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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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二種の魔力


「クアァアアアァァアアアアアッ!」


 ヒポグリフが吼える。

 自慢の翼を傷つけられて怒っているみたいだ。

 鷲の鉤爪が地面を抉り、無傷の片翼が大きく伸びる。

 飛翔のためではないことはすぐにわかった。

 その片翼に風が集い、一振りの鋭い大剣と化したからだ。


「そんな芸当まで……」


 密度の濃い風の魔力によってヒポグリフは新たな得物を手にした。

 翼の一振り。

 鎌鼬でも樹木を斬り倒す威力を秘めている。

 その風の魔力が束ねられたあの翼がどれだけの威力を誇るのか見当もつかない。

 サラマンダー・シェルでも防御し切れないかも知れない。


「クアァアアァアアアアアアッ!」


 咆吼を放ち、ヒポグリフが地面を蹴る。

 それに合わせてこちらも紅蓮刀から炎刃を放つ。

 縦の軌道から放たれたそれはヒポグリフを正面から襲う。

 しかし、それはサイドステップによって簡単に軸をズラされた。

 炎刃の向かう先にあるのはヒポグリフ本体ではなく、風を纏う片翼だ。

 接触する炎と風の魔力。

 その翼の一振りは相性の悪い炎に一歩も引かず、むしろ暴風をもって押し返す。

 鷲の鉤爪が地面を捕らえ、馬の蹄が地表を抉る。

 瞬間、炎刃は真っ二つに断ち斬られた。


「くっ――」


 炎の熱によって風の流れに乱れが生じる。

 だから紅蓮刀は鎌鼬をたやすく断ち切れた。

 けれど、高密度の魔力のまえではそれも覆る。

 炎の魔力が水の魔力を制し、水の魔力が雷の魔力を制したように。

 風の魔力もまた炎の魔力を制した。

 もちろん限定的な話ではあるがその脅威は計り知れない。


「くそっ」


 翼の一振りが迫る。

 ヒポグリフが地上で弾き出す機動力は思っていたよりも随分はやい。

 炎刃が破られるのを見てすぐ回避行動を取ったが、一瞬の間を置いて翼の一振りが頭上を過ぎた。

 判断があとすこしでも遅れていたら身体を断ち斬られていた。


「なんて奴だよ、まったく!」


 転がるように回避し、すぐに体勢を整える。

 ヒポグリフはと言えば、鷲の鉤爪で地面に楔を打っていた。

 それを軸として駆け抜けた勢いのままに反転してみせる。

 器用な真似をする。

 悠長にUターンなんてしてくれないか。


「右側……右側に注意すれば」


 ヒポグリフは右翼しか生きてない。

 左翼は負傷で動かない。

 回避をするなら左側がもっとも安全。


「クアァアァアアァアァアァァアアアァアアアアッ」


 再び翼の一振りを携えてヒポグリフが駆ける。

 今度はまだ炎刃を使わない。

 そうしたところで同じ結末になる。

 使うなら回避した直後。


「――」


 自らも駆け出し、正面から肉薄する。

 回避に合わせてサイドステップをしてくるなら、そのまま本体を斬りつけてやる。

 そうヒポグリフの行動を予測しつつ、互いの間合いに踏み込み合う。

 瞬間、左側へと跳ぶ。

 ヒポグリフは跳ばない。

 ただ駆け抜けるだけ。

 これなら反撃を胴体にぶつけられる。

 そう確信したのも束の間。


「なっ――」


 自身の視界にはいくつもの鎌鼬が映っていた。

 考えてみれば、それもそうだ。

 魔物とはいえ彼らは馬鹿じゃない。

 生き抜くための術を本能で知っている。

 無防備な自身の左側に鎌鼬を配置することくらい訳ないんだ。


「くぅ――」


 数多の鎌鼬に晒される。

 幸いなことに下半身と右腕以外はサラマンダー・シェルだ。

 鎌鼬は炎の骨格の表面だけを引き裂いて過ぎる。

 大事にはいたらない。

 そのまま地面を転がり、なんとか体勢を立て直す。


「迂闊……だった」


 ヒポグリフが鎌鼬を操る以上、安全な回避路なんてない。

 上空に跳んでも鎌鼬は追尾してくるはずだ。

 やはり翼の一振りをどうにかしないことには勝機が掴めそうにない。

 だが、どうする。

 現状の最高火力は弓だ。

 それを今ここで使うには右腕のシーサーペント・スケイルを捨てなければならない。


「なんとか、ならないか」


 打開策を見つけ出そうと思考をフル回転させつつ、迫りくるヒポグリフを見据える。

 奴はすでに駆けだしていて、俺はそれを迎撃しなければならない。

 上半身をサラマンダー・シェルからシーサーペント・スケイルに変換。

 いくつもの水の激流が海の大蛇を象って牙を剥く。

 だが、それもヒポグリフの機動力のまえでは無力だ。

 躱しに躱され、すべてが翼の一振りで斬り裂かれていく。


「これなら」


 これで地面が濡れた。

 水分を含んだ地面にはジャックフロストの冷気がよく通る。


「どうだっ」


 群青刀を白銀に染め上げ、右腕以外をジャックフロスト・ボディに変換。

 その白銀のきっさきを濡れた地面に突き立てた。

 冷気の流れが地表を駆け抜ける。

 この空間の全域に広がったそれは斬り倒された木々を再現するように天へと伸びた。

 それはかつてジャックフロストの群れが造り上げた樹氷の森。

 聳え立つ氷の樹木がヒポグリフの視界に著しい制限をかけた。

 これでいくらか時間が稼げるはず。

 いまのうちに打開策を練らないと。


「クアァァァアアァアアアアアアッ!」


 突如として現れた樹氷に、ヒポグリフは翼の一振りを差し向ける。

 その一撃は樹氷をたやすく斬り倒すかに見えた。

 しかし、その予想は大きく外れることになる。


「――いま」


 結果的に樹氷は斬り倒された。

 だが、その過程が今までとはまったく違う。

 刃の進みが遅く、明らかに時間が掛かっている。

 なぜだ?

