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車を走らせ、今回奴らが現れるであろう場所に向かう。奴らが現れる場所はブレスレッドが数週間前に一度本当におおまかな場所を教えてくれるらしい。例えばエリア1、エリア2といった風にだ。俺たちはそのエリアまで行き待機することになる。そして奴らが現れる数時間前にもっと具体的な場所を知らせる。これまでは公園、ビル、住宅街の一区画などだった。そこにいる全ての人が奴らに狙われる対象になるので、奴らが誰を狙っているかは実際に現れるまで特定できない。
20分ほど車を走らせると今回の奴らが現れる場所の近くに着いたらしい。まっちゃんが適当な場所に車を止め、ここからは歩いていく。もうすっかり夜と言える時間だったが、街灯が町を照らしていたため、暗いとは感じなかった。不意にまっちゃんが立ち止まり、そこにある建物をみる。そして少しびっくりしたような声音で言った。
「ここ……みたいだ」
その建物をみて俺も呆然としてしまう。いやはや、いったいどれだけのお金が……
「で、で、でっけー! ねえ、皆こんなの見たことある!? すご……グフッ……」
アルが興奮したように騒ぎ出したので、慌てて口を抑える。
「バ、バカ! 中の人にばれたらどうすんだ……。いやでも確かに、すごいな……」
まっちゃんとシコウも俺の言葉に頷いている。
今回奴らが現れる場所、それは今まで見たこともないような豪邸だった――――
※
いつまでも見惚れている訳にもいかない。この豪邸内にいる誰かが今夜奴らに狙われる。しかし、これだけの豪邸だと防犯もしっかりしてそうで侵入するの大変そうだな……。
「……アル。どうやってこの屋敷に入り込む?」
まっちゃんがぶっきらぼうにアルに聞いた。それにアルがとぼけたように答える。
「え? もちろんインターホンを押して宅急便でーすって……」
「冗談はいいから、早く答えろ!」
まっちゃんの気迫に押され慌ててアルが弁解する。こういう作戦を考えるのは毎回アルに任せている。いつもはちゃらんぽらんとした印象のアルだが、計画を練る能力や、空間把握能力、誰がどれだけの仕事をこなせるかといった状況把握能力がずば抜けて高い。
「まずこの高い塀を登ろう。普通の人はできないけど、僕達ならできるよね。……そうだなこういう屋敷には監視カメラがついてそうだけど……」
そう言ってアル高い塀をしげしげと見回す。
「うん、多分角のところから入れば問題ないね。そうと決まれば早く侵入しちゃおう!」
そう言うとアルはすでに塀をよじ登ろうとしていた。慌てて俺が引き戻す。
「ま、待て! なんでそんなこと分かるんだよ!?」
そういう尋ねるとアルは
「えっと……屋敷の構造と監視カメラが設置しやすい場所、泥棒が入り込もうとするルートを考えてみる。そういうところも危ないからね。あとは……」
「……あとは?」
おそるおそるといった風に俺が尋ねる。三年も付き合えば答えはもう知っていたが……。
「勘! これが一番大事かも!」
シコウが慰めるように俺に声をかけてくれる。
「諦めら、永志。こういう時は何も聞かずアルに任せるのが一番いい……」
確かにアルの考えは聞いても理解しきれないことが多々あるが……。豪邸に侵入するなど初めてのことだから、慎重に行動すべきだろうし……。
ああ、もう考えてもしょうがない! 行動あるのみだ!
「分かった! 分かったよ……。アルに従おう……」
俺はしぶしぶ納得し、もう既に半分ほどのところを登っているアルとまっちゃんに追いつこうとシコウと共に塀をよじ登っていった。
※
結果としてはやはりアルについて行って良かったようだ。広い敷地の中にはいくつもの監視カメラがあったがアルはことごとくそれを見つけ出し回避していった。番犬などもいたようだがうまく風下を通ることでやり過ごしたようだ。そうして何とか屋敷のふもとまで俺達四人は辿り着くことができたのだった。
「いやー、近くで見るとさらにでっかいね! で、これからどうするの、まっさん?」
アルが感心したように屋敷を見上げながらまっちゃんに尋ねる。
「この屋敷の中の誰かが狙われることは間違いないんだ。いざとなったら手段を選ばずに押し入るが、こっそり屋敷の中に入れるルートも見つけて置いた方がいい。お前は屋敷の周りを一周して侵入できるポイントを見つけてこい。俺と永志とシコウはここで待機だ」
確かに動き回るのなら、そういうことに長けているアル一人の方がいいだろう。俺とシコウは頷いて了解の意を示す。アルは「はいはーい、じゃあ行ってきまーす」と言ってから屋敷の周りをを調べるために移動を開始した。
十数分の間息を殺して待っていると早くも調べ終えたのか、アルが戻ってきた。得られた屋敷の情報を報告してくる。
「うーん、一階から入るのは難しいかも。多少無理すればできなくはないだろうけど……。でも、二階からなら簡単に入れそうだよ! 誰も二階から侵入してくるなんて思わないだろうからねー。僕達にはできるけどさ」
なるほど、確かにこの屋敷ほど大きいと二階の高さも相当なものになる。誰も二階から入れるとは思わないだろう。
「なるほど、じゃあ奴らの動きによってはばれないように二階から侵入しよう。方法はシコウが俺を投げる、でいいだろ。できるなシコウ?」
まっちゃんが馬鹿げたように思える方法を提案してきたが、実際俺達にはそれができる。ほんと、身体能力が上がるって便利!
「できなくはないと思うが……。少しはお前も跳んでくれよ、人を投げるって結構疲れるんだ……」
シコウは少し嫌そうにしながらも了承してくれた。それにしても実感がこもった言葉ですね、シコウさん。そういえば来る前に誰かを俺に向かって投げてましたもんねぇ……。
そんなことを考えならまた奴らが来るのを待つ。誰も口を開かず、辺りは静寂に満ちている。こんな風に静かだと自分の心臓の音がよく聞こえる。奴らが現れるのを待っている時はいつだって緊張し、心臓がバクバクと大きく音をたてる。三年間で多少の慣れてはきたのだが、決してなくなることはないであろうこの緊張感。
何分たっただろうか? 多分それほど時間は経っていないのだろう。体感時間としてはとても長く感じている。現れる。奴らは確実にここに現れる。そんなことは分かっているのに、心のどこかで、奴らが現れないことを期待する自分がいる。
ふと、まっちゃんが何かを感じ取ったかのように、空を見上げた。俺もつられてその視線を追い、はっと息を飲んだ。そこには眼鏡の男、クレイオ。40代と思える隻眼の男。白銀の髪の女がいた。夜の闇のなか空中に浮かぶその姿はどこか幻想的ですらあった。
ついに奴らが現れたのだ――――




