分けてでも探し出せ!」


 別働隊総員で手分けして製造所への入り口を探す。

 邪魔な植物を斬り払い、周囲の見晴らしをよくしていく。

 けれど、なかなか見つからない。


「可笑しいわねぇ」


 操雷のついていないただの槍の穂先で雑草を払いつつ、リーゼはぼやきながら進んで行く。


「この辺にあるはずなんだ――」


 瞬間、リーゼの小柄な身体が地面に大きく沈み込む。


「けどぉぉぉおおおおおおっ!?」


 原因は足下の地面にあった。

 落ち葉と腐葉土に覆われたその地面の下には大きな空洞があったのだ。

 その上にリーゼが乗ったことで崩落がおき、周囲の地面が総じて滑落し、空洞へと吸い込まれてしまう。もちろん原因たるリーゼも例外じゃない。


「リーゼ!」


 地面を蹴ると同時に両翼で羽ばたいて急加速。

 落ちかけていたリーゼの手を掴み取り、なんとか落下を阻止した。

 ほっと安堵したのは、言うまでもない。


「た、助かった……」


 呆然とするリーゼは下を眺めて身震いをする。

 空洞は大きく奥底まで落下していたらと思うとぞっとする。

 落下の衝撃に加えて、あとから落ちてくる土の雪崩れで生き埋めだ。

 そんな死に方はできればしたくないものだ。


「ダイエット……しようかしら」

「それ以上、軽くなったら風で飛んでっちまうぞ」


 ただでさえリーゼは小柄で体重が軽い。

 ダイエットの必要なんてない。


「よっと」


 崩落が起きていない地面にリーゼを下ろす。


「ありがと、助かったわ」

「これくらいはお安い御用だ。にしても……」


 自分も地面に降り立ち、見据えるのは滑落した地面だ。

 大きな亀裂が走ったように鋭い穴が空いている。

 淵にまで寄って下の様子を窺ってみると、仄暗い闇が顔を覗かせた。

 まるで深淵のように一面が黒に塗り潰されている。


「大丈夫ですかい!?」


 空洞の様子を窺っていると、ドワーフたちの声がした。

 みんな血相を変えてこちらに集まってきている。


「平気よ、ありがとう。でも、それより誰か明かりを持ってきてちょうだい」


 集まってきたみんなから明かりを受け取り、リーゼはそれを空洞へと投げ込んだ。

 闇を払いながら落ちていく明かりは、腐葉土に着地してしめった音を鳴らす。

 そうして微かに見えた空洞の内部は、人工の物と思われる通路が敷き詰められていた。


「大当たり! ここが入り口で間違いないわ!」


 五十年という歳月が、この入り口を覆い隠していた。

 こんな隠し方をされては正攻法では見つけられない。

 けれど、運が良いのか悪いのか、リーゼが当たりを引き当てた。

 これで製造所へと侵入することができる。


「降りるわよ! 準備して!」

「おうとも! ついに敵の本拠地に乗り込むぞ!」


 ドワーフたちは通路へと降りるための準備に取りかかる。

 こんなこともあろうかと事前の用意は万端だった。


「見たところ通電もしていないようだし、破棄された場所みたいね」

「みたいだな。地殻変動の影響で製鉄所の一部がダメになって、修理もせずに破棄したってところか」


 修理できないほど壊滅的な被害だったのか、そもそも修理をする気がサンダーバードにないのか。

 どちらにせよ、好都合。

 ここなら警備もかなり薄いはずだ。一体も配置していない可能性だってある。

 サンダーバードの横っ腹を貫くには、持って来いの場所だ。


「準備できやしたぜ!」


 そうこう話しているうちに準備が整う。

 通路に降りる方法はとても原始的な方法だ。

 逞しい木の幹にロープを巻き付け、空洞に垂らすだけ。

 たったそれだけのことだが、単純だからこそ失敗がない。


「なら、俺が先行する。安全を確保できたら合図するから」

「わかった、任せたわよ。トオルくん」


 先行して地面の亀裂から通路へと足を踏み入れる。

 両翼を目一杯広げてゆっくりと下降し、柔らかい腐葉土に降り立つ。

 足下に突き刺さった明かりを持って暗闇に突き出してみる。

 けれど、やはり先のほうまでは照らせない。


「んー……こうしてみるか」


 頭部をカーバンクルのそれに変換、額の宝石に少量の魔力を込めて暗闇に閃光を放つ。

 一筋のレーザービームが周囲を照らしながら闇を貫いていく。

 その様を最後まで見届け、次に反対方向に向けて同じように閃光を放つ。

 結果は両方向ともに敵影無し。

 ただ長い通路が続いているだけだ。


「大丈夫だ、降りてきてくれ!」


 頭上に向かってそう言葉を投げると、ロープを伝ってリーゼが一番に降りてくる。

 それに続いて続々とドワーフたちがこの場所に足を下ろした。


「とりあえずは安全だけど、どっちに進んだもんか」


 どちらの先にも通路は続いている。

 闇雲に歩いても迷うのは目に見えていた。


「その辺も問題ないわ。あっちよ」


 そんな中でもリーゼは迷いなく、向かうべき方角を示してくれた。


「サンダーバードの魔力性質は嫌ってほど研究し尽くしたから。ここまで接近できれば大雑把な位置くらい簡単に掴めるの。すごいでしょー」

「あぁ、本当に。凄いって言葉しか浮かばないな」


 俺一人だったら、この暗闇の通路を何時間も彷徨っていたことだろう。

 目指すべき方角がはっきりしているのなら、さほど迷いもせずにサンダーバードのもとにたどり着ける。


「なら、行こう。ラシルドたちのことも心配だ。出来るだけ早くに決着をつけよう」

「そうね。みんな行くわよ!」


 別働隊は暗闇を払いながら通路を突き進む。

 この闇の先にサンダーバードの存在を確信し、邂逅のときは近いと覚悟しながら。

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