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反魂のネクロ ~スケルトンになった少年、魔物の遺骨を取り込んで最弱から最強へと成り上がる~  作者: 手羽先すずめ


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片翼の墜落


 鉤爪に打ち砕かれた右腕がだらりと下がる。

 シーサーペント・スケイルの内側で骨の破片が泳いでいる。

 風を受けて大きく揺れていた。

 右腕はすでに手としての機能を果たせていない。


「――くそッ」


 地面はすでに遠い。

 下を見れば木々の枝葉が絨毯のように敷き詰められていた。

 つい先ほどまで見上げていた天井を見下ろしている。

 すでにかなり上昇していて、地表ははるか下にあった。

 このままでは不味い。

 腕に食い込んだこの鉤爪をどうにかしなくては。


「このッ!」


 自由の利く左腕に魔力を込め、群青刀を構築する。

 それをヒポグリフの腹に突き立てようと試みた。

 しかし、その魔力の高まりはヒポグリフにも感知できる。

 刀を薙いだ直後に鉤爪が外れ、刃は虚空だけを斬った。

 そして俺自身は地面へと突き落とされる。


「ぐえっ」


 枝葉をいくつもへし折って地面に叩き付けられる。

 幸いにも柔らかい土の地面だ。

 岩壁に叩き付けられるよりはるかに衝撃が小さい。

 抜けきらない衝撃に頭を振るい、立ち上がる。


「あいつ、どこに」


 周囲を見渡しても木々に遮られて視界が確保できない。

 ヒポグリフを見失ってしまった。

 まだ周辺にいるのか? それとも探求者たちのところへ戻ったか?

