15
「永志、もう少し近づいてもいいんだぞ?」
「うん……でもあんまり近いと……」
俺達がいるのは家の近くにある丘の様な所だ。俺がまっちゃんに会うことで周世界から忘れられたのだから俺の家族を同じ目に会わせるわけにはいかない。そう考えるとこの丘の距離が限界だった。
「今家にいるのは母さんくらいかな……父さんと姉さんは働きにいってる」
時刻は昼過ぎ。母さんは家の中でテレビでも見ているのだろうか。母さんの姿だけでも一目見たかったがそれもかないそうにない。
「この一か月でなんの連絡もないからやっぱり忘れてるんだな。まったく、息子を忘れるなんてひどい親だよ」
「………………」
「母さんは今日も早起きして朝ご飯を作ったんだろうな。いつもの癖で4人分つくちゃってたりして……」
「……永志、そろそろ帰ろう。シコウとアルも待ってる」
この丘についてから約二時間が過ぎていた。母さんが出てこないか、姉さんや父さんがたまたま早く帰ってこないか、などと思ってずっと待っていたのだ。何が自分の気持ちに整理がついてる、だ。未練たらたらじゃないか……。まっちゃんはその間黙って俺を待ってくれていた。
「まっちゃん。付き合ってくれてありがとう。うん、もう大丈夫そうだ。帰ろうか」
「ああ、そうだな帰ろう」
もう俺が帰るべき場所はここではない。本当は帰る場所なんてないのかもしれない。俺達に決まった家などないのだから。
家族と別れるのは正直寂しい。だが俺は一人じゃない。アルとシコウ、そしてまっちゃんがいる。
「まっちゃんは俺達4人の中で一番最初に世界から忘れられたんだよね……寂しくなかったの?」
俺は意地悪な質問をする。寂しかったに決まっている、だがまっちゃんは
「ああ? そんなこと考えたこともなかったね」
強がってそう答える。そう答えることを俺は知っていた。だから聞いたのだ、自分の弱さを隠すために。まっちゃんの強さにすがるために。
「まっちゃんは強いね……身体は小っちゃいのに……なんかムカつく」
「おいおい……そうだ永志。言いたいことがあったんだ。」
「うん? 何?」
「あの……だな……」
「なんだよ?」
いったい何を言われるのだろう。説教でも始まるのだろうか? 確かに二時間も待たしたのは悪かったけど……それは必要な時間であって……。
まっちゃんがおずおずと口を開く。
「……まっちゃんって呼ぶのやめないか? こう見えても俺は18だし……お前は知らないかもしれないがアルなんかにはからかわれる……」
「え? ……っハハハ。なんだよそんなことかよ!」
「………………」
思わず笑ってしまう。どうやら俺の身体的にも精神的にも何倍も強いこの友人は自分が成長しないままであることを気にしていたらしい。
「うーん……どうしようかな~」
「………………」
考えるふりをする。答えは決まっているのに。
俺はこのかけがえのない友人と一歩ずつ進んでいこう。引き返すことはできない道だ。それも今自分がどこにいるのか、終わりがあるのかも分からない道だ。きっと長い長い旅になるだろう。
――――――でもお前と一緒なら、シコウとアルと一緒なら
俺は立ち上がって丘の下に止めてある車の元へ走り出す。
「お、おい!!」
慌てたようにまっちゃんが声をあげる声がどこかおかしく、クスッと笑ってしまう。
今日もいい天気だ。空が青い。まるで夢に出てくるみたいに。
――――――もう後ろは振り返らない
「ほら! 早く行こうよ! 俺達に立ち止まってる時間はないんだろ? まっちゃん!!!」




