10、働く、とは?
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見るからにチビでひ弱そうに見えるんか、いちおう男というテイで雇われたのに、俺は女の子のやる雑用と子守をすることになった。まあ、合ってるんですけど。
家にいた時に読み書きを習いに来てたガキんちょの相手してたから、なんとか子守とかできそう。
中庭で洗濯を干していると、おんぶしたガキんちょに髪を草抜きレベルで引っ張られたり、背中で生暖かいナニかを漏らされたり、顔に鼻水を塗られたりしている、なう。
使用人の長のイケズなガマガエルみたいなオバハンには嫌味を言われるわ、大してオモロいことなんかない。
まぁ、お金を稼ぐっていうのは、こういうことですわな。
俺は、あんたらなんか一蹴できるほどの身分なんやで!と妙なプライドを心の中にちらつかせて凄んでみたところで、ソレから逃げ出したんやから、マイナスの身分ですわな。むしろ、ドブネズミ以下の逃亡生活に成り下がりましたのよ。
クェトルはというと、それなりの身なりにさせられて、護衛だか何だかで、屋敷の主人に連れられてどこかへ出掛けてたらしい。さっき戻ってきてた。
下働きではなく、なんか気に入られて、主人の側に置かれてるみたいや。
そらそやな。そこはかとなく漂う気品があるし、結構な男前なんで、見た目だけなら側に置いても恥ずかしくないもんな。まあ、性格はともかく。
屋敷には年頃のお嬢さんがいるから、俺としたら全くオモロない。そういう意味で気に入られでもしたらと思うと、静かに殺意が涌く。
クェトルに領主が『娘のムコにどや?』って言ってきて、特に断る理由もなくあいつは婿入して、俺は何も言えず側で一生使用人を続ける………きぃぃぃー!嫉妬で発狂しそうや!!
…おっと、思わず洗濯物をねじ切ってしまうとこやった。
だから住み込みなんてイヤなんだ。…なーんて、自分の行いは棚に上げて。
無一文で飛び出したりしたから、こんなことになったのにさ。
「ねんねでちゅよ〜ぉォ!」
ヤケクソ気味に乱れた髪で、背負ったこどもをあやしてたら、大きな洗濯かごをかかえた下働き仲間の女の子たちが話しかけてきた。
この人らはイケずでもなく、気さくな町娘って感じや。よそ者の俺にも優しい。
「あの方、ボクのお兄さん?」
「ステキよねぇ」
メイドのコ達がそんなことを口々に言ってる。目がハートになってる?!
もちろん『ボクのお兄さん』ってゆーのは、クェトルである。主人に付いて帰ってきたところを女の子たちは見てたっぽい。
ヤバい。あいつ、しっかり、女の子に目ぇつけられてるがな。ここは悪口でも流すしかない。
「あんなの、何もステキじゃないですよ!ここだけの話、男女見境なしの色情魔で、見た目あんなのでも、けっこう陰湿なムッツリスケベのド変態のキモ男で、あーんなことや、こーんなことをいつも考えてて、この間も痴漢でしょっぴかれてましたし。とてもじゃないけど付き合うとか!オススメしませんぜ?」
よくもまあ、こんなにスラスラと悪口を捏造できたもんだ、というぐらい出るわ出るわ。豊作、大豊作。
「え、そうなんだ…」
メイドたちは、多少引いたみたいやった。むしろドン引き??
お前を陰で酷評してスマン!守る為やから、許せ!
…とか思いながらも、俺って自分勝手で、なかなか酷いなとも思うのであった。
逆に、この噂が回っていって、二人まとめて解雇されたらどうしようとも思うけど、そんなことより守るべきことが、俺にはある。
俺の悪口作戦が効いたのか、少なくともメイドのコ達の熱視線は遠ざけることができたようやな。ふぅー…あぶねぇあぶねぇ。
ただ、お嬢様にだけは、下賤の噂とか悪口とか届かんみたいで、傍から見ればイイ感じに見える。手ぇなんか握られて…きぃぃい!悔しい!
てか、普段から、あの人こんなにモテてましたっけ??この屋敷の女の子のシュミがおかしいんかな??
もしかして、屋敷の主人さえも狙っているのかも!ありうる…。もはや心配しかない。
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