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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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愉快な歓迎


 直ぐさま振り返る。

 再起動した機械竜は大口を開け、大口径の大砲をこちらに向けていた。

 その砲門はすでに虹色に輝いている。


「――」


 すぐに飛翔して回避しようとした寸前のところで踏み止まる。

 機械竜が砲門を向けた先には牧場があり、街がある。

 俺がここで躱せば閃光が街を貫いてしまう。


「くそっ」


 今からじゃ破壊も間に合わない。

 一瞬にして思考は巡り、ままならない頭で判断を下す。

 無詠唱での二天城壁。

 それが迫り上がった直後、砲門から眩いほどの閃光が放たれた。


「ぐっ……」


 虹の閃光を受けた二天城壁にすぐさま亀裂が走る。

 いくら魔力を注いでも修復が追いつかない。

 無詠唱では受けきれない。


「包囲……構築……」


 二天城壁の維持に必死になりながら詠唱する。


「展開……始動……」


 光の線が走る。


「四方結界っ」


 迫り上がる完全詠唱の光の壁が外界から俺を隔離する。

 砕け散った二天城壁の代わりをなすように閃光を受け止めた。


「……これ、でも」


 七色の閃光が四方結界に亀裂を走らせる。

 威力だけで言えばカーバンクルのそれ以上。

 だが、これだけの高威力を壊れかけた機体で出力し続けている。

 機械竜のほうもオーバーヒートやオーバーフローは必至。

 その証拠に各所が爆ぜて回路が焼き切れている。


「魔力……が……」


 結界の修復と維持に蓄えた魔力がごっそりと持って行かれる。

 この消費速度だと長くは持たない。

 機械が自滅して壊れるまで果たして魔力が持つだろうか。


「機械と根比べなんて……冗談じゃないっ」


 そう悪態をついても閃光は放たれ続けている。

 結界を解くわけにもいかず、魔力は湯水の如く消費されていく。

 このまま耐え続けるしかないのか。

 そう魔力が底を尽きるのを覚悟した、そのとき。


「よく持ちこたえた! お前さんはヒーローだぜ!」


 声が響き、同時に酷く鈍い音が轟く。

 その瞬間、視界を埋め尽くしていた虹色の閃光が掻き消える。

 そうして改めて見えた機械竜は完全に活動を停止していた。

 その頭部には深々と大斧が食い込んでいる。


「これは……」


 あの斧には見覚えがあった。


「俺は見たぜ。お前さんが街を守ってくれたのを」


 ラシルドは機械竜から斧を引き抜いて肩に担ぐ。

 どうやらたった今、到着して助けてくれたみたいだ。


「……そんなんじゃないさ」


 四方結界を解く。


「仕留め損なって反撃を許しただけだ。自分の尻拭いを自分でしただけだよ」

「だとしても、厄介なそいつをたった一人で相手してくれた。お陰で機械兵どもを壊滅できたんだ」


 ラシルドは牧場へと視線を向けた。

 それに釣られて俺もそちらを見やる。

 視界には勝ち鬨を上げる警備兵とラシルドの部下たちがいた。

 機械兵のほぼすべては残骸と化している。


「街を守ったことに変わりはねぇ。そうだろ?」


 まぁ、広い意味で言えば。


「そう……かもな」


 みんなで街を守った。


「あとは穴を塞ぐだけだ」

「穴?」

「機械兵どもが掘り進んだ穴だよ」


 機械が掘り進めた穴。

 そうか。

 この城郭都市にどうやって機械兵が入り込んだのか。

 答えは地下からだ。

 いかに堅牢な城壁だろうと地下からの侵略には無力だ。


「まぁ、そいつは専門の奴らに任せるさ。それより……」


 ラシルドは視線をまた別の方向へと向ける。

 その先には細かな装飾が施された鎧を身に纏う、一人のドワーフがいた。


「いまのを見たでしょう、司令官殿」


 司令官。

 ラシルドの更に上の人物か。


「こいつは命懸けで街を守った。信用に値するとは思いませんか」

「……」


 司令官のドワーフは数秒ほど沈黙して言葉を発する。


「スケルトンよ。貴公の尽力に感謝する。よって特別に街の一部と警備兵団隊舎の出入りを許す。この話は関係者以外に口外無用だ」


 そう言って司令官のドワーフは去って行った。


「つまり?」

「目立たないようにするなら街にいてもいいってこった」

「なるほど」


 この街の住民に気取られないようにしていれば街の出入りを許す。

 俺が魔物であることを考えれば最大限の譲歩と言える。

