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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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対策の会議


「まずは一度、説明も兼ねて情報の整理をしましょうか」


 そう言ったリーゼは懐から円盤のような装置を取り出した。

 それをこんこんと二回ほど軽く叩き、テーブルの中央へと滑らせる。

 すると波紋が広がるように光が溢れ、立体映像が浮かび上がった。


「これは……地形データか」

「その通り。この大規模空間の地形を表示しているの」


 起伏のある荒野に山岳地帯。

 ダンジョンの中に山があるというのも不思議な感じがした。

 まぁ、エルフの里には同じくらい大きな大樹が聳え立っていたが。


「ここが私たちの街よ」


 立体映像に触れて魔力が流される。

 リーゼの意思を反映したように街から光の柱が立った。


「サンダーバードと最初に遭遇したのが、ここ」


 街からすこし離れた位置に光の柱が立つ。

 そこには破壊されたと思しき街の残骸があった。


「ここは遺物の発掘拠点だったところよ。掘り出された遺物をごっそり奪われて、この拠点は壊滅したわ。そして、サンダーバードは同じ事を繰り返した」


 更に魔力が流され、次々に光の柱が立つ。

 数にして十箇所以上にもなる。


「当然、先代の警備兵たちは懸命に戦ったわ。時にはサンダーバードを撃退したこともあった。けれど、命知らずの機械兵と数の暴力をまえに仕留めることは叶わなかった」


 文字通り、恐れを知らない兵士たちだ。

 維持費が掛からず、士気の概念がなく、なにより数が多い。

 いくら屈強な肉体を持つドワーフでも相手が悪い。


「そして最後にサンダーバードが確認された場所がここよ」


 そうしてまた新たに光の柱が立つ。

 青色をした目立つものだ。


「この地での戦いに私たちは勝利しているわ。とどめは刺せなかったけれど、痛手を与えることはできた。これ以降、サンダーバードは鳴りを潜めて姿が見えないの。もう一年になるわ」

「一年か」


 痛手というリーゼの言葉から読み取るに完治する類いの負傷だろう。

 傷を癒やす時間にしては長すぎるような気もするな。

 なら、痛い目を見て姿を隠すようになったのか?

 その可能性は十分にありえる。

 そもそもサンダーバードは自らが戦わなくてもいい。

 機械兵が狩りを行うのだから危険を冒す必要なんてないんだ。

 そうなるとまず隠れたサンダーバードをまず探し出さないと。


「居場所に心当たりは?」

「だいたいの見当はついてるわ」


 そうしてまた光の柱が立つ。

 今度はサンダーバードの体色である紫色だ。


「この山岳地帯のどこかにいる。家畜を襲った機械兵が撤退するとき、必ずこの方角に向かうもの。まず間違いないはずよ」

「そうか……でも、遠いな」


 紫色の光の柱が立った山岳地帯は街からかなり離れている。

 居場所を掴みながら攻めあぐねているのは、こういう事情があるからか。

 街の防衛のこともあるし、戦力をどう割くべきかも難しいところだ。


「そう、遠いわ。だからこそ、私たちはサンダーバードに奪われた、この拠点を奪還しなくてはならないの」


 また新しく光の柱が立つ。色は赤。

 そこは街と山岳地帯との中間地点にある廃墟と化した拠点だった。


「名前はイーエス。三十年ほどまえに奪われてしまった発掘拠点よ。いまでは遺物たちが我が物顔で占領しているわ。観察したところ狩りもしていないようだし、私たちを近づけさせないようにするために占領していると見ていいわ」

