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深層世界  作者: NAAA
第三章 
42/65

12

「あーあ、もうあれが何か分かっちゃったのかな」


 ヤマツカミはそう言って聖堂の入り口から奥に掲げられている地球の形をしたモニュメントの方へ歩いていく。


「クレイオが倒されて、ヘラクレスも自分の役割を果たした。ゴーじいも何か掴んでいるようだし……。そうなると次はイシスになるのかな? ね、イシス」


 地球の形をしたモニュメントの真下に控えていた銀髪の女に向かってヤマツカミは話しかける。


「そう、なりますね……」

「じゃあ世界の反逆者達、そういうことだから今度はイシスを追いかけてきてね! こんな美人を追いかけられるなんて君達も嬉しいでしょ? しかもイシスと僕、そしてゴーじいには戦う力はないからずっと楽になると思うよ。……じゃあ行こうか、イシス」

「ええ……」


 二人はその言葉を最後に消えてしまった。しばらくの間放心状態となるが、色々と確認しなければならないことがある。


「まっちゃん、シコウ、アル……あれが何か分かるか?」

「ああ……思い出した……」


 まっちゃんがそう答える。シコウとアルに目をやると首を縦にふって頷いており、それが何かを理解しているようだ。


「マリア……マリアはあの青い球状のモニュメントが何か分かるか?」

「え……あれに何か意味があるのですか? 綺麗だな、とは思いますけど……」


 マリアにも確認をしてみたがどうやら彼女にはそれが地球であるとは分からないらしい。やはり彼女は俺達とは違い、未だ曖昧な記憶を隠されている。“指導者”と呼ばれていたことは気にかかるが、これ以上俺達に関わらない方がいいだろう……。


「なあ、俺は他にも少しだけど思い出したことがあるんだ。以前働いていた工場の上司に俺はずっと前に会っていたこたがある……。皆にもそういうことはないか?」

「ああ、俺も思い出したことがある。俺は剣道と呼ばれるスポーツをしていた。何かの大会で優勝した時のことを思い出した……。だけど……だけど! 今回も俺がずっと探し求めている家族については何も思い出せなかった!」


 悔し気に叫ぶまっちゃんをみて俺はまた考え込んでしまう。まっちゃんが剣道をしていたと聞いて俺はまっちゃんが剣を振るう姿に既視感を覚えたことに納得した。俺はまっちゃんが出場した剣道の大会を応援しにいったことがあることを思い出したからだ。まっちゃんの剣使いが妙に手慣れたものだったのにも頷ける。しかしまっちゃんが戦い続ける最大の理由……一番知りたいと思っている家族については何も思い出せてはいないようだ。


「俺も思い出したことがある。どうやら俺には妻がいたようだ……。今は顔も名前も思い出せるがなぜこんなことを今まで忘れていたのか……」

「えっ! 妻って……シコウって結婚してたの!?」


 シコウの衝撃のカミングアウトに驚いて俺は叫んでしまう。


「ああ……そして記憶の中の俺はもう少し老けていたな……。30くらいだったはずだ。それに妻は若くして病気で亡くなっていた。そういったことを思い出したんだ……」


 なるほど、シコウは辛い記憶を思い出したようだ。しかも記憶の中では30歳くらいだったという。今のシコウの見た目は24歳くらいで、記憶の姿と嚙み合っていない。となるとシコウの実年齢はいったい何歳なんだ? いや、それは俺達全てに言えるのかもしれない。現にこの世界では俺達の成長が止まるという通常では考えられない出来事が起こっている。こんな世界では自分の実年齢なんて分かったものじゃない。


「アルは? 何か自分の記憶について思い出したことあるか?」

「えっと……思い出したっていうか……。いや、僕は何も思い出していないよ……」


 アルに聞いてみると何とも歯切れの悪い返事が返ってきた。なぜアルだけ何も思い出すことができなかったんだろう? 俺達はクレイオが最期に放った光を見ることで記憶の一部を取り戻すことができたのに。アルは以前として不思議少年のままか……。


