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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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近代の兵器


 一瞬の拮抗を経て、互いに互いを弾き合う。

 機械獣のブレードが大きく仰け反り、こちらは身体ごと宙を舞う。

 身を攫うほどの衝撃を両翼の羽ばたきで相殺し、なんとか踏み止まった。


「下手に加減すると押し負けるか」


 鹵獲前提での戦いだ。

 下手に攻撃して壊しでもしたら目も当てられない。

 かと言って、加減の仕方を間違えるとこちらに不利がつく。

 ラシルドたちが四方八方から押し寄せる遺物たちを抑えてくれているが、そう長くは持たない以上、時間も掛けてはいられない。

 大胆さと慎重さが求められる、厄介な戦いになりそうだ。


「でも、やるしかないよな」


 再び、両翼で羽ばたいて飛翔する。

 機械獣をかく乱するようにジグザクに飛んで隙を窺う。

 すこしでも隙を見せれば、そこを突いて操雷を突き立ててやる。


「――」


 絶え間なく動く俺を見据えて、機械獣は射撃体勢に入った。

 身を低くして地面に爪を立てて体勢を固定し、装備した砲門が上空を向く。


「また虹霓砲か」


 今まで幾度となく見てきた攻撃だ。

 秒と経たないうちに砲門が光を放ち、虹色の閃光が放たれる。

 そう思っていたのも束の間。


「――」


 全砲門が火を噴いた。

 虹霓砲特有の予備動作もなく、それは放たれた。


「ミサイル――だと」


 いくつもの弾頭が煙を引いて押し寄せる。

 この身に迫るのは、五十年の眠りから覚めて初めて目にする近代的な兵器。

 その破壊力は五十年前の地球に生きていた俺だからこそ、鮮明に想像することができた。

 これをくらうのは不味い。


「くっ――」


 直ぐさま宝石の魔力で透明の結晶壁を展開する。

 菱形の防壁は迫りくる弾頭と接触し、ひどく重い衝撃と音を響かせた。

 爆発。弾頭が爆ぜるとともに結晶壁に深い蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 たった一発。

 魔力が続く限りとはいえ、機械竜の虹霓砲を完全に受けきった結晶壁が、いともたやすく半壊にまで追いやられた。

 そんな破壊力を秘めた弾頭が目に見えるだけでも十数発は放たれている。


「冗談じゃないっ」


 結晶壁が二発目の弾頭と接触した瞬間、上空に向けて大きく飛翔する。

 爆発と共に結晶壁は砕け散り、爆煙が周囲に満ちる。

 その最中から斬り裂くように舞い上がった。

 ミサイルの軌道上から脱すればなんとかなると思っての行動だ。

 だが、そう甘くもない。


「――追尾してきやがるっ!」


 舞い上がった俺を追うように弾頭は軌道を変えた。

 九十度近い角度をなんなく修正し、我先にとばかりに追ってくる。


「くそっ!」


 この大規模空間で人工太陽を見てから一番の悪態をつく。

 翼をはためかせて可能な限りの加速を得てミサイルから逃げる。

 だが、どれだけ速く逃げようとも逃げ場はない。

 機械獣に背を向けて逃走わけにもいかないし、周囲で戦っているドワーフたちに押しつけるわけにもいかない。

 結局は数多の弾頭と向き合わなくてはならないわけで。


「あぁもう」


 また悪態をつく。


「……でも、こういう時は」


 ミサイルに追尾された時の対処法は知っている。

 使い古された攻略法だ。

 俺はそれを実戦しようと方向転換をし、機械獣に向けて加速した。


「――」


 上空から真っ直ぐ突っ込んでくる俺に機械獣は数多の銃口を向ける。

 砲門ではなく、銃口。

 そこから放たれるのはミサイルではなく、鉛玉。

 遡る雨のごとく、鉛が空へとばらまかれる。


「好都合!」


