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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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空中の攻防


 硬い蹄が地面を踏みしめ、心地よい揺れとともに荒野を進む。

 俺が跨がっているのは、ドワーフにとって貴重な移動手段である馬だ。

 正確には馬によく似た魔物。飼い慣らされていて、とても大人しい生物だ。

 見た目は完全に草食動物なのに、その口腔に鋭い牙を隠し持っている。

 肉食の馬だ。


「魔導駆動機が使えれば移動も楽なんだけどね。おしりが痛くなっちゃうわ」


 隣で併走するリーゼが鐙をかるく叩きながら愚痴るように呟く。

 その背には彼女の背丈に合わせたであろう、すこし短い操雷槍がある。

 武器や防具のメンテナンスのために、今回の奪還作戦にも参加するらしい。

 彼女は設計士でもあり、槍の名手だという。

 力持ちなこともあって、戦力としても期待されているみたいだ。


「魔導駆動機?」

「えぇ、そう。なんて言えばいいのかしら? まぁ、地面を滑空し続ける大きな入れ物ってところかしら。人や物資を運ぶのに丁度いいのよ」

「あー……」


 ドワーフにとっての自動車のようなものか。

 地面から浮いて滑空するように移動するという点で、かけ離れてはいるけれど。

 魔導という言葉の響きからして、やはり魔法――術式を使うのだろう。

 魔法というものが絡むと地球上の技術を上回る性能の機械が出来上がるようだ。


「どうしてそれは使えないんだ?」

「乗っ取られちゃうからよ、サンダーバードに」

「あぁ、たしかにな」


 得心がいった。

 物資を詰め込んだ魔導駆動機がサンダーバードに乗っ取られた堪らない。

 移動手段として機械類を用いるのは、今回の場合は不適切だ。


「だから、物資も荷馬車にか」


 後ろを向いてみると、武装した警備兵の列と何台かの荷馬車が映る。

 兵の数は街の警備から割けるギリギリの数となっている。

 決して多いとは言えない数字だが、そこは操雷槍による遺物の鹵獲で補える算段だ。


「鍛冶、製鉄と機械技術で成り立ってきたドワーフが、原始的な方法を取らざるを得ないっていうのが悩ましいところよね」

「そうだなぁ……」


 人間の世界も――五十年前の地球も、機械に頼りっぱなしだ。

 もし機械類がすべて沈黙したら、恐らく大半の人間は生きてけなくなる。

 機械で楽をすることを覚えすぎてしまったから、それを失うなんて考えられなかった。

 五十年後の現在。異世界と繋がりを持った今。

 人間はどのような生活を送っているのだろう。

 今度、また美鈴にあったらすこし教えてもらおうかな。


「見えてきたぞ」


 地平の彼方に目的地が浮かび上がる。

 壊れて崩れて朽ち果てた、残骸のイーエス。

 指先に乗る程度の小さなものだが、たしかに現れる。

 そしてイーエスが見えてきたということは、すでにサンダーバードの縄張りに踏み込んでいることを意味していた。


「気を引き締めろ! いつどこから襲ってくるかわからねぇぞ!」


 前方を行くラシルドが、後続に向けて檄を飛ばす。

 すんなりとイーエスにたどり着けるとは、これっぽっちも思っていない。

 操られた遺物たちとの戦闘は必至。

 それぞれがそれぞれの役目を果たすべく、手にした操雷槍を握り締める。

 そうして。


「――来た」


 機は熟した。


「陣を張れ!」


 前方に遺物の群れが現れる。

 それは押し寄せる波のように荒野を銀色に染めていく。

 夥しい量の物量を前に、だがドワーフたちは怯まない。

 勇猛果敢に声を張り上げ、素早く陣形を整える。


「俺も出番が来たな」


 鐙の上に立ち、銀色の荒野から視線を持ち上げる。

 空には地表に幾重もの影を落とす飛行型の遺物が多数目に映った。

 まるで銀色の雲を見ているように、一塊となって飛んでいる。

 数えるのも億劫になるほどの数がいる。