「……皆さんはいったい何の話をしているのですか? いったい何を、思い出したと言っているのですか?」


 マリアが困惑した声で聞いてくる。やはりマリアと俺達には目に見えない壁がある。マリアと約一週間の時を過ごしたことで、俺は彼女も世界に立ち向かう同士のように感じていたのかもしれない。だが、それは間違っていた。彼女の反応は今まで奴らに狙われた人と同じだ……。


「マリア……君には話すことができない……。それに俺達にはもう関わらない方がいい……」

「それってどういう……」


 俺は意図的にマリアの声を無視して、まっちゃんに呼びかける。


「まっちゃん、もう出発しないか? これ以上ここにいる意味はない……」

「それはそうだが……いいのか?」

「ああ、こうなるのは前から分かっていた」


 まっちゃんが珍しく俺を気づかってくる。それだけ俺が無理しているように見えたのだろう。


「も、もう行ってしまうのですか?」


 マリアの焦ったような声が俺の心を締め付ける。俺だって本当は……


「……もうエリア0に用はなくなったから……それにこれ以上君を……」

「……私も一緒に行くと言ったら?」


 マリアは少しもじもじとしながら俺に聞いてくる。いつもは大人びた印象の彼女がこの時だけは幼げに感じた。


「それは、認めることはできない……絶対に、だ」

「そう、ですか……」

「行こう、まっちゃん」

「あ、ああ……」


 これ以上話すとせっかく決意した気持ちがまた揺らぎそうだ。俺はマリアから目を外し、聖堂の入り口へと歩き始める。


「待って!」


 彼女の悲痛な叫び声に思わず振り向いてしまう。彼女は拳をギュッと握りしめて今にも泣きそうな顔をして立っていた。


「私、ずっと考えていたの……あなた達が何者なのかってことを……。結局それは今でも分からないけれど……」


 そこで言葉を切り、マリアは俯いてしまう。数秒そのままの恰好でマリアは肩を震わせていたが、振り絞るようにグッと顔をもう一度あげた。その顔は抑えきれなかった涙で濡れており、それを見てまた俺の心が締め付けられる。


「自分達がどういう存在かを示す言葉があった方がいいと思います。あなた達は正隆君によって集められた四人。だから正隆君の名前をとって“鷹の団”そう名乗ってはどうでしょうか? 私を救い、世界と戦うあなた達……。気高く孤高な鷹とあなた達はあっていると思うのだけど……」


 鷹の団……か。いいかもしれない。マリアのことだからきっと色々と考えてくれたのだろう。


「確かにこれからやっていく上で自分達を指す言葉があった方いいと思っていたんだ。自分達が何者かも言えないなんておかしな話だもんな。”鷹の団”ありがたく使わせてもらうよ」

「あなた達はたった四人で世界と戦っている……他の人達を少しでも傷付けないように……。でも……でも! あなた達四人でできることは限られています! もっと誰かの力を頼ってください……! それが私でなくても構わないから……!」


 マリアの言葉を聞き終え、俺は今度こそ聖堂から出るために歩きだす。俺が出て行こうとするのを見てまっちゃん、シコウ、アルも続く。


「あなた達のことは忘れませんっ! 何年たっても!!」


 マリアが俺達の背中に向かって最後にもう一度叫ぶ。マリア、君に会えて良かった……。けれど俺達と君では生きる時間が違う。君は年を重ねても俺は十八の姿のままだ……。時が経てばきっと俺達のことを……。


 聖堂の外に出ると、太陽の光が俺達を射すように照らしてきた。チラッと上を見上げその眩しさに思わず目を細める。後ろにいる少女を思い、立ち止まって後ろを振り返りたいという衝動に駆られたが何とか歩みを止めずに前に進む。


 クレイオを倒したことで俺達はまた少し真実に近づけた。小さな歩みではあるけれども、これからも立ち止まらず、振り返らず、また前に進んでいこう。一歩、一歩。


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