 いまの俺はエルフの時のように重要人物という訳でもないしな。


「よーし、そうと決まれば歓迎会だ!」


 そう言ってラシルドはまた俺の肩に手を回す。


「俺の家にこい! 飛びっきり美味い飯を食わせてやるぞ!」


 そのまま連れ去られるように連行される。

 拒否権はなさそうだった。

 というか、俺がスケルトンだって忘れてないか? この人。

 ご飯を用意してくれるとか言っているけれど。

 飯が食えるかどうかの確認すら、されていないんだけれど。


「――さぁ、喰ってくれ!」


 ラシルドの自宅にて。

 何人かの部下たちや警備兵たちとともに食卓につく。

 目の前に並ぶ料理の数々は、どれもこれも美味しいそうなものばかり。

 そして山のように量が多い。

 よく食べよく育つを体現しているようだった。


「いただきます」


 フォークを片手にちょうど目の前にあるサイコロステーキに目を付ける。

 四角いそれにフォークを刺して口へと運んだ。


「あ、うまいな」


 試練の森で食べた肉も美味かったが、このサイコロステーキもとても美味しい。

 自然の中で喰う肉とはまた別の美味しさがあって、心を豊かにしてくれる。

 最近、食事がちょっとした癒やしになってきた。


「それに……」


 なぜだか、変換される魔力の量が多い気がする。

 ドワーフの屈強な肉体を支えている食文化だからだろうか?

 食事だけでもある程度の魔力補充は叶いそうだ。

 ならと手当たり次第に料理を口へと運んでいく。


「おっ、いい食いっぷりだ! お前らも負けるんじゃねーぞ!」

「おうとも!」

「まだまだ喰うぜぇ!」


 歓迎会は盛り上がりを見せていた。


「もう! お父さん! 歓迎会を開くなら前もって連絡してっていつも言ってるのに!」


 そこへ更に追加の料理を持ったラシルドの娘が現れる。

 彼女の背丈は小さいものだが、その体格に似合わない力持ちだった。

 両手に一つずつ大きなトレイを持ち、その上には大量の料理がある。

 人間ならとても持ち上げられないような質量を彼女は軽々と支えていた。


「いやー、すまんすまん。」

「まったくもう」


 彼女は文句を言いつつ俺の側までくる。

 そうして精一杯、背伸びをした。

 そうすることでようやく視線が食卓の上にくる。


「よっ、ほっ」


 そうして食卓の上に料理をおいた。

 ドワーフの成人男性に合わせられたこのテーブルは、彼女にとって高すぎるみたいだ。


「ふー……それにしても」


 彼女の視線が俺へと向かう。


「不思議なものね。魔物がこうして私の家にいるなんて」


 小首を傾げていた。


「あなた、名前はなんていうの?」

「音無透だ。もと人間」

「へぇー」


 そう言いながら彼女は反対側まで回り込む。

 じっくりと観察するように。


「私はリーゼよ。ねぇ、歳はいくつ?」

「えーっと」


 コールドスリープ装置に入ったのがたしか。


「十七歳だな」


 そこに眠っていた四十八年を足すと六十五歳か。

 年金がもらえる歳だな、もう。


「ふーん。じゃあ、私のほうがお姉さんね」


 リーゼは腰に手を当てて自慢気に胸を張った。

 本当は六十を過ぎていることは言わないでおこう。


「ねぇねぇ。あなた、どれが美味しかった?」

「うーん、そうだな」


 すこし悩んで答えを出す。


「やっぱり、このサイコロステーキかな」

「そう。じゃ、お姉さんが持ってきてあげるわね。待ってて」


 そう言ってリーゼは厨房へと駆けていった。


「兵長の娘さん、えらくトオルを気に入ったみたいですねぇ」

「あぁ、リーゼは昔から珍しいものが好きだったからなぁ。特に遺物とか訳のわからん物には目がなかったんだ。トオルはその点、謎だらけだからな! がっはっは!」


 そう言ってラシルドは酒を飲み、飯を食う。

 すでにほろ酔い状態だった。


「謎だらけ、ね」


 本当に自分でもそう思う。

 地球が異世界と繋がったことも。

 ダンジョンが生成されたことも。

 自分がスケルトンになったことも。

 謎だらけだ。

 けど、そんな中でも俺は希望を抱けている。

 それにこんなに愉快な歓迎会を開いてもらっているんだ。

 多少の謎くらいは吹き飛んでしまう。


「はーい、お待たせ!」

「ありがとう」


 背伸びをしたリーゼが俺の前にサイコロステーキを持ってきてくれる。

 それをフォークで刺し、立ち上る湯気ごと頬張った。


「うん、うまい」

「えへへー、そうでしょー」


 そうして歓迎会は夜遅くまで続いた。

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