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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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遺物の製造


 銀色の機械鳥が空を翔る。

 改造機械鳥が向かう先は山岳地帯上空、サンダーバードの潜伏地だ。

 紫色の双眸が映すのは山岳の地形と、群れをなして跳ぶ機械鳥。

 それぞれが協力して運んでいるのは一体の巨大な魔物だった。

 鎖で雁字搦めに縛られ、ぴくりとも動かない。

 仕留めた獲物をサンダーバードの元へと運ぶ、真っ最中といったところだ。


「あれに紛れ込みましょうか」


 画面に映し出される映像を元に、リーゼが魔導器を操作する。

 イーエスの中央広場。仮設テントの中で改造機械鳥の操作は行われていた。

 電波的な問題は、とくに生じていない。

 魔力が用いられているからなのか、魔導器が強力なのか。

 とにかく遠距離からでも問題なく、リーゼは機械鳥を操れていた。


「よし、バレてないバレてない」


 仕留めた魔物を空中輸送する群れへと、改造機械鳥を紛れ込ませる。

 識別状では味方である改造機械鳥を、ほかの機械鳥が怪しむことはない。

 普段となにひとつ変わることなく輸送は続いていく。

 そうして群れの流れに身を任せて飛行することしばらく。

 見えてきたのは山岳地帯にぽっかりと口を開けた、六角形の穴だった。


「なんだ、こりゃ」


 山岳の傾斜に合わせるように造られた穴蔵――通路。

 近未来を思わせる飾り気のない単色でシンプルな造りの通路へと侵入すると、その先には山の内部とは思えないほど人工的な光景が広がった。

 内壁を這うように伸びる丸太のような太さのコード。

 用途の見当すらつかない多種多様な機械類。

 数えるのも億劫になるほどの数多のアーム。

 組み上げられていく、遺物たち。

 全体構造としてはシェルターといったほうが自分でも納得がいく。

 けれど、この施設の目的は明らかに――


「遺物の製造所ってところ……ね」


 山一つを刳り抜いて造られた製造所。

 銀色の装甲を身に纏う遺物たちは、この場所で製造されていた。

 倒しても倒しても湧いてくるのは、この施設が常に稼働しているから。

 恐らくは五十年もの間、ずっと。


「このどこかにサンダーバードが……」


 すでにリーゼやラシルドに隠れて精霊に確認を取っている。

 この製造所にサンダーバードが潜伏していることは間違いない。


「見たところ、かなりのハイペースで造られているわね。どうやって材料を確保しているのかしら」


 機械の手によって次々と遺物が造られていく。

 その製造スピードはリーゼも舌を巻くほど。

 造られた端からサンダーバードに支配されているのなら、かなり不味い。


「もうすこし……構造の詳細を……」


 魔導器が操作され、改造機械鳥が群れから離れる。

 この製造所に攻め入るためにも内部の構造を見ておく必要があった。

 けれど、改造機械鳥が単独で製造所内を飛び回っていると――


「なっ」


 唐突に雷鳴が響き渡り、画面が紫一色に染まった。

 映像はそのままブラックアウトし、改造機怪鳥からの通信が途絶える。

 紫色の稲妻。

 まず間違いなく、これを行ったのはサンダーバードだ。


「流石に……サンダーバード本体までは誤魔化せないみたいね」


 魔導器を簡易テーブルに置き、リーゼは深い溜息を吐き出した。


「雷の魔物だからこそ、ほかの雷には敏感みたい」


 操雷の術式に反応して攻撃されたってことか。


「だが、これではっきりしたな。サンダーバードは製造所にいる」


 ラシルドはそう確信する。

 敵の居場所を突き止めた。

 貴重な改造機械鳥を失ったとはいえ、おつりが来るほど有益な情報を得られた。

 朗報だが、腕組みをしたラシルドの顔と声音は険しい。


「問題はどう攻めるかだが……遺物の数が増え続けているとなると、色々と前提が崩れちまうな」

「そうね、お父さん。遺物の製造ペースもかなり速いし……これまで考えてきた作戦は使えないかも」


 ラシルドやリーゼの口振りからして、この製造所の存在は想定外なのだろう。

 ドワーフにとって遺物とは発掘して得るもの。

 今もなお稼働している製造所があるなんて、ふと思いついても考慮に値しないような話だ。

 だが、実際に製造所は存在し、サンダーバードはそこを根城にしている。

 時を追うごとに数を増す遺物の軍団。

 新たな情報が既存の作戦をダメにしてしまった。


「どうするんだ? 製造が行われているなら、悠長に構えてはいられないぞ」


 イーエスが奪い返されたことは、サンダーバードも承知しているはず。

 今頃は再度イーエスを占領するために部隊を編成していることだろう。

 もたもたしていたら、またイーエスが戦場になる。

 補給路が確保できたとはいえ、そう何度も立て続けに戦える訳じゃない。

 相手は機械でも、こちらは生き物だ。

 腹が空くし、疲労がたまるし、怪我もする。

 いくら屈強な肉体を誇るドワーフでも圧倒的な数の暴力には叶わない。


「遺物の製造速度からして纏まった数を用意するのに四日……いえ、元々製造所に駐屯している兵力のことも考えると長くても二日くらいね」

「……製造所は山岳地帯にある。どうしたって進軍は遅れるし、二日じゃたどり着けないな。最悪、悪路で足が鈍ったところを数で襲われると一網打尽だ。かと言ってイーエスで勝利し続けても、製造所が稼働している限り打撃にならねぇ」