 奴の風はサラマンダー・シェルすら引き裂くほど鋭い。

 硬度で劣る魔氷の切断に時間がかかるはずがない。

 なのに、いまヒポグリフは魔氷に苦戦した。

 なぜだ?

 なにが違う?

 これまでとどう異なっている?


「――水」


 地面が濡れていた。

 それもただの水じゃない。

 魔力で創り出した水だ。

 それを材料として魔氷を生成したことで硬度が増した?

 だと、すれば。


「……賭けてみるか」


 身体の維持に必要な最低限を残して魔力を練り上げる。

 鋒を迫りくるヒポグリフへと向け、ありったけを注ぎ込む。

 刃の表裏に水と氷を。

 群青と白銀を。

 刀身を中心に二種の魔力が渦巻いて混ざり合う。

 魔力の混淆。

 その果てに成るのは。


「――複合特性、絶氷を会得しました」


 激流が凍てついて輪郭をもち、形作るのは氷の大蛇。

 氷牙を剥いて放れた一撃は冷気を纏いヒポグリフを迫る。


「クアァアアァアアアアアアッ!」


 咆吼を放ち、ヒポグリフは駆ける。

 翼の一振りを差し向け、氷牙に対抗した。

 氷蛇が翼に牙を突き立て、風の刃が絶氷を削る。

 互いの存亡を賭けた魔力のぶつかり合い。

 それは短い時をへて決着がつく。


「クッアァアアアッ!?」


 氷蛇が翼の一振りを食い千切る。

 鮮血とともに羽根が散り、胴から切り離された翼が凍り付く。

 そして、それは氷牙によって噛み砕かれた。

 これによってヒポグリフの翼は両翼ともに完全に機能を停止する。

 しかし。


「――ァァアァアアアアアァァァアアアッ!」


 翼を食い千切られてもヒポグリフは前進を止めない。

 片翼を失い体幹が崩れ、夥しい量の血液を流そうとも、その目は死なない。

 より鋭く殺意を映し、その四肢で地面を蹴る。

 その速度、その執念を前にして反応が一手遅れた。


「――」


 回避。

 その言葉が脳裏に過ぎり、身体に伝達される頃にはもう遅い。

 ヒポグリフの鉤爪が左腕を掴み、俺を強引に押し倒す。

 押さえつけられ、身動きを封じられた。


「クアァアアアアアァアァァアァアアアアアアァァアアッ!」


 鉤爪が振り上げられる。

 太陽石の光を受けて、ギラリと光る。


「くそ」


 もう魔力がない。

 打つ手がない。

 鉤爪が虚空を引き裂いて、この頭蓋を砕こうと落ちる。


「――拘束、構築、展開、始動」


 その刹那、それを阻むものが現れる。


鋼糸縛鎖こうしばくさ


 どこからともなく現れた鎖。

 それが鉤爪を捕らえ、ヒポグリフの動きを拘束する。

 この命は繋ぎ止められた。


「借りは返した」


 すべてが静止する中で、その言葉だけが響く。

 その一言で現状を理解するには十分だった。


「やっておくもんだな」


 打ち砕かれた骨片の一つ一つを魔力で接続する。

 繋ぎ、引き寄せ、組み上げる。

 すべての骨片が噛み合い、右腕はこの一瞬だけ復活した。

 それだけあれば事足りる。


「人助けって奴は!」


 突き放つのは一点突破の貫手ぬきて

 鱗を纏う一閃がヒポグリフの喉を貫いた。


「グッ……ァア……ア……」


 その一撃が致命傷となり、その目から生気が失せていく。

 瞳に死が色濃く映るころには魔法の鎖も掻き消えた。

 ヒポグリフは力なく崩れ落ちて俺に覆い被さる。

 下敷きになった俺は喉から右腕を引き抜いて脱出した。


「探求者たちは……」


 立ち上がって周囲を見渡して見る。

 けれど、探求者たちの姿は見当たらない。

 すでにこの場をあとにしているみたいだ。


「貸し借りなし……次に会ったら気持ちよく敵同士ってわけか」


 難儀な性格をした探求者たちだ。

 通すべき筋や義理なんて彼らにはないだろうに。

 探求者としての使命を一時だけでも忘れて、俺に借りを返してくれた。

 だからこそ次に会うときは用心しなければ。

 次もかならず彼らは全力で俺を殺しにくる。


「殺されないためにも」


 仕留めたヒポグリフへと目を向ける。

 その喉の傷口から左手をやって骨を掴んだ。

 そしてスケルトンの特性である混淆を発動する。


「くっ、うぅ……」


 すぐさま変異の兆候が現れて、風の魔力が全身を駆け巡る。

 骨が軋み、変形し、人体にはない二翼を背負う。

 そうして変異は完了し、俺は新たな特性を得た。


「――ヒポグリフ・スケルトンに変異しました」


 いまの俺なら空だって自由に飛べる。

皆様のおかげでポイントが一万を越えました。

本当にありがとうございます。

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新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
― 新着の感想 ―
[良い点] 一足飛びに強くならない成長の王道 [気になる点] グリフォンは上級なの……か? だからヒポグリフだったのかだろうか? [一言] きっと今は〜 自由に〜 空も飛べるはず〜♪
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