「なるほど、筋が通るな」


 サンダーバードが潜伏する地点が山岳地帯だと仮定して。

 このイーエスをサンダーバードが占拠するのは理に叶っている。

 ここが抑えられているせいでドワーフたちは攻めあぐねているからだ。

 これが意図的な占領ならサンダーバードは思ったよりも狡猾だ。

 だからこそ奪還した場合の利益は大きい。

 イーエスは山岳地帯へと攻め入る要になる。


「イーエス奪還は俺たちがこの一年で数回ほど試みた。だが、結果は見ての通りだ」


 仏頂面で腕組みをしたラシルドは低い声で言葉を紡ぐ。


「まずイーエスを占領している遺物たちがほかより段違いに強い。機械兵なんて比べものにならないくらいの強個体だ。俺たちの装備じゃ倒すのに時間が掛かりすぎる」


 加えて、とラシルドは続ける。


「奴らの中には飛行型の遺物もいる。ただでさえ厄介な遺物を相手してるのに、上空からもろとも爆撃されちまう。まともに戦えたものじゃあない」


 頑強で強い遺物と戦いながら上空からの爆撃に晒される。

 考えうる限り最悪の戦況だ。

 まともに戦えばまず勝ち目はない。


「そこでだ」


 ラシルドは俺を見据える。


「この飛行型の相手をお前さんに頼みたい」


 飛行型の遺物を俺が対処する。

 重要な役割だが、適任者はほかにいないだろう。

 ドワーフは空を飛べない。


「ラシルドさん。一つ、いいですかい」

「なんだ? クルシド」


 クルシドと呼ばれたドワーフが手を下ろしながら口を開く。


「飛行型の対処は作戦の成否に関わることです。ラシルドさんを疑う訳じゃあありませんが、本当に任せて大丈夫なんですかい?」

「お前の言うことはもっともだ。信用にたる者か、実力のある者か、疑問に思う者は多いだろう」


 会議室は静まり返る。

 沈黙は肯定の証だ。

 みんな俺の存在を疑問に思っている。


「だが、心配はいらない。俺は一晩寝食を共にした。トオルは魔物だがいい奴だ。それにこの場にいる誰よりもトオルは強い。それらは昨日、トオル自身が証明したはずだ」


 昨日の一件。

 牧場での出来事が情報として耳に入っているのか。

 異を唱える者はいなかった。

 沈黙。

 沈黙は肯定の証。


「改めて聞く。トオル、お前さんに飛行型の相手を頼めるか?」


 俺の返答は決まっていた。


「あぁ、任せてくれ。必ず役目を果たす」

「そう言ってくれると思ってたぜ、トオル!」


 ラシルドは満足そうにニッと笑った。


「制空権は俺が責任を持って取り戻す。でも、その代わり地上には一切の手が出せなくなるぞ。イーエスの遺物は強いんだろ? それでも大丈夫なのか?」


 飛行型の数にもよるが恐らく戦いは長引く。

 俺には空中戦の経験がほとんどないからだ。

 地上に気を配る余裕もなくなるだろう。

 機械竜といった厄介な遺物が大量に出てきた場合。

 ドワーフたちに打つ手はあるのだろうか。


「その心配はないわ!」


 そんな不安を払拭するようにリーゼは立ち上がる。

 立ち上がりはしたが、小柄なのでテーブルにほぼすべてが隠れてしまう。

 一瞬、微妙な空気が流れた。

 けれど、それを気にした様子もなくリーゼはイスの上に立つ。


「みんなには前々から話していたけれど。先日、新しい武器が完成したの!」


 リーゼは細長い何かを手に持ち、それを覆っていた布を剥ぐ。

 そうして姿を現したのは紫色に輝く穂先を持つ、一本の槍だった。

 あとのお楽しみとは、これのことだったのか。


「名付けて操雷槍そうらいそう! この槍の穂先にある刃には私が組み上げた術式が刻んであるわ。発動条件は穂先で対象の遺物を貫くこと!」

「貫いたら、どうなるんだ?」


 そう問うと、待ってましたとばかりにリーゼは答えた。


「術式から雷の魔力が放出されて回路を浸食し、それが指揮系統まで達することで活動を完全に停止させることができるわ!」


 その説明にこの場にいた誰もが驚嘆の声を上げた。


「まだ驚くのは早いわ。この操雷槍の真価はここからよ!」


 そうして畳み掛けるようにリーゼは告げる。


「活動停止後、雷の魔力が沈黙した指揮系統を掌握することで術者――つまり私の支配下におくことができるのよ!」

「……つまり」

「サンダーバードから遺物を取り返せるってこと!」


 その一言を聞いて会議室が沸き立った。


「話は聞いていたが本当に完成させるなんて!」

「なんてことだっ! これでようやく悪夢が終わるぞ!」

「ラシルドさん! あんたの娘はすごい人だ!」

「がっはっは! そうだろう、そうだろう!」


 当然の反応だ。

 サンダーバードの討伐が五十年の時を経て現実味を帯びたのだから。


「凄いな。俺なんてもう必要ないんじゃないか?」


 思わず、そんなことを口走ってしまう。


「なに言ってるのよ。術式の最小化はここまでが限界だった。銃弾にして撃ち出すこともできないから飛行型の遺物には無力なのよ。でも、あなたが現れてくれた」


 イスの上に立ち、俺を見下ろしながらリーゼは言う。


「あなたが要であることに変わりはないわ。それを忘れないで」

「……あぁ、そうだな」


 制空権を取り返せなければ撤退するしかなくなる。

 俺が気を抜いていい訳がないんだ。

 しっかりしないとな。


「頑張るよ、俺」

「えぇ。お姉さんも頑張るから、一緒にサンダーバードを倒しましょ」


 そうして対策会議は終わりを迎える。


「司令官の許可が下り次第、俺たちはイーエス奪還に向かう! お前ら、気を引き締めておけよ!」

「おう!」


 この場にいる全員が席を立ち、決意を新たにした。

 五十年間、燻っていた反撃の狼煙がもうすぐ上がろうとしている。

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