 遺物を製造するための資源も燃料も出所が不明だ。

 いつ尽きるかなんて誰にもわからない。

 何日後、何年後、何十年後にもなるかも知れない。

 その日を戦い続けながら待つことなんて無茶にもほどがある。


「今のところ思い浮かぶのは……そうだな」


 一呼吸おいて、ラシルドは告げる。


「イーエスを囮にしてサンダーバードを直接叩くってところか」

「イーエスを……囮に」


 サンダーバードはイーエスを取り返しにくる。

 自身が巣穴とした製造所付近に、外敵が住み着くのを黙って見ているはずがない。

 大量の遺物を差し向け、占領しようとするはず。

 なら、イーエスが攻められている間は、製造所が幾ばくか手薄になるということ。

 その隙を突く形で別働隊がサンダーバードを直接討つ。

 そうすれば遺物たちは解放され、その時点で戦闘は終了する。

 ドワーフの勝利が確定する。


「……」


 しかし、思い描いた通りにことが運ぶなら誰も苦労はしない。

 別働隊がサンダーバードを討てなかったら。

 イーエスが持ちこたえられずに陥落したら。

 不安要素は数知れない。

 だが、かと言って他に現実的な作戦があるわけでもない。


「トオル。もしこの作戦でいくなら、別働隊はお前さんに率いてもらいたい。お前さんが一番適任だ」

「……いいのか? それで」


 ラシルドが言っていることはたぶん正しい。

 サンダーバードを討つ確率が一番高いのは俺だ。

 数多の魔物の特性を有しているスケルトンだ。

 けれど、それは同時に――


「機械鳥をどうするつもりなんだ?」


 ドワーフが敗北を重ねてきた原因。

 空を飛ぶ遺物、航空戦力に打つ手がなくなるということ。

 地上では無類の強さを発揮するドワーフでも、空まで得物は届かない。


「……イーエスを防衛するだけなら、トオルくん無しでもどうにかなるわ」


 そう言ったリーゼは仮設テントの出入り口へと向かう。


「ついてきて」


 言われるがままリーゼのあとをついていく。

 中央広場ではほかのドワーフたちが忙しそうに往来している。

 イーエスの損害具合の確認や、人員配置、物資の配給にと大忙しだ。

 それに加えて、いつ攻めてくるかもわからない遺物たちに備えて心構えをしておかなくてはならない。

 今日まで何度も遺物と戦い、傷ついてきた。

 中には戦えなくなるほどの負傷を負った者もいる。

 俺たちはその最中を横切り、目的地にまで到達した。


「これを見て」


 リーゼが手を掛けるのは、一枚のシート。

 ドワーフの身長を持ってしても見上げなければならないほど大きな何かを隠しているものだ。

 リーゼはそれを力強く引いて、その正体を露わにする。


「これは……」


 黒々とした色合いの四角い大きな箱のようなもの。

 人工太陽の日光を浴びると、それは静かな音を立てて起動し、幾つかのブロックとなって分解される。

 そうして開示される箱の中には、紫色に発光する魔力の塊が捕らわれていた。


「電磁バリアの生成装置よ。これを持ってくるのに、馬が二頭もバテちゃった」

「電磁バリア……それがこの大きさってことは」

「えぇ、そうよ。これを起動すればイーエス全体を電磁バリアで覆えるわ」


 遺物から得た技術を、リーゼはここまで使いこなしていた。