 弾道を読んで回避行動を取り、背後から追ってきている弾頭と相殺させる。

 鉛玉に貫かれたミサイルが爆発し、次々に周囲へと誘爆した。

 目論見は成功したが、それでも俺を追う弾頭は尽きない。

 多数のミサイルに追われつつ、鉛玉を躱して機械獣の至近距離へ。

 地に足を付けてそのままの勢いで機械獣の腹の下へと滑り込む。

 数多の弾頭は俺の軌跡をなぞるように追い――

 砲手である機械獣の横っ腹を爆炎で穿つ。


「――」


 機械獣も電磁バリアを身に纏っている。

 それに阻まれて直撃はしないだろうが、あれだけの数を身に受ければダメージにはなる。

 事実、側面からの爆発の威力に機械獣は怯んでよろけた。

 大きく体勢が崩れ、隙が生じる。


「ここだっ」


 その隙を逃す手はない。

 腹の下を通り抜け、即座に紫紺刀を石畳に突き立てる。

 それを楔とし、軸にして方向転換。

 足先で弧を描いて機械獣へと向き直り、もっとも近い位置にある左前脚に狙いをつけた。

 ヒポグリフ・フェザーから操雷ダガーを抜き、その毛並みのような装甲に鋒を向ける。

 振り下ろした紫色の刀身は電磁バリアを破り、銀色を越えて内部へ深々と埋まった。


「まず一つ!」


 目的の一部を達した。


「――」


 しかし、喜んではいられない。

 機械獣は即座に体勢を立て直し、反撃に転じて牙を剥く。

 文字通りの鋼鉄の牙が、この身を引き裂いて砕かんと迫る。

 紫紺刀は地面に突き立てたままで、引き抜いていては反撃も防御も間に合わない。

 迎え打つことはせず、素直にその場から飛び退いて空中へと逃れる。

 機械獣から一定の距離を置き、操雷が突き刺さった左の前脚を見下ろした。


「あと四つ」


 操雷を突き立てる位置――部位は、あらかじめリーゼに指定されている。

 前脚に二つ、後ろ脚に二つ、そして背中に一つ。

 いま一つ終わったので、残りは四つ。

 それだけ操雷を突き立てれば機械獣の動きを止められる。


「骨が折れるな」


 まさか現代兵器を使われるとは思わなかった。

 いや、そう見えるだけで多少の魔法や術式が使われているのかも知れないが。

 とにかく、脅威であることに代わりはない。

 ほかにもまだなにか隠し持っている可能性だってある。

 技術が魔法を凌駕することなど、往々にして良くあることだ。


「――」


 空へと逃れて一息を入れる俺を見据えて機械獣が吼える。

 ミサイルを放とうとはしてこない。

 先ほどの攻防で効果的ではないと判断したからだろう。

 どうやら武装だけではなく、学習能力もほかより良いらしい。

 戦いが長引けばそれだけ学習されて戦いづらくなっていく。

 時間は掛けていられない。

 戦況的にも、ラシルドたちの疲弊的にも。


「……慣れない空中より、地上のほうがはやく済むか」


 自ら高所の有利を捨てるのもどうかとは思うが。

 やはり空中での立ち回りにはまだ慣れない。

 時間的に余裕があるのなら、ずっと飛んだままでもよかったのだが。

 というか、そうするべきなのだが。

 余裕がない今は地上に降りて戦ったほうが結果的にはやく終わる。

 多少の有利を捨ててでも、今は時間の短縮を図るべきだ。


「今後の課題だな」


 空中戦に関する反省をしつつ、地面へと降り立つ。

 低くうなるように声を発する機械獣と正面から向かい合った。


「あと五分の四」


 右手に宝石の魔力を集め、透明刀を構築した。

 石畳に突き刺した紫紺刀は、まだそこで埋まっている。

 今しばらく、そこで眠っていてもらおう。


「出来る限り手早く終わらせて、お前をリーゼに引き渡す」


 その言葉が聞こえたのか、機械獣は咆吼を放って駆ける。

 それに合わせて、こちらも透明刀を構えて地面を蹴った。

本格的な改稿作業に入るので、更新頻度を週一にします。

毎週金曜日に更新しようと思いますので、よろしくお願いします。

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