木枯らしが吹く瞬間(とき)
「クックック……、日本は女もガキも簡単に手に入るし、最高だな」
日本の治安の良さは世界でも上位に位置しており、中でも安全性についてはトップと言っても過言ではない。
夜中に女性が一人で出歩けるなど、逆に異常と言ってもいいレベルだ。
……しかしそれゆえに、狙う側からすれば絶好の狩場となる危険性も孕んでいる。
「あぇ~?」
「チッ、こりゃ漬け込み過ぎだな」
「日本は教育が行き届いてるから、このくらいの年齢になるとある程度壊さないと釣れないらしいぞ?」
「育児放棄されてるのにか? 全く……、大した国だぜ」
恐らくあの陶酔状態の少女は、何らかの薬物の中毒なのだろう。
昨今はゾンビ煙草などという物も出回っているようだし、日本も決して治安が良いとは言い難くなっている気がする。
本当はああなる前に止めてやりたかったところだが、残念ながらそれは俺の仕事に含まれていない。
「っ!? なんだこの風は!? 」
「……気を付けろ。聞いたことがある。風と共に現れる暗殺者がいると」
少女を運んできた二人は、外国人のようだが流暢に日本語を話している。
一人は俺の正体にも気付いているようだし、ある程度日本の裏社会に溶け込んでいる組織の人間のようだ。
「お前、風の一族――ってヤツだろ?」
「そうだ」
「やはりな。日本では優秀な暗殺者だと聞いている。確か等級があったろう? いくつだ?」
「外でどう呼ばれているかは知らんが、一族の中では疾風の位に属している」
「疾風だと、たしか5番目辺りか? 喜べJ、雑魚だ」
そう言って男はファイティングポーズを取るが、その時点でもうお話にならない。
どうやら、情報しか伝えられていない末端の戦闘員のようだ。
「頼むぜ旦那――ってあれ?」
旦那と呼ばれた男の首は、ファイティングポーズを取った瞬間に落としている。
そしてJと呼ばれた男も、今の言葉を最後に首を落とした。
「もう聞こえていないだろうが、風の一族は暗殺者ではなく殺し屋だ」
「その通り、だなぁ」
「っ!?」
返ってくるハズのない返答が返ってきて一瞬動揺する。
二人の首は間違いなく落とした。一体誰が――
その疑問は、次の瞬間巻き起こった風が教えてくれた。
「……他の同族が介入するのはご法度のハズだが?」
「だから終わってから声をかけたんだろ。まあ今日は忠告だけだ。木枯らし先輩、アンタの時代は終わりだ。次の木枯らしは、俺が頂く」
そう言い残し、男は再び風と共に去った。
……戦嵐が始まる、か。
という、中二病要素満載アクションモノの序章っぽいお話でした。
続きません。