 もともとヒポグリフの狙いは弱った朽金だった。

 邪魔な俺を遠くへと捨てて戻ったかも知れない。

 そうなればあの六人が危ない。

 早急に戻らないと。

 そこまで思考がいたり、両の足をコボルトのそれに変えた。

 いそいで走り出そうと力を込めたその時、それが杞憂に終わることを知る。


「クアァアアアアァァアアアアッ!」


 ヒポグリフの咆吼が轟いたからだ。

 それは木々の枝葉を揺らし、風のように駆け抜けていく。

 そして枝葉の天井を突き抜けて、鋭い風の刃が降り注いだ。


「――」


 天から降る鎌鼬。

 それは木々をたやすく斬り倒すほどの威力を誇る。

 鋭い風が数多の木々を伐採し、その幹は風に煽られて吹き飛んでいく。

 その最中をコボルトの脚力を駆使してどうにか躱しきる。

 あとに残ったのは切り株だらけの開けた空間のみ。


「野郎……」


 この無差別な鎌鼬の乱舞は俺を仕留めるためのものじゃない。

 突き落とした俺を見つけるためのもの。

 数多の木々が斬り倒されて吹き飛び、俺の周囲は随分と見晴らしがよくなっている。

 それが奴の狙い。

 そして、そのヒポグリフと目が合う。

 上空にて滞空している奴は確実に標的を俺へと変えていた。


「そんなに俺の魔力が喰いたいのか? ヒポグリフ」


 独り言のように呟いたそれは恐らく正解だ。

 数多の魔物と混淆し、あらゆる魔力を喰らってきた。

 俺が身に宿す潜在魔力は、ほかの魔物から見ても魅力的に映るだろう。

 それこそ弱った人間なんて無視してもいい程度には。


「……どうしたもんかな」


 右腕は砕けて使い物にならない。

 治すにしてもそれなりの魔力と時間が掛かるだろう。

 かつてのコボルトの手のように使い捨てにすることも可能だが得策じゃない。

 捨てたが最後。

 この腕はもう二度とシーサーペント・スケイルを纏えない。

 それだけで戦術の幅が狭まる。

 対応策が減る。

 今後を考えるなら、それは出来るだけ避けたい。

 やるにしても最終手段だ。


「クアァァアアアァアアアアアアッ!」


 ヒポグリフが上空で吼える。

 それに伴い繰り出されるのは無数の鎌鼬。

 今度のそれは大雑把な伐採のためのものではない。

 確実に俺の命を取りにくる精度の高い攻撃だ。


「くそったれが」


 いい案は浮かばず、砕けた右腕以外をサラマンダー・シェルに変換する。

 同時に群青刀を紅蓮に染め上げて迫りくる鎌鼬を斬り裂いた。


「とりあえず、これなら」


 紅蓮刀の熱が鎌鼬を狂わせる。

 断ち斬るのはたやすい。

 しかし所詮はその場しのぎでしかない。


「……切りがないな」


 ヒポグリフは相変わらず上空から鎌鼬を放っている。

 ただそれだけをして降りて来ようとはしない。

 当然だ。

 高所から攻撃をするだけで優位が保たれている。

 そんな中で相手と同じ土俵にまで降りてくるはずもない。


「どうにかして撃ち落とさないと」


 右腕が機能不全を起こしている以上、弓を引くことができない。

 有効な遠距離攻撃の手段は限られている。

 弓がダメなら残るのは一つだ。


「――」


 迫りくる鎌鼬を斬り裂いて、すぐさま刀身を翻す。

 二の太刀で放つのは炎刃。

 炎の刃は降り注ぐ鎌鼬を斬り裂いて飛翔し、ヒポグリフへと肉薄した。

 だが。


「ダメか」


 陸上と空中において優れた機動力を有するヒポグリフ。

 そんな魔物を相手に地上からの攻撃などまず当たらない。

 軽々と躱されてしまい、また上空から鎌鼬が降る。

 ヒポグリフは自らの意思で降りてくることは決してない。


「不味いな……」


 互いに決めてに欠けているが不利なのは俺のほうだ。

 先の一戦で魔力を消耗して万全な状態じゃない。

 このまま戦闘が長引けばいずれ魔力が枯渇してしまう。

 そうなったら良いエサだ。

 撤退を選択肢に入れておこうか?

 ヒポグリフがそれを許してくれるとは思えないが。


「どうする……」


 次々に落ちてくる鎌鼬を捌きながら思考は巡る。

 じりじりと内包する魔力が減っていく中で焦りを覚えながらも考える。

 そうしていると、ふと周囲の木々に目がいった。

 まだ斬り倒されていない背の高い樹木。

 その全長はちょうどヒポグリフが滞空している高度と同じくらい。


「――あれならっ」


 鎌鼬を紅蓮刀で斬り裂き、両の足をコボルトのそれに変換する。

 同時に、樹木に向けて走り出した。

 コボルトの両足が足跡を刻み、それを断つように鎌鼬が落ちる。

 だが決して追いつかれることなく、むしろ振り切って樹木へとたどり着く。


「斬り倒される前にっ」


 コボルトの両足に魔力を込めて脚力を更に強化。

 木の幹を蹴って跳び上がり、その先にある樹木を更に蹴って高く跳ぶ。

 これを高速で繰り返すことによって高速で駆け上がる。

 そうしてヒポグリフが滞空する高度にまで到達した。


「これならどうだっ!」


 樹皮を踏み砕くほど強く蹴って跳躍し、直後に樹木が切り倒される。

 ヒポグリフはすでに目と鼻の先。

 紅蓮刀に魔力を込めて燃やし、赤い一閃を描く。

 至近距離からの強襲。

 ヒポグリフはそれでも回避を試みたが炎刃からは逃れ切れない。


「クアァアアアアッ!?」


 躱し切れずにその片翼に炎が掠める。

 それだけで十二分。

 羽根が焼け焦げ、翼が傷付き、ヒポグリフは飛翔能力を失った。


「追撃を――」


 落ちていくヒポグリフは無防備だ。

 今ならたやすく追撃が通る。

 そう判断して紅蓮刀を振り上げた。

 紅蓮の刀身に魔力を注いで炎刃を放つ。

 その直前。


「くっ――」


 自身の周囲に数多の鎌鼬が展開されていることに気がつく。

 それは落ちて行くヒポグリフがあらかじめ設置していたもの。

 ただで落ちることなく、きっちりと反撃を準備していた。


「しようがない」


 追撃の好機を棒にふり、身を守ることを優先する。

 全方位からの鎌鼬に回避のすべはない。

 だから、こちらも全方位に向けて攻撃を放つことにした。

 繰り出すのは連鎖する爆発。

 サラマンダー・シェルから火炎が連鎖的に爆ぜる。

 その爆風はこの身に迫るすべての鎌鼬を無効化して打ち消した。


「――っと」


 自由落下の末に地面に降り立つ。

 視線を正面へと持ち上げるとヒポグリフの姿が映る。

 ちょうどその巨体を立て直し、こちらを鋭い目で睨み付けた。

 片翼は焼き焦げていて再びの飛翔は不可能だ。

 互いに手負いの状態になった。

 片腕を砕かれ、片翼を燃やされている。

 ここからは地上戦、この負傷がどう影響するかは戦ってみるまでわからない。

 まだまだ油断はならない。


「ここからは第二ラウンドだな」


 紅蓮刀を握り直した。

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