 未知のオーパーツであるはずなのに、解明し、解析し、改造し、改善し、自らの力としている。

 その事実には、ただただ圧倒されるばかりだ。


「こうなることを見越して?」

「まぁ、そうね。予定とはちょっと違ったけど」


 前提がいろいろと崩れたと言っていたし、想定していた用途とズレが生じたらしい。

 それにしてもよくこんな装置を作れたものだ。


「……でも、機械鳥も電磁バリアを持ってたよな?」


 電磁バリアは電磁バリアで相殺できる。

 電磁バリアでイーエスを覆ったとして、それでも機械鳥は侵入できてしまう。


「大丈夫。わざわざ高度を落として入ってきてくれるなら儲けものよ。それだけ接近してくれるなら、撃ち落とすのも難しくないわ。それに今は進軍の最中でもないから、どっしり構えていられるしね」


 リーゼはそう言うと、俺の正面にくる。


「ふふーん。私がイーエスを奪還した後のことを考えてないと思った?」

「……はは、思ってない」


 リーゼはこれまでも数々の発明品で、現状を打開しようとしてきた。

 その努力の賜が、いまこの時を作り出している。

 彼女なくして俺たちはここまで来られなかっただろう。

 サンダーバードを討伐した後には、誰もが彼女を称えるはずだ。


「地上の戦力には機械獣がいる。航空戦力への対策も、万全じゃないながら持ってる。こと防衛戦においては、なかなか条件が揃っているんじゃあないか?」

「たしかに、そうかも」


 これなら俺が戦場に出なくても、持ちこたえられるかも知れない。


「今、早馬を使ってこっちに物資を届けさせてる。遺物どもが攻めてくるまでには到着するはずだ」

「そっち方面にも抜かりはなしか」


 戦線の維持に必要な物資も補充の目処が立っている。

 元々、俺は一人でもサンダーバードを相手にするつもりだった。

 こうしてドワーフたちが協力してくれるなら、俺にとっては願ったり叶ったりだ。


「わかった、任せてくれ。サンダーバードは必ず、俺が討伐するから」


 そう言うと、それを聞いたラシルドが破顔する。


「いい返事だ! お前さんと出会えて良かったよ、本当に!」


 俺の肩をバシバシと叩くラシルドは嬉しそうだった。

 力が強くて痛いくらいだけど、それくらい期待してくれているということで、このじんわりと骨身に沁みる痛みを我慢することにしよう。


「そうと決まれば、みんなに話を通さないとな」

「私も行くわ。ほかに名案が出てくるかも知れないし」

「あぁ、頼んだ」


 それからドワーフたちの作戦会議が行われた。

 結果として、イーエスを囮にする作戦は賛成多数で採用された。

 街で機械竜の虹霓砲を防いだことや、奪還作戦で機械獣を鹵獲したことが響いたと、リーゼは言っていた。

 俺の行いでドワーフたちの信用を得られたのなら、それはとても嬉しいことだ。

 だからこそ、責任重大だ。

 なんとしてでもサンダーバードを討つ。

 その決心を決めてから二日の時が流れ、作戦決行日が訪れた。

あけましておめでとうございます。

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新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
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