 俺は今からそれらをたった一人で引き受けなくてはならない。


「トオルくん。これを持っておいて」


 視線を空からリーゼに向けると、ダガーを投げ渡される。

 紫色の刀身をした、操雷だ。

 それの短い柄を掴んで再びリーゼを見やる。


「一体だけでいいわ。鹵獲してきてちょうだい」

「わかった。あとは全滅させていいんだな?」

「もちろん。頑張って」

「あぁ、そっちもな」


 ダガー型の操雷をヒポグリフ・フェザーに突き刺すようにしまう。

 風の魔力に取り込まれるようにして収納は完了した。

 そうして俺は両翼を広げ、羽ばたいて飛翔する。

 一息に天空まで舞い上がり、飛行型の遺物たちと同じ舞台に立つ。


「ふー……」


 これまで何度か試みられた奪還作戦。

 そのいずれもが、この段階で失敗に終わっているらしい。

 攻撃が届かない位置――上空から一方的に集中砲火を浴びたからだ。

 飛行型の遺物――機械鳥を止めなければ、この作戦はまた失敗に終わる。

 責任重大だ。成否が俺に掛かっている。

 そのことを肝に銘じながら心を落ち着かせる。


「さぁ、行くぞ」


 両翼を羽ばたくことで推進力を得て、俺はたった一人で先行する。

 単騎突入。

 右手に透明の宝石刀を携え、一息に肉薄する。

 それを受けた機械鳥の群れは、地上の遺物たちを置き去りにして動き出す。

 まずは釣り出しに成功。

 俺たちは互いに地上軍の接触を待たず、先んじて空中を舞台にぶつかり合う。

 開戦の火蓋は一足早く落とされた。


「カカカッ、カカッ」


 先手を打つのは機械鳥。

 前方にいた数体が鋼の嘴を目一杯大きく開いて、内部の砲門に光を宿らせる。

 それは以前にも見た、閃光の予備動作。

 放たれるのは単色の閃光が五本。

 それを受けてこちらは結晶板を周囲に展開する。

 防御と反撃の役割を担うそれらは五本の閃光を受けて、そのまま弾き返す。

 閃光は軌道を遡り、撃ち手のことごとくを撃ち落とした。


「まずは五体」


 錐揉みに落ちていく機体を五つ確認し、止まることなく群れへと突っ込んだ。

 透明の宝石刀は機械鳥の電磁バリアの魔力を吸い取り、紫紺刀へと染め上がる。

 雷の性質を宿した一閃は、苦もなく銀色の装甲を斬り裂いた。

 続けざま、幾度となく刀を振るうことで進行方向にいるすべての機械鳥を両断する。

 そうして突き抜けた後に翻れば、破片となった銀色が雨のように落ちていくのが見て取れた。


「次にたくさんっと」


 思っていたよりもたくさん撃墜できた。

 そのことにほっと安堵したのも束の間。

 機械鳥は群れで固まるのを止め、広範囲に拡散する。

 先ほどのような一網打尽はこれで不可能となった。


「ここからが本番だな」


 機械鳥たちは俺の周囲を取り囲み、嘴を大きく開いて多色に輝き始める。

 それは口腔の砲門から多色を複合した閃光を放つための予備動作。

 リーゼ曰く、虹霓砲こうげいほうというらしい。

 虹霓砲は結晶板で跳ね返せない。

 四方結界で受けるにしても自分の身動きが取れなくなる。

 だからこそ、俺は背負った両翼を目一杯広げてみせた。


「ヒポグリフの独壇場だ」


 三百六十度、全方位から虹霓砲が放たれる。

 その刹那、魔力の羽根が舞う。

 虹霓砲はそのいずれも俺を射抜くことは叶わなかった。

 カーバンクルのように予測不可能な乱反射をする訳でもない。

 その素直すぎる軌道は予備動作の時点である程度見切ることができる。

 いかに虹霓砲の弾速が速くとも、ヒポグリフ・フェザーが避けられない道理はない。


「また一つ!」


 虹霓砲の射線を縫って飛翔し、また一体の機械鳥を撃墜する。

 火花を散らし、煙を上げて墜落する。

 その様を横目でちらりと確認し、次の標的に意識を向けた。

 機械鳥はまだまだたくさんいる。

 最後の一体に操雷を突き立てるまで気は抜けない。


「次だっ!」


 標的を定めて両の翼で虚空を掻く。

 莫大な推進力を経て加速し、標的とした機械鳥に斬り掛かった。

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